第13話 お寺①
目の前に、父が立っていた。ひどく不機嫌な顔をしている。左脇には、花と菓子折りを抱えていた。
「あれ、父さん、何で?」
「何でじゃないだろう。来なかったから、どうしたのかと、思えば……みんな、もう、帰ったぞ。おまえも早く帰れ」
クラクションが鳴った。「すぐ発車するから早く乗れ」という合図だ。
「ああ、それから、次来る時は酒を持って来い。菓子だの果物だのは、もう飽きた」
最後にそう言うと、父は入れ替わりに車内に入って行った。ガタガタと扉が閉まり、バスが走り出した。
「もし、どうされましたか?」
肩を揺すられて、目を開けた。 振り向くと、肩越しに見知った顔が目に入った。うちのお寺の住職さんだ。キョロキョロと辺りを見回す。どうやら、門前の石段に腰掛けて眠っていたようだ。日は、もう大分傾いていた。
「そんな所に座ってらっしゃると、体に毒ですよ。中へどうぞ」
促されるまま、一緒に石段を上り、門をくぐって境内に入った。頸や身体の節々が痛んだ。
「おいでにならないので、皆さま、心配なさってましたよ」
住職さんの話では、母と兄、妹は、墓参りを終えて、とっくに帰ったとのことだった。てっきり、先に着いて待っているものとばかり思っていたので、不思議がっていたと言う。
実家に連絡を取ろうと、胸ポケットからスマホを取り出すと、画面が割れていたので、ギョッとした。
いつ落としたのか、或いはどこかにぶつけたのか、まるで、覚えがなかった。
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