第104話 深く考えても無駄よ、無駄
レオが拗ねてなければ、いいのですけど。
アン曰く、女子会(女子しかいませんものね?)ですもの。
年頃の女子の中に殿方一人は居づらいものでしょうから、さすがのレオでも無理でしょう。
ん?
本当に無理かしら?
今回は渋るレオに森に隠したフリアエ、ヤマトタケル、ク・ホリンの様子を見に行くように頼みました。
それでどうにか引いてくれたのですけど。
レオなら、例え女子会であろうともずっと隣にいてくれるでしょうね。
次回からは同席することになったら、どうしましょう。
変な火花が飛び散りそうですもの。
🐍 🐍 🐍
この女子会、公的にはお茶会と称していますが顔触れはほぼ、いつものメンバーなのです。
妹であり、不在の間、代わりを務めてくれるアイリス。
東のエルフの王国ヴァイスリヒテンの第三王女で学院時代の後輩エレオノーラ。
アンもメンバーですが給仕もこなさないといけないので大変ですわね。
南の竜王たるエキドナが今回は欠席しているのでひたすらクッキーを頬張っているニールが代わりということでいいかしら?
そうそう。
今回から新しいメンバーが加わりましたのよ?
「それでですねぇ、お姉さまぁ」
私の右腕を絡め取り、そのよくお育ちになった身体を密着させてくるのはエルことエレオノーラです。
悪意ではなく、好意で私へのスキンシップが過度なくらいに密着してくるのですけど、悪意がない分、より残酷とも言えるかしら?
小柄で童顔。
吊り目気味の私と違い、垂れ目で庇護欲をそそるような美少女ですもの。
それにとてもお育ちになってますのよ?
「お姉さまにあまり、慣れ慣れしすぎではありませんの?失礼ですわ」
逆の手を取って、身体を密着させてきたのが新メンバーの一人レライエです。
お爺さまと爺やが完成させた器であるホムンクルスの身体が完成し、魂の移植も問題なく成功しました。
数千年振りに肉体を取り戻したもののまだ、完全に身体が馴染んでいないらしく、以前のように自由に魔力を使えないようです。
「そういう、あなただってぇ。馴れ馴れしくありません?」
「わたしとお姉さまは実の姉妹のように深い関係なのですわ」
「わたしだって、そうですしぃ。おとといきやがれですわぁ」
「なんですってぇ。わたしの方が深い関係なのですわ。あなたこそ、顔洗って、出直してきやがれ、ですわ」
私を間に挟んでかわいらしい子猫が二匹『うにゃー』『うにゃにゃー』と威嚇し合っているこの状況、どうすればいいのかしら?
アイリスは我関せずを貫いて……というより、目が合ったら、思い切り逸らしましたわ。
そうなのです。
アイリスも双子の妹なのによくお育ちになっておられますのよ?
レライエも小柄で垂れ目でよくお育ちになっておられまして……これは新手の嫌がらせなのかしら?
そんな中、私の癒しとなるのはもう一人の新メンバー・ターニャですわね。
所在なさげに目を泳がせていて、本当にかわいらしいですわ。
体つきもお育ちになっている方々と違って、どことなく親近感がありますもの。
さて、あの二人は仲良く喧嘩しているだけですから、とりあえず、そっとしておきましょう。
下手に口を出すとさらに面倒なことになるのは目に見えてます。
「ターニャ、気に入ったお菓子がなかったかしら? それとも紅茶が口に合わないかしら?」
「あっ……え、いえ、そうじゃなくって」
そう言うと俯いてしまうターニャの姿はまるで捕食者に睨まれたか弱い小動物みたい。
見ているだけでも癒される可愛さですわ。
ん?そのような言い方をすると私がまるで捕食者みたいですわ。
「わ、わたしなんかがいて、いいのかなって」
”わたしなんか”と卑下してますけど、普通の女の子ではないということに気付いていないのかしら?
普通の女の子ではアレを動かせませんもの。
「そんなこと気にしなくて、いいんじゃない? 姉さまって、そういうの気にしないし、私なんて、ほぼ普通の子よ? あっはははっ」
公の場ではないので私の振りをする必要がないからか、素のアイリスが出てますわね。
確かにそういうのを気にしませんけど!
アイリスの普通の女の子らしいところを好ましく思っているのも事実です。
「で、でも、お姫様なんて、手が届かない存在でわたしは……普通だし」
私の後ろでいがみ合っている二人は王女と女神(仮初の身体ですが……)ですし、私とアイリスも公女ですから、身分という枠組みで捉えると委縮するのは仕方のないことですわ。
でも、ターニャ自身がそうであったら、気にならなくなるものかしら?
「ターニャは身分を気にしているのでしょう? でしたら、あなたが普通の女の子ではなかったら?」
「へ?」
動かしたのではなく、動かせた。
この事実が彼女の普通ではない証拠なのです。
「あなたの中にオルレーヌ王家の血が流れているとしても?」
「ええええ!?」
🐍 🐍 🐍
その後、軽くパニック状態に陥ったターニャを落ち着かせるのに多少の時間がかかりました。
収拾のついたところで優雅なお茶会を再開ですわ。
「お姉さま、ベリアルの気配がしたというのは本当ですの?」
「レオもそう感じたようですから、確かですわね」
ベリアルはまだ、人ではなかった頃の知己であり、レオのいえ……ベルゼビュートの盟友でもあった男。
彼は混沌や同族との長い戦いの果てに独特な考えに行き着いたのです。
大きな力で恒久の平和を保つことは出来ない。
大きな力は世界にとって禍根となる。
ならば、常に争いが起こるように種を蒔くべきである、と。
当然のようにレライエとも良く知る仲だったのですけど……。
「私はレムリアの宰相であった男こそ、ベリアルではないかと考えておりますの」
「あぁ、あの狐さんかぁ。あの人、うちのパパとママにも何か、仕掛けてきてたみたいですよぉ」
「そう……やはり。あの男がベリアルかしら? 消息を絶っているとの報告が上がっていますし、どうしたものかしらね」
「じゃあ、赤いのが暴れていたのって、その人が原因なんですか?」
純血種のみを優遇するという極端な差別法が布告され、それを見届けるように帝国宰相メテオール・レンバッハが姿を消した、という報告がアンディから上げられたのは。
それから、時を置かずして発生したのがク・ホリンの強襲。
まるで謀ったようなタイミングですわね。
「彼が目指すのは永遠なる灰色の世界。力が一極に集中しないように避けるという強迫観念に駆られているんですもの。だから、強大な力であるレムリアを毒で蝕むように徐々に弱体化させたのでしょう。仕上げとも言うべき、毒があの法ですわね」
しかし、ク・ホリンを仕掛けてきたことはベリアルの行動理念から解せない一手ですわ。
あれも計算のうちだとすれば、フリアエという強力な力が解き放たれてしまったのです。
おかしくはないかしら?
やはり、どう考えても変ですわ。
それとも……それだけの大きな力がないとベリアルの恐れる事態に陥るということかしら?
「深く考えても無駄よ、無駄。なるようになるわ。あははは」
楽天的で前向きなアイリスが羨ましいわ。
ニールと張り合うように無邪気にケーキを食べる姿を見ると考えすぎも害悪ですわね……。
「そうですわね。今は皆さん、お茶とお菓子を楽しんでくださいな」
アイリスのお陰でお茶会は終始、和やかな雰囲気のまま、無事に終わりました。
これからはアイリスに主催させるのも悪くないかしら?
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