第185話 不見の塔にお出かけする時間ですわ
険しい山の麓なので周囲に村落もありませんし、街道も整備がされていません。
今後の課題として、インフラの整備を迅速に行わないといけないでしょう。
しかし、それ以前にどれくらいの危険が塔に潜んでいるのか。
これを調査しておきませんと迂闊に人寄せとは出来ません。
難しいものですわね。
ここで問題が発生なのです。
まず、面白いことが大好きなレオが興味を示し、自ら調査に乗り出すと言い出すのは分かっていました。
問題はそこではありません。
事前に綿密な調査を行える人物を欠いているのです。
もっとも信頼出来るデータを集めてくれるアンディは密使として、帝都に出向いているので不在でした。
アンディには及ばないものの斥侯として優秀なイポスも王国を奪還すべく灰色の竜討伐に赴く、ドワーフ一行に同行中で不在です。
まるでこうなることが分かっていたようなタイミングで誕生してますわね。
また、今回のダンジョン挑戦に際し、どのような衣装で臨むのかでも少々、もめましたわ。
私よりもレオとアンがかなり、乗り気だったのです。
まるで着せ替え人形のように色々な服を着させられましたもの。
そう、全てが上手くいけば――カルディア地方に新たなダンジョンが誕生したという報せが帝都にまで届くことでしょう。
ダンジョンという名の果実を知った人々がさらに集い、アルフィンはさらに栄えるのです。
報せがいち早く届き、広まるように工作をする予定なのはレオに秘密ですけど……。
「リーナ! 集中していないと危ないよ」
レオの声は下から、聞こえてきます。
そこそこ揺れますから、たまに変な声が出そうに……え?
別に変な意味で
彼に
「その言い方だと余計に変に聞こえると思うんだ」
「何がですの?」
黒獅子に獣化したレオの上に
おかしなことはしてませんでしょう?
レオは
「わーわー! それは言わなくていいって!」
人前でも結構、大胆なレオが恥ずかしがるなんて、珍しいですわ。
誰も見ていませんし、聞いていないのですから。
レオの
「最初から、飛べば良かったのではないかのう?」
上から降ってきた声の主は爺やです。
宙を漂いながらもしっかりとレオの疾走についてくるのですから、さすがは
二人きりで塔の攻略なんて、まるでデートみたいで素敵!
そんなことを考えていて、前日の夜は中々、寝付けなかった私の睡眠時間を返して欲しいですわ。
お祖父さまが二人だけでは塔の視察と記録にならないという名目で爺やの同行を条件にしたのです。
すっかり、忘れていた私が悪いのですけど。
一度、ダンジョンに潜れば、すぐに帰れるという保証がありません。
爺やが同行するのは理にかなったものですし……。
断る理由がありませんもの。
不見の塔までの道中、爺やに揶揄われながら、何事もなく、到着しました。
レオのふわふわした
レオの上だから、ちょっと変な気分になっただけなのです。
アーテルに
きっとそうですわ。
「珍しいタイプのダンジョンじゃな」
「不思議ですわね」
「見えないようにしているのかな」
塔を見上げると薄っすらと霧がかかったようで頂上部がはっきりと認識出来ません。
認識を阻害する何らかの魔力が散布されているのかしら?
消すことは簡単ですけど、それでは面白ありませんわ。
「だから、不見の塔なのかな」
「ならば、わざと見ないで行く方が楽しめるじゃろうて」
本を読むのが好きな私にとって、結末を先に知るほど、興を削がれることはありません。
その点でこの塔の主は人間という生き物と心理を多少なりとも理解している、ということになりますわ。
「御宅拝見というやつじゃな。ワクワクしてきたのう」
獣化を解いたレオと指を絡め合って、軽く抱き締めてもらい、レオ成分を補充していたのに……。
さりげなく幸せな気分を味わっていたところで爺やが変なことを言うから、台無しですわ。
「よしっ! それじゃ、行こうか」
金属製の両開きの大きな扉を開くべく、レオが触れようと近付くとその気配を感じたのか、扉が金属の軋む奇妙な音を立てながら、開き始めるのでした。
扉から垣間見えるのは深淵。
久しぶりの来客を喜んでいるように見えますけど、実は手ぐすねを引いて待ち受ける何かがいるのかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます