第31話 ホワイトデー
ホワイトデー。それは日本発祥の慣習である。日本企業の商業戦略によって生まれた慣習だ。要するに「土用の丑の日のウナギ」と同じなのである。
そんな商業戦略に多くの日本人は踊らされている。関都もその1人である。関都は城之内と三バカトリオ、それに慈美子を学校の屋上に呼び出していた。
「関都さん。用事ってなんですの?」
今日はホワイトデーなのは城之内も重々承知だったが、ホワイトデーのホワイトに相応しいぐらいに白々しくしらばっくれていた。
「今日はホワイトデーよね?」
慈美子は隠し立てをする事もなく、平然と口にした。城之内は厚かましいと明らかに嫌悪感を示した。
しかし、関都はそんな事気にも留めていなかった。
「そうなんだ。だから4人に渡したいものがあって」
関都は4人に同じ大きさ・同じ包装の箱を手渡した。城之内以外は皆嬉しそうである。関都は箱の中身を説明した。
「中身はホワイトチョコなんだ!ホワイトデーだからな!一応手作りだ」
「まあ!ありがとう関都くん!関都くんも私と同じく手作りに挑戦したのね!」
「ありがとう関都くん!」
「安物のチョコのお返しが手作りだなんて気が引けるけれど…」
「大事に食べるわ!」
慈美子と三バカトリオは大喜びである。しかし、城之内は不満であった。4人のチョコに差が無いのが不満なのである。本来ならば、自分が一番良いチョコを受け取るべきだと思っているのだ。少なくとも三バカトリオよりはいいチョコでなければ納得が行かない。
しかし、城之内はその不満を押し殺して関都にお礼を言った。
「ありがとうございますの。関都さん」
「城之内の高級チョコに見合うものじゃなくて悪いんだが…」
「いいえ!お気になさらなくて結構ですの!」
そう言いながらも、チョコに差を付けてくれなかった事に城之内は内心ショックを受けていた。それを悟られないように、三バカトリオを引き連れ、城之内はその場を逃げるように去って行った。
4人を見送った関都は、しめたというような顔をした。
「慈美子!僕がやったチョコを今ここで食べてくれないか?」
「ええ!?今?」
「うん。食べた反応が見たいんだ」
まさにバレンタイデーの時と真逆である。関都に食べる事を促された慈美子は関都のチョコをパクリと口にした。
「まぁ?!これは…!」
慈美子の口の中に甘酸っぱい味が広がった。慈美子の頬っぺたは隕石のように落下した。それほど美味しそうなリアクションをしたのである。
「パイナップルチョコレート!」
「そう。ホワイトチョコの中身にパイナップルチョコを入れたんだ!」
パイナップルは慈美子の大好物である。慈美子はおいしそうに関都のチョコを全て平らげた。
慈美子は満足げだが、それ以上に満足げなのは他ならぬ関都であった。
「遠足でパイナップルが好物だって言っていたからパイナップルチョコをふんだんに使ったんだ」
「覚えててくれたのね。私の好物…」
「うん。バレンタイデーのお返しには好物で返すのが相応しいと思ってな。それに手作りには手作りで返そうと思ってな。差を付けたら悪いから、皆に同じチョコを渡したんだが、…手作りにしたのは完全にお前の為だよ」
高級チョコよりも手作りのチョコの方が関都の心に響いていたのだった。慈美子が心を込めて作ったチョコがまさに関都の心にぶっ刺さったのである。だからこそ、皆に渡すのを慈美子の好物に合わせたチョコにしたのである。
「ふふふ!ありがとう関都くん!とても美味しかったわ!」
慈美子は幸せそうに深々とお辞儀をした。関都は「おいおいおい」とそこまでしなくてもと言う風に慌てている。
一方、その頃、城之内たちは…。
「そのホワイトチョコレート、わたくしにお渡しなさい」
「え?」
城之内のその言葉に三バカトリオたちは混乱した。しかし、城之内はそんなのお構いなしである。
「聞こえませんでしたの?関都さんから貰ったホワイトチョコレートをわたくしにお渡しなさい」
「そんな…どうして…」
「そのチョコレートは本来わたくしが貰うべきチョコレートですわ!わたくしの指示で渡したチョコレートのお礼ですもの!当然ですわ!」
そう一方的に宣言すると、城之内は3人から関都のチョコレートを奪いとった。3人は成す術なく無抵抗である。
「わたくしはこれくらいお返しをもらっても当然ですわ!これは本当はわたくしに渡すべき分ですの!」
そういうと城之内は関都のから貰ったチョコを食べ始めた。三バカトリオはうんざりしてどっかに行ってしまった。
「あら。このホワイトチョコレート。中身はパイン味ですわ。関都さんも中々凝ってらっしゃいますわね!」
城之内はそれが慈美子の好物に合わせて作ったものだとは気が付いていなかった。そんな事もつゆ知らず、城之内は関都から貰ったチョコを独占し、ご満悦である。まさに知らぬが仏。
一方、用事がある関都と別れた慈美子は1人帰路に付いていた。するとその慈美子の行く手を阻む思わぬ人物たちが現れる。
「あら!?小美瑠ちゃんに阿諛美ちゃんに小別香ちゃんじゃない!どうしたの?」
そう、現れたのはいつもの三バカトリオである。慈美子は城之内が居ない事に不思議そうであった。
3人はそんな慈美子の気持ちを察してか、察せずか、用件だけを手短に述べた。
「これ…」
「友チョコのお返しの…」
「手作りクッキーなんだけれど…受け取ってくれるかしら?」
意外な申し出に慈美子は驚いた。と、同時に歓喜が沸いてきた。まさかこの3人までもが自分にお返しをくれるとは思っていなかったのである。
「もちろんよ!ありがとう!」
「ふふふ…じゃあ私たちはこれで…」
「待って!」
慈美子は3人を呼び止めた。3人は不思議そうな顔をする。慈美子はそんな3人に暖かい目で微笑みかけた。
「せっかくだもの!一緒に帰りましょう!」
3人は少し戸惑うが、一瞬静かになり、無言で頷いた。こうして4人は微妙な距離感で帰って行くのであった。
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