10円×3

たおり

第1話 事故①

 困った。車が動かない。


 つい居眠りをして、ガードレールに突っ込んでしまった。めり込んでしまっていると言ってもいい。車輪は道路の外にはまり込んで、エアバッグは完全に開いている。エンジンは……かけない方が良さそうだ。

 まったく、まだ一年も乗ってないと言うのに何てことだ。他の車や人間を巻き込まなかったのがせめてもの幸いだ。


 手を伸ばして足元に転がっていたスマホを拾い上げる。液晶は割れていて、画面は真っ黒だ。電源を押しても、うんともすんとも言わない。やれやれ、これでは警察もレッカーも呼べない。


 何とかシートベルトを外して、車から這いずり出すと、路上に出た。他の車が通るのを待つ。しかし、いかんせん山道なので、交通量が非常に少ない。ようやく通りかかった車に手を振っては、無視される、そんなことが三度ほど続いた。


 係わり合いになりたくない、と言ったところか。田舎も薄情になったものだ。せめて、110番してくれることを祈りたい。


 疲れて道路脇にへたり込んでいたら、一台の軽トラが停まった。

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