第21話 ヤミのゲーム
「全くもう!あの女が来てからろくな事がありませんわ!」
城之内は慈美子が転入して来てからと言うもの、胸パッドを晒されて皆の前で恥をかかされたり、髪を焼かれたり、お化けに襲われたりと、不運の連続であった。そのため、夏休みを利用し、はるばる遠くの神社に厄払いに来たのである。
「うちは高級取りでお祓いはお高くなっておりますが、その分お値段分以上のご利益がございます!」
そう言うと神主さんは城之内のお祓いを始めた。神主さんは祓串を振り回しながら城之内の周りを回った。そして、祓串を城之内の頭の上でわさわさと振った。
これでお祓い完了である。
「ありがとうございましたですの!」
城之内が帰ろうとするとふと玄関にある札の束が気にかかった。城之内は神主さんに札の事を訊ねた。神主さんは奸商のような腹黒い笑いを浮かべながら、自慢げに説明した。
「この札はチケットモンスターズと呼ばれる西洋の悪霊を封じた札だよ!西洋の骨とう品屋で見つけて安く買い叩いてきた!信者にはワシが悪霊を封じた事にして自慢しておるのだよ」
神主さんと城之内家は古くからの親しい間柄で、神主さんは本当の事をぶち上げたのだった。城之内はその札に興味津々である。
「このお札、わたくしに売っていただけないでしょうか?」
「なーに、ほんの20万円だよ!」
こうして、城之内は神主さんからチケットモンスターズと呼ばれるお札を買い取った。城之内にはある企みがあった。城之内はそのお札に付いていた説明書を読み明かし、ある計画を立てた。
数日後、城之内が慈美子の家を訪ねてきた。城之内はセールスマンのような胡散臭い笑顔である。しかし、慈美子はそれに全く気が付いていない。
「地味子さん?これから一緒に出掛けません?」
「え?今から?そんな急に言われても…」
「関都さんも一緒ですわ!」
「ええ?!本当!?なら行くわ!行く行く勿論行くわ!」
慈美子は悪魔の誘いに乗ってしまった。城之内にすっかり騙されているとも知らずに…。城之内は、自慢の髪の毛を撫でつけ、行進するように居丈高に慈美子を先導した。
「ここ、ここ!こちらですわ!」
城之内が案内したのは真新しい倉庫だ。そこは城之内グループが所有するまだ使われていない倉庫だった。作られたばかりで何も置いてはいなかった。
慈美子は閑散とした倉庫を見て、ようやく疑問を覚えた。
「本当にこんな所に関都くんがいるの?」
「嘘ですわ」
「なんですって!?」
「ここに呼び出したのは他でもありませんわ!あなたに
「
慈美子は聞きなれない言葉に戸惑う。しかし、城之内は構わず、ライアーゲームのディーラーのように説明を始めた。
「
「要するに強いプレイヤーが勝つって事ね!」
「イグザクトリー!その通りでございます!」
「強い方が必ず勝つゲーム…面白いわね!受けて立つわ!」
「ただし、負けた方には罰ゲームが待ってますわ!」
「罰ゲーム?」
慈美子は不安そうになった。
その気持ちを悟った城之内は満月のような満面の笑顔で慈美子を諭す。
「ご心配なく!ほんのちょっと
「
「要するに、自殺するほどの絶望的な体感の事ですわ。説明書にルールも全部書いてありますわ!」
城之内は説明書をビラでも配る様に渡した。慈美子は入念にルールを読み込んだ。しかし、読んだだけですぐに暗記できるものではない。
城之内はそれも悟ったようで、不敵な笑顔で慈美子に言い放った。
「わたくしはもうルールを覚えてますので、地味子さんは見ながらプレイしてくれても結構ですわよ!」
その言葉通り慈美子は説明書を見ながらゲームをプレイする事にした。
城之内は何もない床にブルーシートを敷き、決戦場を用意する。そして、お互いに40枚のデッキを配り、ゲームが開始された。まるでTCGアニメのような光景である。
「バトル!!!」
2人の掛け声で、ゲームが開始された。先行は城之内である。城之内はアニメで夜神月がポテチを食べるようなオーバーリアクションでデッキからカードを引いた。
「わたくしのターン!このチケモンを召喚しますわ!」
チケモンは立体映像のように実体化した。まるで生きているようである。その姿に2人とも驚く。だが城之内はすぐに納得したように高笑いした。
「ほほほ!成程、これが
「チケモンが実体化するなんて!まるでカードゲームアニメだわ!」
「わたくしはこれでターンエンドですわ!」
「私のターン!ドロー!!」
慈美子はデッキからカードを引いた。そしてチケモンを召喚しバトルを仕掛けた。
2人はこれを繰り返し、お互いのチケモンを凌ぎ合い、お互いのHPを削り合った。
「きゃあ!!!!」
「いやあああ!!!」
HPが削られるたびにお互いの肉体と精神に現実のダメージが入った。ダメージもしっかり実体化しているのである。
一進一退の攻防が続く中、城之内がついに切り札の特殊召喚に打って出た!
