第4話 おかしな少女

 目の前に古いコンクリートで出来た四階建ての建物。

 気が付いた僕は、なぜ、こんなところにいるんだろう。

 不思議に思いながらも声をかける。


「こんにちは。誰かいますか?」

 何度か試すが返事は無かった。意を決して目の前のさびた鉄の扉を開ける、ギギギギ、金属のすれる音。中はしばらく使われていないようだ。奥の方に水道は蛇口が見えた。


 建物がこんな荒れた状態では人がいるわけなどないが、僕は中に入る、ギギギ、ガチャン、後ろの鉄の厚い扉が閉った。

 あわててドアノブを回して身体で押すが動かない扉。しばらく懸命に開けようとしたけど、まったく開く素振りは見せない。疲れた僕は鉄の扉との戦いを止め、部屋の中を見回す。


 日はまだ高いが、窓は全て釘で板が打ち付けられて光は数本の筋で入ってくるだけ。僕は光の筋が入ってくる、握り拳くらいの板の隙間から外を見る。建物の裏手が見え、大きな砂利敷きの駐車場があるのが分かる。まったく人気は無い。


 板の隙間に口をつけて大きな声で「助けて!」と叫ぶ。何度も何度も繰り返すけど、僕の声に反応する者はいなかった。疲れ果てた僕は部屋の隅に座り込んだ。


「ここは何処なんだろう? なぜ僕はこんな所に。これで夜になったら。いや、人がまったく通らないのだから、このまま見つからない事も」

 絶望感を感じた時、音が聞こえた、急いで板の隙間から懸命に声を出す。

「誰か来た? おーい! 開けて~~ここに閉じ込められたんだ」

 ジャリ、舗装されていない道を足音が聞こえた。そしてしばらくすると、ギギギギ、鉄のの扉に力が加わる……ガチャン、鉄の扉が開く。


 僕の前に不思議そうな顔をした女の子。紅いワンピース、左右で結んだおさげ髪、真っ白な肌に大きな丸い目、猫の目のように暗闇でそれは少し赤く光って見えた。


 女の子はニッコリと優しい笑顔を浮かべた。

 似ている雰囲気は違うが、幼なじみの長内千鶴に。

 幼い時の千鶴はどちらかと言えば、引っ込み思案で自分の意見を出したりするタイプではなかった。


 しかし女の子は僕の手を掴んで部屋から強引に連れ出した。

 手を引かれた意外な程の力強さ、そしてなにより、鉄の扉よりも冷たい手にビックリする。


「君は力が強いね。神社の男の子みたいだ」

 僕の口から出た言葉に自分で驚く。神社? 男の子?


 千鶴に似た女の子は、神社の男の子の事を聞いてきた。

「……その男の子の名前はなんていうの?」

 無言の僕に確認するように再び質問する少女。

「あなたは知らないの? その男の子名前」

「うん。でもどうして?」

「良かった……知らないんだ」

 僕が神社の男の子の名前を知らないことに安堵する女の子。

 何かおかしい、不自然さを感じた。


「ここがどこか分からないんだ」

 今度は女の子が怪訝そうな顔をする。


 まったく知らない土地。近所にこんな所があったのか。呟きながら歩く僕。

 その前を紅いワンピースの女の子が歩いている。

 履いているサンダルも紅く、日が限ってきたのに、ワンピースとサンダルの赤さはモノクロ写真に、女の子だけに絵の具で色をつけたくらい、はっきりしている。


 普通の女の子とは感じが違う……それに千鶴に顔立ちがそっくり。

 後ろからの視線を感じたのか、女の子が立ち止まり振り返る。

 その瞳はあやかしの色を見せていた。



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