第132話 全然、気にしていませんのよ?
あれから、一週間が経過し、アルフィン城の地下研究施設にかなりの量の素材が集まりました。
私とレオが持ち帰った毒竜の亡骸は十メートル級のドラゴンの骨と鱗です。
それなりに利用価値は高いのですが、毒が残っていると危険ですわね。
一応、
これがあれば、ほぼ鉄屑と化しているヘクトルも大改修が可能ですし、ク・ホリンとロムルスの改修も出来ますわね。
ニールとキリムが持ち帰ってきたのはワイバーンの素材です。
それも大量に持って帰ってきたのですけれど、素材としての質はあまり期待出来ません。
二人ともまだ、子供っぽいところがありますから、それが悪い方に働いてしまったのかしら?
使えないことはないのですが、破損が激しいのが難点ですわね。
それでも数は多いから、優秀なスタッフがどうにか、してくれるとは思いますのよ?
フュルフールさまとアモンさまは暴竜と呼ばれていたザルティスの討伐に行ってもらいました。
ところが実情はかなり異なっていたようで持ち帰ってきた素材がなぜか、
凶暴にして、近隣を脅かす存在とされていたザルティスが、実は人畜無害の温厚な年老いたドラゴンだったのです。
全長が軽く五メートルを超え、より凶暴になった性質と戦闘に適した進化を遂げた危険な魔物でもあります。
全身を覆う獣毛は矢を容易に弾くほど、鋼鉄のように堅く、並みの弓では傷を負わすことすら出来ません。
しかし、名の由来ともなっている特徴的な四本の前腕にこそ、
長く鋭い爪で武装された四本の前腕は二足で立ち上がった際の戦闘力を向上させるだけでなく、四足で疾走する際にも大いに役立ったのです。
そして、この熊が危険視されるのはその巨体を維持しようと周囲の動植物を喰らい尽くすところ……。
その為、お二人は予定を変更し、ザルティスを助けるべく、近隣を荒らしていた真犯人たる
その肝や肉は弱っていたザルティスに渡したとのことなので近く、会うことになるかもしれませんわ。
⚔ ⚔ ⚔
レーゲンは初めのうち、急に変化した環境に戸惑っているように見えました。
まだ、幼いのに過酷な状況に置かれたのですから、仕方がないことでしょう。
しかし、彼は見ている私やレオが驚くほど、順応するのが早かったのです。
彼は生まれた時から、旅をしていたとたどたどしい口調ながらに淡々と語っていました。
順応性の速さは幼いながらに彼の処世術だったのでしょう。
ただ、心配するようなことは何も起きず、兄弟のいないレオは弟が出来たみたいで嬉しいみたい。
暇さえあればレーゲンと遊んだり、剣の持ち方を教えて上げたりととても、楽しそうですわ。
ええ、本当に楽しそうですから、全然、気にしていませんのよ?
いつものように求めてもらえないから、寂しいなんてことはありませんの。
「あのお嬢さま……掃除が大変になるのでそろそろ、やめましょう?」
「でも……」
「お嬢さまも一緒にやれば、いいんじゃないですかぁ?」
「だって……」
「はいはい、四の五の言わずにサンドウィッチ持って行ってくださいよぉ。掃除の邪魔ですよぉ?」
ベッドの上で膝を抱えながら、ひたすら花占いをしていたら、アンに追い出されてしまいました。
私の部屋ですのにアンったら、酷いですわ。
分かっています。
そうでもしないと動きませんものね。
何だか、ちょっと悔しいですけど、アンの思惑通りに動いてあげるとしましょうか。
ランチの準備で忙しそうな厨房に入ると一瞬、ギョッとした顔をされましたけれど、いつものことと邪魔にならない端のスペースに既に食材が準備してありました。
特に料理長が腕によりをかけて仕上げたローストビーフは一流店にも負けない味ですわ。
ソースを塗って、パンにローストビーフを挟んで。
はい、出来上がりですもの。
ただ、これがお料理と呼べるものかは分かりませんわ……。
でも、レオは本当に美味しそうに食べてくれるので私も幸せを感じられるのです。
城内ですから、バスケットに入れる必要もありませんよね?
大丈夫ですわ。
お皿のまま、持っていきましょう。
『皆さま、いつもありがとう。それではごきげんよう』とサンドウィッチのお皿と中庭の練武場に向かうことにします。
料理長が『お気を付けて』と物凄く、心配されたのが気になりますけど。
なぜかしら?
着くまでに二、三回は突っかかりましたけど、サンドウィッチは無事ですわ。
一度、盛大にサンドウィッチが宙を舞ったのですけど、黒い影がサッと視界を横切ったかと思うとちゃんとお皿に戻っていましたから、問題ありません。
あれは恐らく、アンディですわね?
気にしたらいけませんわ。
気付いても、気付かない振り。
それがマナーというものですわ。
「レオー、レーゲン。お昼にしましょう」
「リーナ! 会いたかっ……それ、どうしたの!?」
小さな木剣を構えるレーゲンの手を取って、優しい表情を見せているレオの姿は本当の兄弟か、親子のように見えます。
その二人が私の方に振り返って、やや青ざめたような顔をするのはなぜかしら?
サンドウィッチは無事ですのよ?
セットした髪が少々、乱れていて、あちこち跳ねているのと手の甲や膝を擦りむいたくらいですもの。
それから、用意されるのはお皿ではなくかわいいバスケットになりました。
理由を聞いても誤魔化すように皆、微笑むだけで教えてくれませんの。
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