婚約破棄をされて落ち込む貴女に愛を捧げるー彼女と過ごす夜に、全てが貴女の計略と知っても、愛しい貴女と共にいられる喜びに溺れたいー
まさかの
第1話
護衛騎士として私レイラ・ヴァイオレットが舞踏会で見守っている中でそれは起きた。
「アメリア・スカーレット、君との婚姻は解消させてもらう!」
大勢の貴族が集まる舞踏会で放たれた言葉は、騒がしかった話し声を一瞬で鎮まりかえした。
綺麗な宝石のような赤い髪を持つアメリアは誰もが羨む美貌を持ち、また王子の婚約者として絶え間ない努力を行う素晴らしき女性だった。
大きな青の瞳が揺れており、彼女にとっても驚きの一言だとわかる。
私の目の前で親友のアメリアが本来結婚するはずだった王子レオン・エリオットに、大勢の目がある中で信じられない辱めを受けていた。
「それは、どういう……ことでしょうか──?」
震える声でアメリアは王子にその真意を尋ねた。
だがそんな震えたアメリアに王子はきつい目を向けるだけだった。
「分からないのか? お前はいつも遊び呆けて、ろくに婚約者としての責務を全うしていないではないか!」
何を馬鹿なことを言っている。
彼女が働かない王子に代わってどれほどの執務が皺寄せてきていると思っている。
お前が別の令嬢と楽しくしている間にも、彼女は国のために頑張って来たのだぞ。
だが王子にはそんなことは関係ないようだ。
「私は、ずっと貴方のために……」
とうとう堪えきれなくなった瞳からどんどん涙が出てきている。
令嬢が人前で涙を流すのはあまりよろしくない。
私はすぐに駆け寄った。
「アメリア……」
肩に触れると彼女は震えている。
元々は政略結婚として婚姻を結んだ二人に愛があったのかわからない。
それでも彼女の頑張りは私が常に見ていた。
だからこそ許せない。
「ふんっ、そうやって自分だけが悪者か」
王子は興味なしとすぐさま仲良くなった令嬢とどこかへ向かった。
崩れ落ちていく彼女には目を向けずに。
私は小さくなる彼女を抱き抱えて、すぐさまお屋敷へお連れした。
ベッドに座らせたが、彼女の放心している。
「温かい紅茶を出そう。そうすれば、少しは──」
「放っておいて!」
突然大きな声で怒鳴られた。
下を向いたままポツン、ポツンと涙が出てきている。
「ごめんなさい……レイラは、悪く、ないのに……」
すぐに近寄って彼女の背中をさする。
少しでも安らいで欲しいという純粋な気持ちで、私は彼女が眠りにつくまで側にいた。
だが彼女はまだ立ち直ることはできなかった。
二日も食事を取らず、どんどん弱っていった。
「今日も部屋かね」
アメリアのお父様が部屋の前で護衛をしている私に尋ねてきた。
「はい。このままでは……やはり、レオン王子に──」
「それは絶対にさせぬ!」
一番はあの王子に復縁をしてもらうこと。
だがアメリアの家族は猛烈に怒っており、私も同意見だ。
それでも彼女が無事でいてくれるのならなんだっていい。
──いつから、彼女のことを好きになっていたんだろう。
私は絶対に好きになってはならない人を好きになってしまった。
自分の主人というだけでなく、女の私が同じく女性のアメリアを好きになってしまうなんて。
これは絶対に気付かれてはいけない恋だ。
彼女の幸せのために王子との婚姻を喜んでみせたのに、これでは私は何のために心を押し殺したのだ。
私は部屋へと入り、ベッドで横になる彼女の近くへ寄った。
何を言えばいいのだろう。
今なら一回くらいは話を聞いてくれる気がする。
だが何も思いつかず、咄嗟に言葉が出た。
「アメリア、しばらく私の家に来ないか?」
アメリアの反応はなかった。
私も冷静な気持ちになるにつれて、自分が下心のある言葉を言ってしまったと後悔した。
「聞かなかったこ──」
「行く」
アメリアが寝返りをうって答えてくれた。
少し覇気のない彼女だが、それでも答えてくれたことが嬉しくて、私はすぐに実家へ帰る準備をした。
私の実家は田舎にある古い家だ。
農民たちと距離も近く、貴族な中では裕福ではないが、人の温かみのある場所だった。
アメリアとは城の中庭で偶然出会ってからよく話すようになり、一緒の貴族院で勉強して、いつしか私は護衛騎士として彼女の側で働くようになった。
「何もないところだけど、自然が多くて静かだからゆっくりできると思う」
久々の帰郷がこのような理由でなるとは思わなかったが、少しでも彼女の体調が戻るのなら何だってする。
父と母がアメリアの来訪に笑顔で迎え入れてくれた。
「アメリア様、ようこそお越しくださいました。レイラから話は聞いておりますので、いつまでもゆっくりお過ごしください」
「ありがとう、存じます」
まだ食事を取れていないので彼女の言葉も掠れている。
私は長旅で疲れている彼女にすぐに部屋へ連れていった。
窓から山も見えるので、一番眺めがいお客様用の部屋だ。
「ここは、変わらないね」
「うん、何もないことが誇りの領地だからね。そういえば──!」
私は走って外にいき、サルビアと呼ばれる赤い花を取ってきた。
それをアメリアに持っていき渡した。
アメリアは不思議そうにそれを見ていた。
「覚えてる? 前にこうやって二人で飲んだの?」
私は思いっきり吸い出した。
この赤い花の蜜は吸えて、さらに甘いのだ。
子供の頃はたまにこうやって内緒で吸ったものだ。
「こらっ、レイラ! アメリア様になんて物を食べさせる気だよ!」
「お母様! ちがっ、これはそのッ!」
こうやって怒られるからいつも隠れて吸っていたのに、久しぶりで忘れてしまっていた。
ガミガミと怒られながら、アメリアが吹き出した。
「ふふふっ……」
アメリアの久々の笑顔に嬉しくなった。
そして彼女は手に持っているサルビアへ、はむっ、と可愛らしく口に入れて吸っていた。
「懐かしい、ね……本当、に懐か、しい……」
涙が流す彼女の近くに寄って抱きしめた。
少しでも嫌な記憶が消えるように。
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