2 櫻子は猶之に過去の出来事を告げ、二人の関係は深まる

 櫻子と猶之が交際して半年が経った頃、二人はいつものように彼女の家で過ごしていた。ソファーにくつろぎながら抱き合ってキスをして、それがいつものパターンだった。しかし、この日は二人でワインを飲んでいて、あまりお酒に強くない猶之はキスだけに留まらずに、彼女の胸を触ってきた。これまでも触られる事を彼女は拒んでいなかったが、この日は部屋着のトレーナーの中へ手を差し伸べ、下着の上から触られていた。

「櫻子、愛してる!僕たち、次の段階に進んでも良いんじゃない?」

 猶之はそう言いながら、手を彼女の下半身に伸ばしてきた。ところが、彼女はその手の動きを制して、彼に語り掛けた。

「猶之さん、ごめんなさい!私も猶之さんの事を愛しているわ!いつか結ばれたいとずっと思っていたけど、まだできそうにないの。」

「できそうにないって、どういう事なの?できれば話してくれないかな?」

 櫻子は話さなければ先に進めないと承知していたが、切り出せなかった。

「猶之さんが、私に気を遣って、我慢してくれているのは気付いていた。それで、話したら嫌われるんじゃないかと不安だったの。」

「よく分からないけど、過去に何かあったんだね。今の俺は櫻子のことを愛しているし、信頼もしている。嫌いにはならないと約束するよ。」

 猶之の真剣な眼差しに、櫻子は心を動かされた。

「実は私、レイプされた事があるの。もう5年も前のことだけど、知り合った男の人に無理矢理犯されてしまった。私はその時が初めてで、1回だけだったけど、その事がトラウマになっているの。私が軽率に、その人を信じて付いて行ったのが誤りだったと後悔している。ごめんなさい!」

 櫻子は都合の悪い事は伏せて話したが、自分の過去の過ちに涙を流していた。

「僕に謝ることではないよ。そんなことがあったなんて、知らなかった。僕こそ無理に聞き出して、ごめんね!そういう患者さんを診た事は何回かあるけど、医者の立場から言うと、身体のケアよりも心のケアが必要だと分かっている。櫻子が引きずっている過去を、僕は共有していくから、時間を掛けてゆっくりと進んで行こう。無理はしなくていいからね。」

 猶之の配慮の行き届いた言葉に、櫻子は涙が止まらなかった。彼は優しく抱き留めて、背中をしきりにさすっていた。


 それからも二人の関係は変わらなかったが、変わった所は一緒にベッドで抱き合って寝る事だった。櫻子が24歳になった今では、キスから身体への愛撫と、少しずつ関係は深まっていった。

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