第200話 僕に全部、任せてよ

 捨て身の攻撃ディープ・キスで尊厳が守れましたわ。

 ただ、守れた代わりに何かを失った気がするのですけど。

 自分からキスしておいて、力が入らないなんて、おかしな話ではあります。


 レオは知ってか、知らずか……応えるように口付けを返してくれます。

 いつしか、互いに求めあう舌を絡めた激しいキスになっていました。


「約束だからね」


 何度か口付けを交わしてから、レオの体が離れますけど、寂しくはありません。

 互いの体液が混じり合った銀色の橋で繋がっているんですもの。

 荒くなった息遣いだけが部屋に木霊する中、レオは優しく、キスをしながら、さりげなく胸を揉んできます。

 着衣が多少、乱れてますがあまり気にする必要はないかしら?


「はい」


 このまま、朝までと仮定すると半日も休むことなく、愛されるのに耐えらえるのかが問題ですわね。

 チラッとレオの様子を窺うとレオのモノはもう臨戦態勢に入っているみたい。

 元気そのもので今日はどんなことをされるのか、期待していないと言ったら、嘘になりますわ。

 そんなとりとめのない思考の海で溺れそうな私を現実へと戻したのは他ならぬレオの一言でした。


「はい、これ」

「んんん?」


 満面の笑顔でレオが手渡してきたのはきれいに畳まれた受容者レシピエント専用の装束でした。

 それも私専用に彼が発注した特注品です。

 露出度の高い赤ビキニとミニスカートのフリルドレスにオーバーニーソックスの一揃え。

 


「え、えっと。着ればいいんですの?」

「うん。着てくれるって、言ったよね」

「言いましたけど……あの……腰が抜けたのか、動けませんの」

「そっか。分かった。大変だよね」


 レオは『うんうん』とやや大袈裟に一人頷き、心配してくれます。

 ついでに頭を撫でてくれるので心も休まって、落ち着けますわ。

 このまま、休ませてくれるのかしら?


「心配しなくてもいいよ。僕に全部、任せてよ」


 銀の橋をペロリと舌なめずりをして、舐め取るレオの顔が年齢よりも大人びて見えます。

 自分でもはっきりと感じます。

 異常なくらいに高鳴る胸の鼓動が止められません。

 え? あら?

 その手とワキワキとしている指の動きは何ですの?


「あ、あのレオ……きゃっ」




 きれいに身ぐるみ剥がされましたわ。

 下着までも器用に脱がすのですから、怒る気にもなりません。

 ついでとばかりにあちこちを触られて、揉まれるので気が紛れてしまうんですもの。


 でも、おかしいんですのよ?

 あの装束を着るのに下着を脱ぐ必要がないのです。

 まぁ、いいのですけど。

 素肌に直で着ても見るのはレオだけですから。

 未だに明るい場所で見られるのは恥ずかしいですけど……。

 かわいい格好なら、見られてもいいとつい思ってしまうのです。

 甘いかしら?


「出来たよ」

「あ、ありがとうございますわ」


 お礼を言う必要があるのかは疑問の残るところです。

 ちょっと触ったり、揉んだだけでそれ以上はおいたをしなかった点は立派だと思いますわ。


「ちゃんと見せて欲しいなぁ」


 レオがきれいに着せ替えただけで満足するなんて、おかしいですわね。

 腕を組んでどっかりとベッドの上に座り込みましたから、見ているだけで満足しているようにも思えるのですけど。

 まぁ、いいですわ。

 見せて欲しいということは立って、クルッと回って見せれば、いいのかしら?


「分かりましたわ」


 先程まであんなに腰が抜けて、立てなかったのが噓のように普通に立てます。

 さては触ったついでに癒しの魔法をかけてましたのね?


 そして、立ち上がって気付いたのがこの衣装の卑猥さですわ。

 まず、スカートの防御力が圧倒的に足りません。

 今は下着を履いてません。

 つまり、ほぼ見えてしまうのです。


 レオになら、かまいませんけど、これはいけないと思いますわ。

 そして、ビキニもおかしいのです。

 レオは『大きさなんて関係ないんだ。リーナに胸がなくても好きだから』と言ってくれますけれど、誇れるほど大きくはありませんのよ?

 それなのに布面積が少なすぎて、油断したら、今にも蕾が外に出そうですわ。

 ちょっと歩いただけで、やたらと揺れるのも気になりますわね。


「ピッタリだね。かわいい!」

「そ、そうですの?」


 ん? ピッタリと仰いませんでした?

 それでこのビキニ、妙にサイズが合っているはずですわ。

 今までレオが用意してくれた衣装、全てに言えるのですけど、いつサイズを計測したのかしら?

 まさか、触っただけで実測していた……?

 まさかすぎますわね。


「じゃあ、次はコレね」


 レオが手で広げて見せてくれたのはいわゆる尼僧服。

 シスターが着用するとても貞淑なデザインと長い裾丈の……え?

 おかしいですわね。

 短すぎませんかしら?

 私の知識にある尼僧服と裾の位置が違います。

 ほぼミニスカートと同じくらいの裾丈。

 あれでは太腿が露わになりますわ。

 腕も長い袖が付いているのが普通なのに袖自体が存在しません。

 二の腕までも露わになる大胆過ぎるデザインのようですわ。


 変ですわね。

 いつものレオなら、着替えた時点で……むしろ、着替える前に仕掛けてくると思ってましたのに何もしてきませんのよ?

 何か、企んでいるのかしら?


 はい。

 そう思いながらも結局、着るのですけど。

 目の前で着替えなくてはいけないのが恥ずかしくて、仕方ないのですがレオにはそれがいいみたい。

 ただ、気になることがありますのよ?

 受容者レシピエント用装束の時にも感じたのですけど、腋を見せる姿勢を取って欲しいようなのです。

 レオのことですから、また悪い大人から、変な入れ知恵をされたのではないかと思って、心配ですわ。


「リーナ、次はこれ!」


 え?

 次って、また着替えますの?

 レオが襲ってこないなんて、逆に気味が悪いですわ。


「まだまだ、あるからさ。時間はたっぷり、あるよ?」

「え、ええ。そ、そうですわね」


 絵本に出てくる魔女が着ている帽子とローブに似ています。

 違うのはミニスカートのように裾が短く、また袖がないので肌面積が占める割合が高いということかしら?

 ええ、手始めの受容者レシピエント装束と魔女は序の口だったのです。


 延々と続く、『次はこれ』攻撃に私はもう疲れましたわ。

 レオが要求してくるポーズが意外ときついのもありましたし……。


「もう無理ですわ。休ませてくださいな」

「うん。いいよ。ゆっくり、休んでよ。でね」

「ふぇっ?!」


 気付いた時にはもう手遅れでしたわ。

 着替えに次ぐ着替えで感覚が麻痺していて、その時は生まれたままの姿になっていたのです。

 そして、疲れて動けません。

 どうなったのかは言うまでもありませんわ。

 レオに抱っこされて、美味しくいただかれただけですもの。




 知らなかったのです。

 悪意に満ちた者が己の欲の赴くままに愚かな行為を働くなんて。

 思ってもいなかったのです。

 彼らの罪深き行いによって、新たな災厄が訪れようなんて。

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