第123話  圧倒的連携

 





「殺してやる……ッ!!殺してやる殺してやる殺してやるゥッ!!」


「くくッ……ははッ……フハハハハハハハハッ!!地に寝そべりながら何を言い出すかと思えば何だッ!?殺してやる?俺を?お前が?はははッ!年端もいかぬ人間の子供の方が余程面白くて信憑性のある嘘を吐くぞッ!?」




 頭を持って地面に叩き付けられて磔にされた男は、顔を掴んでいるリュウデリアの指の隙間から睨み付ける。殺意と憎しみの籠もった目で。だがその視線は心地良いと言わんばかりに、彼は余計に目を弧に描いて嗤うのだ。


 怨敵に出会ったと思ったら、既にこの状態だ。攻撃1つも真面に叩き込めないなんぞ認められる訳が無い。男は上から尋常ならざる力で押さえ付けられながら、体中に奔っている痣を波立たせ、範囲を大きくしていった。すると、リュウデリアからしてみれば謎の力と気配が強くなった気がして、次の瞬間男が膨大なエネルギーを放出した。


 黒紫色をした謎のエネルギーは螺旋を描き、街の中で竜巻を発生させた。轟々と風の音響かせながら、置いてあった屋台や食べ物。冒険者の死体が巻き上げられて竜巻の一部と化した。捲れ上がった舗装されていた通りの石や建物の破片が混ざって凶器となり、内部に居るものを問答無用で攻撃する。


 黒紫の竜巻で全員を殺す。街諸共。そういう気概を感じたが、リュウデリアの前にはそんな攻撃は児戯に等しい。竜巻の中央から一瞬だけ純黒の光が発せられ、黒紫の竜巻は純黒に凍てつき、意図的に破壊された。純黒の氷の欠片が降り注ぎ幻想的な光景が広がる中、リュウデリアは立ち上がった。手の中からは既に男は抜け出していた。


 竜巻を起こしながら背中に接している地面を抉っていき、顔の皮膚をいくらか千切られながらも手の中から脱出し、その場から跳び引いて距離を取った。因みに、純黒に凍てついた竜巻はリュウデリアが単純に邪魔だと思ったから砕いた。




「面白いなその力。源は何だ?」


「誰が貴様にものを教えるかァッ!!そんなどうでも良いことより貴様を殺してやるッ!!さっきのはまぐれだッ!!俺の力は貴様の力よりも上位なんだよッ!!」


「ほう……?俺の力……つまり魔法よりも上位であると?フハハッ!!それはそれは……──────神共と同じ事を言っているなァ?知っているか?己の力を過信し過ぎて訪れるのは慢心故の敗北だ。それをお前はこれから味わう事となる。大いに噛み締めると良いぞ」


「俺は事実を口にしているだけだッ!!死ねェッ!!」




 怒りと憎しみに支配された雄叫びを上げてしゃがみ込み、四足動物のように駆け出した。背後から黒紫の波動が放出されて無理矢理加速し、突き進む時に発生した衝撃波で周りの建物の窓ガラスを粉々に砕いた。冒険者には対応のできない速度だった。それだけの速度を出した。それをリュウデリアは目で追っている。


 引き裂こうと指を立てた両手が振り下ろされる。それに合わせて手を伸ばすと、指と指の間にリュウデリアの指が入り込み、手を握り合った。直立不動であり、受け止めるための姿勢すら取っていないのに全速力の突貫を受け止められたことに瞠目する。


 せめて足を後ろへ引いて受け止める姿勢を取らないと受け止めきれない。ならばどうやったかというと、リュウデリアは足の代わりに尻尾を使って後へ下がろうとする力に対抗していた。それによって、前からは直立不動のまま受け止めたように見えたのだ。


 男は顔中に青筋を浮かべながら謎の力で形成された手に力を籠めた。全力だ。謎の力も使用しているので純粋な力よりも強い。ギチギチと音が鳴るくらい力を籠めているのに、リュウデリアが痛がるような様子は無い。それよりも愉快そうにクツクツと嗤っていた。




「力比べか。どうした?まさかこんなものではないのだろう?俺は魔力を使っていないんだ。本気でこい」


「……ッ!ぐぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」


「んー?それでも本気とでも言いたいのか?まだ1割も力を使っていないぞ。この力ではクレアも捻られんぞ」


「クソッ!クソッ!クソォッ!化け物風情がァッ!!」


「化け物なァ。この程度で化け物と言われても全く嬉しくないな」




 力比べの手合わせ。痣の量も侵蝕させて増やし、謎の力もふんだんに使用しているにも拘わらず、リュウデリアの手を捻ることもできない。全く動く気配もない。それどころか、遙かに上回る力で腕を捻じ込まれていく。関節の可動部を超えようとする捻り具合に、膝を落としていくしかなく、そうなれば更に力が入らなくなる。


 力では全く歯が立たない。誇張して1割も力を出していないと見栄を張っているように思えるし、そう思っていたいが、残念ながらその言葉は事実だった。元の大きさを考えれば、自身の何千トンとある体重を支えられるだけの筋力は最低でもあるのだから、力に大きな差があるのは当然だ。


 これ以上やっても手の関節を砕かれるだけだ。故に手を抜いてその場から離脱しようとしても、指の力で抜くことができない。指で挟まれているだけなのに、拷問器具のように外れないのだ。まるで指の力だけで指を切り落とそうとしているかのよう。


 この世に自力で傷を治す力を持つものは居ない。指を切り落とされたら、回復薬でも治るかは分からない。そして街を襲っている男は、回復薬を恵んでもらえる立場にない。傷を負えばそれだけ力が出せなくなってしまう。だがこのままの状態で良いわけがない。こうなれば多少無理矢理でも手を引き抜く。そう思って行動に移そうとした時、前に体を引っ張られた。いや、手合わせをしたまま腕ごと引っ張られたのだ。


 圧倒的腕力の差により、踏ん張りも効かずケタケタと嗤うリュウデリアに手を捕まえられたままぐるりと振り回された。遠心力で顔が歪んでいき、両手が使えないので先程のような竜巻の要領で謎の力を爆発させようとした時、リュウデリアは手を離した。


 勢いに乗って投げ飛ばされて空中を突き進む。体勢を変えて投げ飛ばしたリュウデリアの方を見ると、彼は左手を右肩に置いて右腕をぐるりと回していた。何かの準備運動をしている動きに何をしているのかと叫びたくなるが、それよりも先に飛ばされている先にある気配にハッとした。




「──────へーいいらっしゃーい。お客の1名様をォ……バルガスの居る上空へご案内しまァすッ!!オラ吹っ飛びなァッ!!」


「がァ……ッ!?」




 飛んでいった先には、クレアが待ち構えていた。来ることを分かりきっていたような対応に舌打ちをする。上には翼を使って飛んでいるバルガスが居て、何かを狙っていた。そして投げ飛ばされて飛んできた男が謎の力で何かをしようとするよりも先に、顎に拳を下から上に向けて叩き込んで進行方向を上へと変えた。


 クレアからパスされたボールという名の男を待っていたバルガスは、両手を合わせて上から下に叩き付けた。ばきりと嫌な音を響かせながら打ち込まれた打撃によって今度は下へと落とされていった。横面に叩き込まれて視界がぐわりと歪んだ。


 どうすればいい。どう立て直せばいい。そう考えている暇は無く、男は打ち上げた張本人のクレアの元まで戻ってきて、腹に蹴りを打ち込まれた。くの字に曲がり、口から大量の血を吐き出しながら地面と平行になりながら飛んでいく。向かう先には、腕を回す準備運動を終えて、右腕を持ち上げた状態で構えているリュウデリアが待ち構えていた。


 たったの3撃を受けただけなのに、既に意識が朦朧としている。あと強めの攻撃を一度でも貰えば、動けなくなってしまうのだろう。だから、焦りの中で形振り構わず謎の力を振るおうとして……不発だった。男は瞠目する。意図的に暴発させようとしたのに、何も起きなかったのだ。それどころか謎の力で強化された四肢も小さくなり、元の手が黒紫になっているような状態だった。




「──────そォらッ!!」


「──────がぶぁッ!?」




 不発に終わった謎の力。生まれてしまった隙は大きい。空を飛んでいた時に使っていた力も使えず、やられるがままにリュウデリアの元まで飛んできて、強烈なラリアットを真面に受けた。今までに感じたことの無い重く強い衝撃が流れ込んできて、地面に思い切り叩き付けられた。


 頭を持って叩き付けられた時よりも大きなダメージ。リュウデリアのラリアットは完璧に決まった。クレアからのパスも相当なら速度もあったので、速度に腕力が乗せられて男は瀕死だった。胸への衝撃で呼吸困難になり、苦しそうに嘔吐いているだけ。そんな倒れ込む男を、リュウデリア、バルガス、クレアが可笑しそうに嗤って見下ろしていた。




「さァて。お待ちかねの解剖タイムだぜェ?」


「傷は治せんが、死なないようにすることは出来る。存分に苦しむと良いぞ」


「その力は……何なのか……私達に……教えてもらおう」




「ひっ……や、やめろ……やめろっ……やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」



























「そらそらどうしたッ!私をさっさと殺してリュウデリアの元へ行くのではなかったかッ!?」


「ぐっ……小娘がァ──────ッ!!」




 ──────何なんだこの女は……っ!!魔力で作った武器しか使っていないだけなのに、何故私が追い詰められているっ!?この力がこんな奴に及ばないというのかっ!?




