第32話 『錬成師』スキル
ボリの街を出ると、そこは何の障害物もない平原が広がっている。
追われている身としては隠れる場所がないことに、夜間であっても不安を感じてしまう。
でも、横にはミーチャがいる。こんなに心強いことはない。
それに、公国を脱出したときとは違う。
しかし、『戦士』スキルを得たことで、逃げ切れる可能性が格段に上がっているだろう……試していない以上、慢心は危険だな。
「これでボリの街とはお別れね。こんな形で離れることになるなんて思ってもいなかったわ」
「そうだね。僕も思ってもいなかったよ。だけど、次はしっかりとギルドを通して仕事をするから大丈夫だよ……きっと」
「なんだか、不安が残るわね。まぁ、今はそれが一番ね。ギルドが気に食わなくても、我慢するしかないものね」
とにかく、この辺りを抜け出したいところだな。
もしかしたら、商業ギルドの連中がウロウロしているかも知れないからな。
「行こう。ミーチャ」
「うん。なんだか新しいことをするって、楽しみね。こんな形じゃないほうがいいけど」
……ご尤もです。
ミーチャと全力で走っていると、ポリの街から十キロメートル位で森に入ることが出来た。
ここなら隠れることも出来る。
ここいらで一度休憩を取った方がいいだろう。
「それにしてもロスティの身体能力は凄いわね。『戦士』スキルなだけはあるわね」
「僕も驚いているよ。まさかスキルを得ただけで、これだけ身体能力が上がるとは思ってもいなかったよ」
本当に驚きだよ。
これがスキルを持っている人とそうでない人の差。
まさに見える世界が変わると言ってもいいくらいだ。
「私も闇魔法のスキルを得た時は驚いたものよ。ロスティは元々、鍛錬を欠かさなかったから伸び代も凄いんじゃないかしら。これなら冒険者として十分にやっていけると思うわ」
だといいな。
まだ世界を知らない。
だから、自分の実力というものがどんなものか全くわからないけど……
今まで鍛錬を欠かさなかったことが、どこまで通じるのか、それを知ることだけでも興奮してしまう自分がいる。
「そう言ってくれると嬉しいよ。そういえば、すぐに街を出てしまったけど、ミーチャは冒険者ギルドで手続きとか必要なかったのかい?」
「ああ、それは大丈夫よ。私はボリ所属ってことになっているけど、冒険者はギルドのある街でならどこでも活動が出来ることになっているのよ。だから、サンゼロの街で居場所を登録するだけでいいのよ」
ちょっと安心した。
僕の都合で、夜逃げ同然だったから。
「へぇ。冒険者のほうがあまりむずかしいことを考えないで良さそうだ。サンゼロの街に着いたら、早速、冒険者ギルドに行ってみようか」
「それがいいわ。そういえば、色々あったから話しそびれていたけど、『買い物』スキルが☆6になっていたなんて驚いたわ。私なんて、街に来てから一つも熟練度が上がっていないのに」
ミーチャの熟練度は☆3らしい。
それでも結構凄いらしいが、一月も冒険者として闇魔法を使っているのに熟練度が上がっていない。
それほど熟練度を上げるのは時間のかかることらしい。
全然、実感が湧かないな。
けど、この秘密はミーチャには打ち明けておいた方がいいような。
「僕も驚いているよ。それでね。ミーチャは初代様の墓で見つけた手紙を覚えている?」
「ええ。もちろんよ」
「思うんだけど、『錬成師』スキルがスキルに何かの作用をするって話だったと思うんだけど、この事じゃないかと思うんだ」
「つまり、『錬成師』スキルがあるおかげで熟練度が上がりやすいってこと?」
考えた結論はこれしかなかった。
「うん。それぐらいしか考えられないと思うんだ」
「そうね……たしかにロスティの熟練度の上がり方は異常だもの。でも、それが本当だったら凄いことよ。どんなスキルでも熟練度をすぐに☆6に出来るなら、何でも極められることになるわ」
「そうかな? でも爺さんにはこのことは誰にも知られないほうが良いって言ってたから、あまり派手には動けないよな」
「たしかに、そうね。スキルはどうしても教会かスキル屋に行くしかないから、秘密は漏れやすいわ。秘密を知った誰かがロスティに危害を加えてこない保証はないものね。でも、勿体無いわね。せめて、私の闇魔法のスキルを上げてほしいわ」
なるほど。そういう方法もあるのか。
仲間のスキルの熟練度を上げる。
それが出来れば、仲間の危険も回避できるし、なによりも活躍もしやすい。
「そうだね。何か方法がないか考えよう。出来れば、僕がスキル授受が出来るようになれば良いんだけど」
「それよ!! まずはそれを手に入れるところを目指しましょう!!」
「そうだね」
目標が出来て、なんか楽しくなってきたな。
とりあえず、冒険者として活動をする。
その間にスキル授受ができるスキルを探す。
それを当面の目標にした。
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