第36話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドという場所を教えてもらいながら、向かってみると、そこには……


「これが……冒険者ギルドか……なんだか、想像していたのとはかなり違うな」


 ものすごくオンボロな建物があった。


 たしかに看板が着けられていて、『冒険者ギルド サンゼロ支部』と書かれてはいるが……。


 大丈夫なのか?


 かなり不安になってしまうが、回りにいる冒険者っぽい人達は気にせず、建物を出入りしている。


「何しているのよ。早く行くわよ」


 気にしているのは僕だけなのか?


 この非常識な状況に慣れるのに時間がかかりそうだ。


「ちょっと待ってよ。ミーチャは不思議に思わないの?」


「何が?」


 何がって……おかしくないか?


 冒険者ギルドと言えば、王国でも商業ギルドと二分するほどの大きな組織だ。


 ボリの街でも、ギルドの建物と言えば、それは大きなものだった。


 しかし、目の前にあるのは……たしかに大きいが……大きいだけだ。


 かつては倉庫か何かだったのだろうか?


「まったく、ロスティも頭が固いわねぇ。もう少し柔軟に考えれば分かるはずよ」


 ……全くわからないけど。


「いい? ここにダンジョンが出来たのは、つい最近よ。もともと、ここには冒険者ギルドはなかったの。もう分かるでしょ?」


 つまり、このオンボロギルドは急拵えだからってこと?


「そうよ。それに冒険者ギルドに本来建物なんて不要よ」


 どういうことだ?


「冒険者がいればいいってこと。ギルドっていうところは所詮は事務手続きをする場所なんだから、小屋だっていいのよ」


 確かに言われてみればそうだな。


 ボリの街のを見ていたせいで、先入観を持ちすぎていたのかも知れないな。


 これは反省しないとな。


「こんなところに突っ立っているのは迷惑だから、行くわよ」


 今日のミーチャは頼もしい。


 ああ、先輩面ってやつか?


「何か、言ったかしら?」


「いえ、なにも……言ってません」


 つい、敬語になってしまうほど、ミーチャの目つきが鋭く光っていた。


 中に入ってみると、さすがの熱気と言ったところか。


 ここにダンジョンが出来てから、日が浅いとは言え、王国中の冒険者が集まっているらしい。


「おい、どけ!!」


 扉の近くにいたせいで、後ろから来た人がぶつかってきた。


 体が山のように大きい。まさに巨大な筋肉。これが冒険者なんだな。


「おいおい。なんだ、その貧相な装備は。駆け出しもいいところじゃねぇか!!」


 声が大きい。


 周りはそれに反応するかのように、嘲笑を浴びせてきた。


「お前のような無能者が来るところじゃねぇんだ!! とっとと……あん? 何だ、その目は?」


「僕は……無能者じゃない!! 取り消せ」


「その目は気に食わねぇな。やるっていうのか?」


 そう言うや否や、巨体とは思えない早い突きが飛んできた。


 分かっている……見えているんだ。


 でも、体が反応しない。かろうじて、飛び退いて躱すことが出来たが……


「あめぇな」


 僕が転がった先に、巨体の後ろ足が飛んできて、一瞬で僕の体は壁に向かって吹き飛ばされていた。


「がはっ……」


「駆け出しのひよっこの分際でオレに楯突こうなんて十年はええんだよ。無能者は薬草拾いしているのが、お似合いだぜ。あっはっはっ!!」


 まるで勝ち目がなかった……あの巨体で、あの素早さ。


 何のスキルかは分からないけど、相当な熟練度に違いない。


 周りでは、バカにするような嘲笑がしばらく続いていた。


「ロスティ!! 大丈夫!!?」


「ああ。ごめん。もうちょっと大人にならないといけないよね」


 無能者という言葉を聞くと、どうしてもアイツを思い出してしまう。


 その憎しみをどうしても抑えられなくなってしまうんだ。


 分かっているつもりなのに……


「馬鹿ね。あれでいいの。いい? 冒険者はなめられたら、おしまいよ。今は実力が足りないかも知れないけど、さっきの人は絶対にロスティを悪く思っていないはずよ」


 そういうものなのかな?


 でも、ミーチャにそう言われれば、そうかもしれないと思ってしまう。


「ありがとう。でも、あの巨体であの動き。只者ではないよな」


「そうね。だけど……冒険者ギルドには、あれくらいのがたくさんいるわよ。あんなので驚いていたら、冒険者なんてやってられないんじゃない?」


 へ? そうなの? てっきり、S級冒険者かと思ってたよ。


「S級冒険者なんて、見れるわけないじゃない。精々、BかCってとこじゃないかしら?」


 あれで……あれ? そうなるとB級の赤き翼ってもしかして凄い?


「人格的には最低だけど、腕でいったら相当なものよ。ちなみに、王国ではS級とA級って本当に一握りしかいなくて、特別な存在なのよ。だからギルドではB級が実質的には頂点みたいなところがあるのよ」


 へぇ……あれがねぇ……とても想像が出来ないけど……


「それよりも手続きだけしちゃいましょうよ。私はさっき済ませちゃったから、ロスティの分をやっちゃいましょ」


 いつの間に……喧嘩している時か?


 ミーチャの案内で来たのは、受付という看板が吊るされている場所だ。


 朝一で来たつもりなのに、長蛇の列だ。


「この人達も登録なのかな?」


「分からないけど、多分そうだと思うわ。ロスティみたいに新規で登録ってわけじゃなくて、私みたいに変更の方だと思うの。やっぱり、新しいダンジョンってそれだけで魅力的だし、お宝が手に入るチャンスも多いって思っているんじゃないかしら」


「実際は?」


「そんな事無いんじゃないかしら? 基本的には宝箱みたいなものは、ダンジョンの最奥にしかないし、そこまでの実力がある人なんて少数よ。だから、私達みたいにランクの低い人達はモンスターからのドロップとか、薬草採取とかをするの」


 つまり、強い者が総取りという感じでいいのかな?


「そうとも言い切れないけど……例えば、モンスターに遭いにくいスキル持ちとかは、奥にどんどん進んで、宝箱だけ手に入れてくるって方法があるわ。私も擬態や隠し身が得意な闇魔法があるから、出来なくはないわよ」


 なるほどねぇ。


 でもミーチャって薬草採取しかしていないよね?


 宝箱を持って帰ってきたって話、聞いたことがないんだけど。


「出来るってだけの話よ。モンスターだって色々いて、察知に特化したやつだっているんだから。そんなのに出くわしたら、私、死んじゃうわよ。だからやらないの。命知らずの特権ってやつよね」


 ……。


「何考えているのよ」


「いや、ミーチャもちゃんと冒険者していたんだなって思って」


「稼ぎが少ないからってバカにしているんでしょ!! もう、ロスティのバカ!!」


 行列の中で馬鹿騒ぎ。


 またさっきとは違う嘲笑を浴びることになってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る