「戦いの最中に考え事かッ!」


「がは……っ!?」




 純黒の色をした長い棒を変幻自在に体の周りで振り回し、踊っているような軽やかな足裁きで近寄ってきて、フェイントを混ぜた突きや薙ぎ払いで打ち込んでくる。かなりの腕をした棒術だ。棒を振り回す速度が速くて捉えられない。両腕で防御をしようものならば、防御を崩されて吹き飛ばされる。


 見た目からは想像もできない力強さと、単純な技術力。それに加えて、オリヴィアは何か1つの武器に固執していない。今もそうだ。戦っている中で魔力で形成した棒を消し去り、純黒の鎖を創り出した。長い鎖を両手で持ち、右手で振り回しながら操る。


 意志を持つかのように動いて自身を捕らえようとしてくる鎖からバックステップをして避けていると、地中からもう反対側の鎖が伸びて足に巻き付いた。しまったと思った時には前から迫ってきた鎖に両腕を巻き込まれる形で胴を縛られた。


 足に巻き付いた鎖は解れて外れ、オリヴィアは巻き付かせた鎖を勢い良く引っ張りながら体を捻らせて、敵の女を空中へ放り上げて反対側の地面に叩き付けた。地面が陥没して女が苦しそうに息を吐く。そして続け様にもう一度同じ事をしてまた反対側の地面に叩き付けた。


 数えること10回。女を鎖で捕らえて地面に叩き付け続けた。最後は叩き付けた後に円を描いて振り回し、近くにあった店に遠心力を乗せて放り投げた。壁を突き破って中に叩き入れられる。オリヴィアは鎖を操って店の外側にぐるりと巻き付けると、思い切り引いた。すると鎖が壁にめり込んで破壊しながら壁と柱を両断した。


 鎖が削り切った部分から上の重さに耐えきれず、女が中に居る店は自重に耐えきれずに押し潰さんと崩壊した。砂埃を上げて中にあったものや壁の一部などを、通りに撒き散らせながら粉々に破壊された。女は壊された店の下敷きとなった。


 だが相手もそれだけでやられるつもりは毛頭無いようで、上にのし掛かっている店の残骸を謎の力で吹き飛ばした。上から残骸が降り注いでくるのを、魔力の障壁で防ぐ。出て来た女を見てみれば、打ち所が悪かったようで右腕を左手で押さえていた。




「なん……なのよ……お前は……ッ!!」


「私か?私はオリヴィア。女神だ。リュウデリアのつがい。相棒。交際相手……いや、妻だな。ふふっ。妻……響きがいいな。愛おしさで胸が張り裂けそうだ」


「……ッ!!神……だと?何故神があんな化け物と……っ!!」


「うん?聞いていなかったのか?愛し合っているんだよ、私達は。だから常に一緒に居る。2度も言わせるな」


「そんなことはどうでもいいッ!何故あの化け物と共に居ることを選べるのだッ!!アレは化け物だッ!人間を石ころ程度にしか考えていない……ッ!!私の愛する息子を殺した、死すべき存在だッ!!」


「息子……な。そもそも間違っている事がある。リュウデリアが人間を石ころ程度にしか認識していないのではなく、龍という種族が人間を石ころ程度にしか認識していないんだ。いや、人間以外の種族もだな」




 これまで見てきた光景と、龍本人から聞いたことをそのまま教えるが、それが聞きたいのではないのだろう。女は自身の愛する息子を石ころを蹴るような軽さで殺せる奴と、なんで一緒に居られるのかと、理解が一切できないと叫んでいるのだ。


 だが仕方ないだろう。オリヴィアには愛しているから一緒に居るとしか言えない。何故なら理由はそれだけだから。女はそれを聞いて頭を掻き毟る。やはり理解出来ないと。だから考え方を変えた。この神も龍側であり、考え方が異常なのだと。ならばこの神も殺さねばなるまい。






 自身と同じ目に遭う者を、これ以上出さない為にと決意しながら、自身のやっていることがまさしくそれだと気がついていない。彼女や、リュウデリア達にやられた男はもう……正気ではないのだ。







 ──────────────────



 敵の2人組


 男の方はリュウデリア達にボコされた。投げ飛ばされ、アッパーを食らい、叩き落とされ、蹴り飛ばされ、ラリアットを決められて沈んだ。今は見ない方が良いことをされている。


 女はオリヴィアにボコされている。リュウデリアが教えた武器術を巧みに使って追い詰めてくる。技術力が高くて近づけないし、近づいたらボコされる……のに引き寄せられるというどうしようもない状況。今は知らないが物理が無効化されることも忘れてはいけない。





 龍ズ


 敵の男を使って遊んでいた。力比べをしてきたのでノリノリでやってやり、ぶん投げて連鎖を繋げてラリアットでフィニッシュした。初めてラリアットをやったが、綺麗に決まって気分が良くなったリュウデリアが居る。


 今は3匹でモザイクを掛けないといけないことをしている。魔法で調べるのではなく、めちゃくちゃ物理的に調べている。





 オリヴィア


 ここぞとばかりにリュウデリアから教わった武器術を披露した。女の敵が弱いと思っているが、実は普通に圧倒しているだけ。使っているのは魔力で形成した武器と魔力による肉体強化だけ。




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