第158話 まさか、水着に着替えて、水遊びをするなんて言いませんよね?

 受け取らない限り、レオが何も話してくれそうにありません。

 仕方なく黒のビキニを受け取りました。

 本当に仕方なく、ですからね。

 受け取っただけで着替えるとは言ってませんのよ?


「リーナが凍結させたから、あとは僕の雷撃で塵一つ残さず、消えたよ。安心して」


 そして、なぜか、二人で砂浜を散策しているのです。

 レオと指を絡め合い、ぴったりと寄り添って、荒れ果てた砂浜を歩いていると何だか、不思議と感傷的な気分に浸れますわ。

 別にビキニを持っているからではありません。


「あっちにまだ、無事なところがあるんだ」

「そうですの?」

「行ってからのお楽しみだよ」


 あら?

 おかしいですわね。

 途中まで彼と手を繋いで、砂浜をゆっくりと歩いていたのです。

 気付いたら、また横抱きに抱えられていた訳で……。

 もう、諦めましょう。

 レオに甘えてはいけない、なんて考えなくてもいいんですもの。

 甘えてもいいのよ。

 でも、外でこんなにも間近で……しかも素肌で接しているといつもと違う気分を感じてしまいます。


「リーナ、ほら見て」

「わぁ……」


 そこはあれだけの激しい戦闘が行われていた中、奇跡的に被害を受けなかった岩場でした。

 そして、私達の前に広がっていたのは一枚の絵画のような美しい情景。

 今まさに沈まんとする陽の光に彩られた夕焼けの色をした空と海。

 何て、幻想的なのでしょう


「きれいですわ」

「うん」


 暫く、レオの胸に抱かれたまま、夕闇に染められた景色と彼の顔に見惚れてしまいました。

 ごめんなさい。

 この景色を見せようとここまで連れてきて、くださいましたのね?

 思ってもいなかったですわ。

 レオのことですから、また、何かエッチなことを企んでいるものと思ってましたもの。

 警戒していたのですけど、気のせいだったのだわ。


「さて、じゃあ、それに早く着替えて」

「んんん?」


 え、えっと、おかしいですわね。

 先程の私の感動を返して欲しいですわ。

 『ごめんなさい』と謝った私の気持ちも返して欲しいですわ。

 そのような心の叫びが届くことはないと分かってますけど!

 『誰も見てないから、大丈夫だよ』と目の前で着替えさせられるのもどういうことですの?

 レオったら、また新しい知識を仕入れたのかしら?


「うん、やっぱり、リーナは黒いビキニが似合うね」

「そ、そうかしら。あまり、ジロジロと見ないでくださる?」


 いくら、レオでもそこまであからさまな視線を向けられると恥ずかしいです。

 それ以上のことをしていてもそれはそれ。

 これはこれですもの。

 でも、似合うと素直に褒めてもらえるのですから、悪い気はしないのも事実ですわ。

 以前の私なら、ワンピースの水着しか着ませんでしたから。

 今はレオが毎日のように……マッサージしてくれますから、ビキニでも問題なくなったのよね。

 本当に効果があるとは思っていなかったので驚くしか、ありません。


「それでレオ。まさか、水着に着替えて、水遊びをするなんて言いませんよね? 日も落ちてきましたし、そういう時間ではないと思いますの」

「そうだね。日も落ちてきたから、丁度いいんじゃないかな?」


 あの……何かを揉むように手をワキワキしているのは何ですの?

 嫌な予感ではなく、身の危険を感じるのですけど。


「さっきの借りを返して欲しいなぁ」

「え?」


 これは絶対、例の本屋さんで新しい本を買ってきたと見て、間違いないですわ。

 目が本気ですし、つい視線を下ろした時に不可抗力で見てしまったレオのレオが水着を破らんばかりに元気なのですけど!?

 凄まじいプレッシャーに後退ろうとして、逃げ場がないことに気付きました。

 岩場に誘い込んだのはこの為でしたの?


「いや、違うけど?」

「では本当に先程の景色を見る為でしたの?」

「そうだよ。だから、とりあえず、後ろを向いて、その岩に両手をついて」

「ふぇっ!?」


 ちょっと舌を噛んでしまいました。

 まさかとは思いますけど、そのまさかですわね。

 これはもしかしなくても、ディナーに間に合わないパターンですわ。

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