異世界の歩き方

(´・∀・`)ヘー

第1話 前世は公爵令嬢

その時、凄まじい衝撃が走った。

(あ、こりゃ死んだわ)

四十川隼(あいかわしゅん)は突進してきた大型トラックに弾き飛ばされながら思った。

それはある日の帰校路だった。

人は死ぬ直前にそれまでの生を思い出すらしい。

今生ではまだ17年ぐらいしか生きていない彼も例に漏れず思い出す。

しかしその思い出に自分が経験していないはずのものが混じっていた。

(あ、なんだこれ・・・。魔法・・・?」

回復魔法の方法が何故か隼の頭の中に生まれる。

ほぼ無意識に、反射的にその回復魔法を発動させる。

同時に絶対防御魔法も発動した。

大型トラックにぶっ飛ばされた彼の体は全快しつつ、運動エネルギーを消失させた。

つまり、空中で止まったのだ。

なぜ、こんな物理法則に真っ向から挑戦するような真似が出来るのか、彼は正しく理解していた。

(俺は・・・いや、わたくしはこれを知っている。この感覚は・・・魔法・・・。)

掌を見ながらすーっと地面に降りてきた。

周囲の人物はあ然としていた。

「あ・・・マジック、これはマジック!」慌てて隼は言い訳を言う。

この世界に転生して17年、流石にこの世界のルールは知っているつもりである。

科学万能の世界に、ニュートンの法則を完全に無視するようなことがあってはならないのだ。

前世で言えば異端審問ものだ。

確かにこの世界でも異端審問はあったが。

魔法は英語で言えばマジックである。

しかし日本ではマジック=手品という認識が浸透してしまっているのだ。

しかし、目撃者から言えば、手品の範疇を遥かに超越していたのだった。

彼の主張は残念ながら効果が無いと言わざるを得ない。

「なあ、お前もすげえと思っただろ?俺の手品。」

同行していた河合純菜に話を振った。

「え!?」

彼女も他の人間同様、唖然としていたが、突然、話を振られた彼女は困惑していた。

「今度の学園祭で使うネタなのさ。さあ、行こうぜ。」

と言いながら純菜の手を引っ張ってその場から逃げた。

しかし無理があり過ぎた。

後日、とある動画サイトにその映像がアップされ、学術的にも大論争が巻き起こることになるのだ。


「で、どういうこと?」

案の定、純菜は逃すつもりはないらしい。

家の近くまで走って逃げて来たが、すぐそこまでの所で純菜は手を離して言ってきた。

「マジックって事にしてくれんかな。」

「うん。無理。」

即答である。

「ですよねー。ははは‥はあ。」


その世界は地球と違い、当たり前に魔法が存在する世界だった。

隼はかつてそこの某王国の公爵令嬢だった。


「え?令嬢?」

「いわゆるTSってやつだな。ラノベやなろう系でよくあるネタだけど。」

ため息をつきながら隼は言った。

「まさか自分が当事者だったとは。」

とまで言った時に隼はハッと顔をあげる。

2人の周りに魔法陣が展開していた。

「な!」

思わず純菜は強ばった。

おもむろに隼は何事か唱え、地面の魔法陣に触る。

すると魔法陣がパリンと割れたようになり消滅してしまった。

「勇者召喚用の転移魔法陣だよ。‥馬鹿が。やめとけって言ってたのに。」

隼は独り言みたいに呟く。

「しかしあの世界は特定した。」

「どういうことですかねえ、、。」


「何!?」

ここはとある王国のとある王城である。

筆頭魔法師アグリス=アンは唖然としていた。

「魔法陣が破壊されただと?馬鹿な。あり得ん事だ。」

勇者召喚用の転移魔法陣は、亡くなった公爵家の令嬢で前筆頭魔法師の天才・セレナ=エンフィールが開発した恐ろしいほどの複雑高度な魔法式が込められた術式であった。

彼女の遺言でお蔵入りしていたが、そうも言っていられなくなった。

魔王が復活したのである。

そんなわけでお蔵入りしたこの魔法を使ったわけだが、あっさりと破壊されたのだ。

「ま、まさか」

これを破壊できるのは作成者しかいない。

「あ・・姐御?」

まさかと思う。

だって彼女は死んで大聖女の列に加わったのだ。

国を挙げて盛大に葬儀を行ったのだ。

そして彼女の遺体は今も大聖堂地下に眠っている。

だから復活したわけではないのだ。

仮に復活したら莫大な魔力が感知出来るからすぐに判る。

折檻から逃れるため全力で逃亡する所存だ。

「まさか、転生されたのか?姐御よ。」

生前、彼女はそのことについて一言も彼ら、弟子たちに言ってはいなかった。


「とまあこんな感じで転生したら、科学文明の世界に転生してた件。」

隼は自分の部屋にて純菜に説明していた。

「性別まで指定してなかったからなー。純菜、信じられねーって顔してるけど。」

「悔しいけど信じるしかないじゃん。実際、魔法見たんだしさ。」

純菜は言った。

「何あれ?トラックに轢かれたのに一瞬で傷が治った。空中で突然止まって電信柱にたたき付けられなかった。」

不服そうである。

「学校の物理が馬鹿馬鹿しく思えてきたんですけど。」

「確かに魔法は物理法則を無視してる所があるさ。まさかこっちの世界でも使えるとは思わなかったし。ていうかついさっきまで忘れてたしな。」

苦笑しながら隼は言った。

「さっきのアレはこちら風に言えば、ワームホールをこじ開けて次元を越えて、物質を呼び出す術式だ。

いわゆるワープ・・・瞬間転移とはまた違う。一種のパラレルワールドを越える為の術式。

・・・まあアインシュタインの一般相対論すら無視してるよな。」

彼はそこで一息ついて、指先を指しだした。

すると炎が発生した。

「これは火炎魔法の初歩的なものだが、これもエネルギー不変の原則を無視してるかな。

ようするに魔法とは物理法則何それ美味しいの?っていう能力なのさ。

俺がかつていた世界には科学は無かった。が、代わりに魔法があった。」


何とか純菜に言い聞かせて、帰らせ、夕飯と風呂に入った隼は自分の部屋でくつろぎながら思った。

(さて、あんなもん使ったアホ弟子に挨拶くれてやろうかな?)

その時、彼の部屋に魔法陣が発生する。

純菜を早く返したのは再びの召喚があると予想してたからだ。

最初に彼(彼女)が魔法術式を作ったときに、あらかじめ設定していた。

その世界で一番強い魔力を持つ者を召喚するようにと。

この地球で一番、魔力が強いのは誰か?

