2 花純のおかげで、真莉愛は純人との距離が近付く

 純人が言った通りに会う時間はなく、あれから3ヵ月間に2回しか会っていなかった。真莉愛が純人の所へ行くのが常で、軽く食事をして帰された。彼女は物足りないまま帰り、不満が溜まるばかりであった。

 そんな状態を見かねて、手を差し伸べてくれたのがやはり花純であった。

「マリは、お兄ちゃんとはどうなってるの?」

「どうって、忙しいみたいであまり会えないの。」

「やっぱり、そうか!年末に3人でスキーに行かない?」

「行きたい!けど、スキーはやった事ないんだよ。」

「お兄ちゃんに教われば良いじゃない。チャンスだよ!」


 純人からも誘いがあり、真莉愛達は彼の運転する車でスキー場へ出掛けた。夜中に出て、朝にはスキー場に着いていた。スキー初心者の真莉愛は、純人に教えてもらうために、昼まで一緒に過ごした。花純は一人でリフトに乗って頂上まで行き、ゲレンデを滑っていた。

「どう?少しは滑れるようになった?兄とべったりで、楽しかった?」

「うん、スキー最高!午後も滑って、夜はどうするのかな?」

 昼食を食べながら、二人の会話は弾んでいた。午後は花純が真莉愛に付き合い、純人も時々顔を見せていた。

 夕食も食べ終わり、純人はナイターに出掛けると言っていたが、彼女たちは疲れ果ててホテルの部屋に引き上げた。

「純人さんは何時まで滑っているのかな?元気がいいね!」

「9時ぐらいには帰って来ると思うよ。お兄ちゃんの部屋に行っておいでよ!」

「えー?だって恥ずかしいよ。追い返されたら、どうしよう。」

 花純に促されて、真莉愛は彼の部屋を訪れた。

「私はこれからも、純人さんと付き合っていて良いのかな?」

「真莉愛はそうしたいんだろう!うまく会えないけど、俺もそうしたいよ。」

 彼のはっきりしない態度に不満だったが、自分からキスを求めた。

「私のこと、放って置かないで!純人さんが好きだからキスしてほしい!」

 真莉愛がその場に目をつぶって立っていると、彼はそっと近付いて来て唇を優しく重ねた。初めて触れる唇の感触に、彼女は陶酔していた。ずっとそうしていたかったが、その晩はキスができた事だけでも嬉しかった。

「どうだった?お兄ちゃんとゆっくり話しができた?」と花純が訊いた。

「あー、話というか何というか。顔が熱いな!」

「そうか、そういうことか。私まで熱くなってきた。兄のことだけど、話そうかどうか迷ったんだけど、マリが真剣に思っているから話した方が良いよね。」

 花純の真面目な顔つきに真莉愛は不安になったが、耳を傾けた。

「兄が大学時代に交際していた彼女のこと、知ってるよね。北海道の実家に帰ると言って、別れ話になっていたんだけど、はっきりとしていなかったみたい。今でも連絡を取り合っていて、向こうは別れたつもりはないみたいなんだよ。」

「そうなんだ。彼がはっきりしない理由が、分かったよ。ありがとう、花純。」

「でもね、兄はマリのことが好きで、彼女とはけじめを付けようとしてる。」

 真莉愛は花純の言葉に勇気付けられ、彼のけじめを待つ事にした。スキーから帰っても、彼との関係は変わらずにいた。

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