「特殊召喚デッキからモンスターを特殊召喚しますの!」
「特殊召喚デッキですって!?2人ともデッキは1つしかないじゃない!」
「
「本当だわ…確かに小さく書いてあるわ…」
「現れなさい!わたくしを導く運命の方程式!グレード9『大界帝神 ネイチャーン』!!!」
現れたのは元が悪霊とは思えない神々しいチケモンだった。頂点にもっとも近いチケモンである。戦闘力も防御力もピカ一である。
「ほっほっほっほっほっほ!!!」
「戦闘力も防御力も最強のチケモン…!」
「ネイチャーンで攻撃!!!!」
「きゃあああああああああ!!!!」
ネイチャーンの攻撃で慈美子の主力チケモンが突破されてしまった。慈美子のHPは大きく削られ、その衝撃で慈美子自身も吹っ飛ばされた。
慈美子はふらふらとしながらもなんとか立ち上がる。慈美子のHPは残りわずかだ。
「もう勝負をお諦めになったらいかが?」
「私は敗けるまで諦めない!私のターン!ドロー!!」
慈美子は目を瞑り、祈る様にカードを引いた。そして、ゆっくりと目を見開き、引いたカードを確認した。
「来たわ!」
「ほっほっほっほ!駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目~!駄目ですわ~!わたくしのネイチャーンを倒せるチケモンなんて居ませんわ!」
「特殊召喚デッキのカードを創造できるのはなにもあなただけに限った事じゃないわ!魔術カード『結合』を発動!3体のチケモンを一体化させるわ!!」
「何ですって!?」
「おいでなさい!造化を束ねる神をも超えた存在!グレード10『
「グレード10!?ネイチャーンを上回るステータスですって!?」
「チケモンと魔術カードや道具カードとのコンボがこのゲームの勝敗を左右するのよ!
「きゃあああああ!!!」
ネイチャーンは撃破された。城之内のHPも大きく削られ、城之内は派手に吹きとばされるが、城之内はなんとか体勢を立て直した。城之内は余裕の表情を見せていたが、完全に虚勢である。城之内は追い詰められていた。
(わたくしのデッキには
「ターンエンドよ!」
「ドロー!!!」
城之内はカードをめくる様にチラ見した。そして、そのままカードをデッキトップに落としてしまった。城之内は慌てて引き直す。
「来ましたわ!魔術カード『起死回生』!これであなたの
「残念だけれどあなたの負けよ!」
「何ですって!?カード・アドバンテージは明らかに私の方が上ですわ!」
「確かに。それは問題ないわ。でも、そうでない所で失格なのよ…。あなたサードディールしたでしょう?」
「!!!」
城之内は顔面蒼白になった。1度ドローした時は目当てのカードが引けなったので、わざとデッキトップにカードを落とし、カードをドローし直す振りをしてデッキトップの2枚下のカードを引いていたのだ!
「説明書にも書いてあるでしょう。故意の反則行為は即敗北って!」
勝敗を分けたのは、まさかのジャッジキルである。城之内の反則負けで勝負が付いてしまったのだ。
「きゃああああああ!!!」
城之内のHPは強制的に0になった。城之内はへたり込んだ。城之内は敗北のショックで放心状態である。
「まだ終わりじゃないわ。自分が用意した恐ろしい罰ゲームが待ってるわ…」
そういう言われて我に返った城之内は立ち上がって逃げ出そうとした。しかし、倉庫の入り口は突如、分厚い壁に覆われてしまった。逃げ出すことができない。
すると、何か焦げ臭い匂いがした。
メラメラメラメラ…!
なんと城之内の髪の毛の毛先が激しく燃え上がっていたのだ!城之内は慌てて女の子走りで走り回った。しかし、髪の毛の炎はどんどん大きくなっていった。
「いやああ!!!!赤髪がああああ!!長髪があああああああああ!!!わたくしの真っ赤な美髪があああ!!!」
ボオーーーーーーーーー!!!
城之内の燃えるように真っ赤な髪の毛は本当に燃え上がってしまっていた。まさに炎髪である。城之内は必死に走り回るが、炎はどんどん大きくなってき、城之内の髪の毛を轟々と燃やした。
ゴオオーーーーーーー!!!!
「いやああ!!!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!!!やあああん!髪がぁ!髪がぁ!髪が燃えていくううううう!!!あたくしのバージンへアがあああああああああ!!!」
城之内は、髪の毛の炎を消そうと、燃え盛る髪の毛を振り乱しとにかく必死に走り回った。しかし、炎の勢いは全く衰えない。
城之内は必死に走り回り、助けを求めた。しかし、慈美子は冷めた目でただただ見つめている。
城之内の髪の毛は全て炎で覆われてしまった。
「いやああああああん!!!あたくしの~か~み~!!!」
城之内は走り回り続けるが炎は一向に消える気配がなく、髪の毛を燃やしながらずっと走り続けている。ようやく炎が消えたかと思うと、城之内の髪の毛は完全に燃え尽きて、全て焼失してしまっていた。
「じゃじゃすじゃあー!ああああん!!あたくしの赤髪が…あたくしの命より大切な真っ赤なロングへアが…あたくしのうなじが…完璧なヘアスタイルが…キューティクルが…」
城之内は泣き崩れて、ショックで気絶してしまった。そして、顔面を強打した。慈美子は何が起こっているのか分からなった。
しかし、少し考えて何が起こったかをようやく理解した。
「成程ね。これが
そう。城之内が見ていたのは髪の毛が燃える幻覚である。城之内の本物の髪の毛は全くの無傷であった。すべて幻である。慈美子が冷めた目で見ていたのは、冷酷だからではなく、城之内がなぜパニックを起こして騒いでいるか分からなかったからである。幻覚は敗者にしか見えないのだ。
慈美子は城之内を仰向けにし、カードの束を枕代わりにして、寝かせてあげた。風邪を引かないように身体にシートをかけてその場を後にした。
入り口が分厚い壁に閉じ込められたのも勿論城之内だけが見た幻覚だったのだ。
数時間後、城之内は目を覚まし髪の毛が無事な事に安堵するが、
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