完全版 青春短し、恋せよ乙女――ただし人狼の。 02

 あたしは、蘭馨あららぎ かおる。うん、珍しい名字だってのは、あたしもそう思う。曰く所以いわくゆえんのある名字なんだけど、その話はまあ、なんかのついでの時で。

 身長は百七十センチ、高一の女子にしてはかなり高い方だってのは知ってる。しかも、まだもう少し、大人になるまでに伸びそう。体重とスリーサイズは秘密、こっちもまだ成長中だから。体重は成長しなくていいけど。

 あたしの前に居るのは、昴銀子すばる ぎんこ。関西出身。身長はあたしよりさらに高い百八十センチ、スリーサイズもご立派。比率で言えば負けないけど、絶対値では勝てない。

 そのとなり、木陰でクッションの上にしゃなりと横座りになっているのが八重垣環やえがき たまき、この子も関西出身。身長は百六十センチ、大体女子の平均値だけど、あたしや銀子と一緒だとむしろ小さく見える、らしい。

 あたし達三人は同じクラス。多分、先生達は、わざとそうしたんだと思う。何故そう思うかというと、あたし達には共通する特徴があるから。

 それは、髪の色。

 あたしの髪は、栗色。銀子は狐色、環に至っては、白い。もちろん、染めたり脱色したりしてるわけじゃない。あたしも銀子も地毛だし、環は髪以外も白いし、目は紅い。

 そんな、普通の娘と見た目で違いのあるあたし達だから、先生達は同じクラスにかためたんだと思う。その方が、バラバラにしておくよりまとめて置く方が、一人でいるよりイジメとか起こりづらいと考えたんだろう、経験から、あたしはそう思う。中学の頃は、先生から何度も黒く染めろと遠回しに言われたし、クラスメイトにからかわれた事もあったから。実際、今だって、他の女子はあたし達を遠巻きに見ているだけで、声をかけてくる娘は居ない。

 でも、あたしはこの髪に誇りを持っている。これはあたしの「たてがみ」だと思っているから、絶対に染めたりしないし、むしろ伸ばし続けて、今ではお尻に届く程になってる。座るときとか気を使うし、手入れも大変だけど。

 銀子も、ちょっと癖のある狐色の髪を背中まで伸ばしている。あの娘も多分、同じような経験をしていて、同じように思っているんだと、あたしは思っている。

 環は、ちょっと違う。白と言うより白銀の綺麗な髪をやはり背中まで伸ばしてるけど、あの娘は白子アルビノ。だから、日差しが強いときは通学中に特別に日よけの帽子を被る事も、サングラスを使う事も学校から許可されてる。

 そんなあたし達は、入学式のその日にお互いの事に気付いて、その場で友達になった。ううん、銀子と環の二人は同中おなちゅうで既に親友だったから、あたしがそこに加わった、って言う方が正しいか。

 まあ、もしクラスが違ったとしても、でもやっぱり、あたし達は友達になって、こうやって一緒にお弁当を食べていたと思うし、色々打ち明け合っていたと思う。

 あたし達には、見た目以上の共通点があったから。


「山田って、ヤーマダ君の事?」

 自分のお弁当をつまみながら、銀子が聞き返す。銀子ぎんこたまきのお弁当は、大きさは違うが中身は同じだ。この二人、一緒に暮らしていて、八割方の炊事洗濯は銀子がしているらしい。もちろん色々と訳ありなのだが、それもまあ、いずれそのうちに。

「ヤーマダ君の事て、もしかして、隅に置けへん話どすか?」

 小さなお弁当箱から、お上品に箸で白米をついばみつつ、環が質問を重ねる。山田なんてありふれた名字だけど、この二人がヤーマダ君と呼ぶなら、それはこの学校に一人しか居ない。

 体育座りからトンビ座りに姿勢を変えて、腿の上にハンカチを敷いて弁当箱を載せたあたしは、恥ずかしくはあったけど、この二人には遅かれ早かれ知られるだろうし、もしかしたらもう知ってて知らない振りしてるのかも知れないと思いつつ、箸を咥えたまま、頷く。

「まあ……」

「うっわー、ランちゃん、そうやったん?」

 もう一度、あたしは頷いて、ペットボトルのレモンティーをがぶ飲みする、景気づけに。

「……だって!」

 顔を上げて、あたしは力説する。

「しょうがないじゃん!好きになちゃったんだから!」

「……蘭ちゃん……」

 あたしの勢いに押されたのか、銀子が、呟くように静かに言った。

「……お茶、握りつぶしとぉで」

「……あっ……」

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