第35話 side タラス③

「くそ、くそ、くそ……なんで、オレがこんな事をしないといけねぇんだ!!」


 親父に言われ、早速領内を虱潰しに忌み子を探し始めた。


 最初は部下共にやらせていたけど、親父はそれにも命令してきた。


「ナザールの名は決して出すな。ゆえに部下も使うな。お前一人で探すのだ。よいな?」


 くそっ!! 親父は本当に探す気があんのか? 


 こんな広い領土をオレ一人で探せるわけねぇだろうが!!


 ちっ……やってられねぇぜ。もうどうにでもなれっていうんだ。


 体がうずくぜ……おっ!! いい娘がいるじゃねぇか。


「きゃっ!! なにするんですか!!」


「いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし……オレはナザー……」


 ちっ。名前が出せねぇのは不便だぜ。公子っっていやぁ誰も逆らわねぇのによ。


 女は執拗に暴れているうちに、村人に見つかっちまった。


「オレの妻になにしてんだぁ!! この野郎!!」


 めんどくせぇな。


 帯刀している木剣で、襲い掛かってきた男をねじ伏せた。


 弱いやつだ。まるでロスティみたいだな。


 女なんて放っておいて、見逃せば痛い目に遭わずに済んだものをな。


 うずくまっている男を更に木剣で殴りつける。


 さてと……続きをしようか……


 女に覆いかぶさろうとすると、今度は爺さんが出てきた。


 またかよ……めんどくせぇ。


 木剣で叩き潰そうと、剣を振るったが……あん? どこに消えやがった?


「ここじゃよ」


 それだけ聞こえて、気づいたら牢屋だった。ここは……?


「おい、そこのお前。出ろ!!」


 言い方にムカついて、木剣で殴ろうとしたが木剣がない。それどころか、自由がきかない。


 縄で手が縛られていた。


「てめぇ。こんなことをしてタダで済むと思うなよ」


 オレが言えるのはそれが精一杯だ。名前を出せないのがこんなに面倒だとは。


 名前を出せば、ここから出るのは簡単だが、親父はこれみよがしにオレを殺しに来るかも知れねぇ。


 それだけはなんとしても避けねぇとな。


 後継者の地位を確定するまでは……


「お前こそ、村人に不埒を働いて、タダで済むと思うなよ。これから、王城で取り調べをした上で刑を言い渡す。まったく若者が贅肉だらけになって……だから精神が緩むのだ」


 余計なお世話だ。


 まぁ、王城に行くって言うなら、話は早くて助かる。


 あそこにはオレの部下もいるし、なんとなかるだろう。


 ……???


「あん?」


 どうしてこうなった?


 オレは国境近くに放り投げられた。


 縄は解かれているが、木剣も奪われ、ボロい服だけを着せられている。


 事情が全く飲み込めないでいると、近くの林から近づく影が。


 部下のドランがきょろきょろとしながら、こちらに小走りでやって来た。


「タラス様。お待ちしておりました」


 どうやら迎えのようだな。


「遅い!! 何をやっていたんだ」


「申し訳ありません。王城からなかなか抜け出せなくて……」


「まぁいい。とりあえず、服と食い物だ。腹が減っている」


 そういうと、ドランはおどおどした様子でまごついている。


「す、すみません。どちらも用意は出来てないんで……」


「使えねぇやつだな!! その辺から村から取ってこい!!」


「タラス様。そいつは止めておいた方が……オレはタラス様に付いていこうと思って……」


 何言ってやがる? 意味が分からねぇ。


 ドランの話を聞いていると、ようやく分かってきた。


「ふざけんじゃねぇ!! どうしてオレが廃嫡なんだ!?」


「声が大きいですよ。廃嫡になるかも、ですよ。忌み子が居なくなったのは一部ですが王城でも噂になっています。それが見つからないと、ってことですよ」


 同じだろうが!! いなくなった忌み子を見つけ出せるわけねぇだろ!!


「いや、そんな事はないですよ。どうやら、この先の関所にあやしい男女が随分前に通過したそうなんですよ。衛兵が追いかけたが、煙のように消えたとか……似てませんか?」


 なるほどな……話ではロスティが逃げ出した時間とはかなり食い違うが……消え方がそっくりだ。


 となると、忌み子は王国に逃げたってことか?


 いやしかし、前に来た侍従長とかいうおっさんの話では、忌み子は確認されてねぇ。


 ってことは、王国内でも忌み子はどういう訳か、王国の庇護は受けてねぇってことだ。


「オレにもチャンスがありそうだな」


 単独か、それともロスティと一緒か分からねぇが、自由に動けない事情があるとすれば、見つけるのもそこまで難しくないはずだ。


「とにかく、王城に戻るぞ。このことを親父に報告しねぇとな」


「タラス様……残念ですが、それは出来ません。タラス様の入城は禁止されてます。行けば、捕まるだけですぜ」


 ふざけるな!! オレは後継者なんだぞ。城はいわば、オレのものになるはずだ。


 オレの家に入れない理由があってたまるか!!


「いや、しかし……」


 しかし、ここで駄々をこねているわけにもいかねぇ。


 親父が当てにならねぇ以上、オレがやるしかねぇか。


「見とけよ。絶対に見つけ出して、親父……戻ったら、ぜってぇ、殺してやる!!」


 ドランか……こいつはいつも、オレにべったりだ。


 付いてきたいというのなら、付いてこさせてやる。精々、こき使ってやるぜ。


「行くぞ。ドラン」


「はい!! タラス様に一生付いていきます!!」


 オレの冒険が今、始まる。


 忌み子を見つけて、結婚をする。


 王国を味方につけたら、親父に退位を強要して……あとでブスリだ。


 それから忌み子を適当に幽閉して、好きな女ともでハーレムを作る。


 へへっ……最高だな。


「ドラン。それでまずはどこに行くんだ?」


「それでしたら……ボリの街がオススメです。あそこは大きな街ですから、情報を得るにはそこが一番かと」


 ほお。大きな街か……王国の女を抱くのも面白そうだな……


 

 タラスは知らなかった……この先に待ち受ける地獄が如何様なものか。


 そして、落ち目のタラスに都合よく付いてくるドランの目的は一体……。

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