隼である。

再度、バカが勇者召喚を行ったらもちろん彼が召喚されるし、今度はさらさら魔法陣を破壊する気は無かった。


なぜか笑顔の少年が魔法陣に召喚されてきた。

「ようこそ勇者どの。私はエルフィレシア王国の・・・。」

「・・・久しいなアグリス。」

その少年はなぜか自分の名前を知っていた。

「む?」

「俺が誰か判らないのも無理はないか。・・・お前の魔眼で俺をよく見てみろ。」少年は言った。

アグリスはただ事ではないと思い、とっさに魔力で少年を視る。

すると嫌というほど見慣れた魔力がそこに居た。

「ん~?・・・あ、姐御!!!!????え?」

「俺言ってたよな?その召喚魔法陣は術者の魂削るから止めろって。」

なぜか超おっかない姐御の気配がする少年がそう言いながら近寄ってくる。

「かつての俺が・・・、セレナ=エンフィールがなぜ短命だったか知らないはずはあるまい?」

もっとも、短命といってもエルフ族だったから600歳ぐらいだったが。

だから人族だった国王すら小僧扱いされ、頭も上がらなかったのだ。

ジャンピング土下座したアグリスアン。

「すんません!姐御!いや、師匠!」

「理由があるなら聞いてやる。納得出来なかったら折檻な。

もちろん納得出来ても折檻だが。」

大変、理不尽である。

「ひッ、ま、魔王が復活したのです!」

「魔王だと?あいつも俺の弟子だったが・・・。弟子同士でケンカすんな。あ?」

おっかない姐御、セレナ=エンフィールそのままの気配で少年は脅す。

「イエスマム?」

その言葉の意味も分からぬまま、動揺しまくったアグリスアンは復唱する。

「イエスマム!!」

「今の俺は男だ。イエスサーだろ?」

さらに目の前の悪魔みたいな姐御(見た目少年)は理不尽な追及をし出した。

「イエスサー!」

涙目で言われるままに復唱するアグリスアンだった・・・。


「相変わらず紅茶を入れる腕前は天下一品な。」

少年はイスに座って優雅に紅茶を楽しむ。

まるで貴族である。

何と言っても隼の前世は公爵令嬢、このくらいの作法はなんてことはない。

しかし言ってる事はブートキャンプの鬼軍曹だ。


「これからはクソ垂れた後はサーとつけろ。」

「イエスサー!」

隣りに直立不動なアグリスがいた。

「それから今の俺の名前は、シュン=アイカワ。これからはそう呼ぶように。」

「イエスサー!」

「俺が死んで何年たった?」

「2年であります!サー!」

「2年!?」

「そうであります!サー!」

「・・・俺の遺体はどうした?」

「大聖女様として大聖堂に安置してあります!サー!」

「他の連中はどうしてる?」

「殿下は王位を継ぎました!サー!

エイドリアンは地元に戻りました!サー!

セレナ様のお父上のエンフィール公爵閣下は引退し、領地に引き上げられました!サー!

弟君が後を継いでおられます!サー!」

「軍曹ごっこは終わりだ。普通にしていい。」

「サーイエスサー!」

某鬼軍曹になりきるのもちょっと飽きた隼だった。


「それにしても2年しか経ってないのか。」ちょっと隼は考えた。

今生では17年ほど生きている。計算が合わない。

次元が違うから時間の経過が違うのかもしれない。

「俺の転生は秘密にしたほうがいいだろ。」

「師匠のお弟子は多種族に及び、相当数おられます。影響が大きすぎます。」

「・・・これからの俺への敬語は禁止する。

よろしいか?アグリス筆頭魔法師団長殿。」

「は?いや、それは、しかし・・・。」

「今の俺はただの異世界人だし種族もただの人間だ。

魔法師筆頭の者が、どこの馬の骨とも知れない輩に敬語とか政敵に突っ込んでくださいといってるようなもの。

力づくで政敵を叩き潰していセレナと違い、政敵はいるだろう?」

「はい。残念ながら。」

「それから召喚魔法陣は細工して定着させた。用があるときは呼べ。」

「それはつまりこれからも関わってくれるということで?」

「この王国は俺・・・いや、セレナが育てた。見捨てる選択肢は無い。

その代わり。」

ギロッとアグリスを睨む。

「2度と召喚魔法陣を使うなよ?死ぬぞ?

アレはお前みたいな人間が使えるものではない。

もちろん今の俺にもな。

長寿種のエルフだったからこそ使う決心がついたのだ。」


「き・・・肝に命じます。」冷や汗をかくアグリスだった。

「俺の転生を知らせる者は任せる。王家や実家の公爵家には流石に黙ってるわけにはいかないだろうから。」


棺の中にまるで眠ってるようにその令嬢は寝ていた。

大聖女セレナ=エンフィールである。

彼女の評価は人によって異なる。

ある者は聖女そのものだという。

またある者は天才魔法師だと評価する。

そしてまたある者はおっかない師匠だと評価した。

彼らの共通の評価は、黙っていれば、大変美しい公爵令嬢だった。

そして信望者も多数いたのである。

その大聖女の瞳が開いたのだった。

当然、教会をはじめとして人々は仰天し祈り始めたのだった。


大聖女セレナ=エンフィールの復活を。

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