第97話 守るんだ、わたしが!
耳をつんざくような轟音とともに馬車が激しい揺れに襲われました。
危なかったですわ。
ターニャの感知があったからこそ、気付けたのですから。
「二枚ほど門が破られたようですけど、問題ないですわ」
「ええと、僕は……」
レオの口に人差し指を当てて、やんわりと止めます。
そうしませんとレオは本当に向かっていきそうですもの。
隊商の積荷として、運ばれていた時を未起動状態とするとターニャを
まだ、産声すら上げていなかったのです。。
それが
ヤマトとターニャはともに経験することでさらなる成長を遂げる可能性があるのです。
「わたし、行く」
私がレオを軽く止めているとあれほど怯え、俯いていたターニャが顔を上げました。
そこにいるのは心を決め、穏やかさの中に厳しさを秘めた
「守るんだ、わたしが!」
ターニャが勢いよく、馬車を飛び出していきました。
輝きを放ち始めた瞳とともに駆けていく少女の未来に幸あらんことを……。
「それでお嬢さま、そんな余裕かましてて、平気なんですかぁ?」
アンが鳴り止まない衝撃音に顔をしかめながら、そう言う理由は分かりますのよ?
揺れが相変わらず酷い中、何か言いたげなレオの口にチョコレートを押し込んでいるだけで動こうとしないからです。
「アン、焦る必要はありませんの。計画書に記されていた地はここですわ。謀られた気が否めないのは少々、腹立たしいですけれど、全て問題はありませんのよ?」
そう、
ただ、この世に絶対はありません。
二枚破られ、三枚目にもひびが入ってますから、侮れませんわ。
さすがは神殺しとして、造られし騎士ですわね。
🤖 🤖 🤖
ヤマトが差し出してくれる手に乗って、自分の意志でヤマトを動かそうと決めるなんて、思わなかった。
ちょっと前のわたしじゃ、考えられないことだ。
蔓が手足に巻き付き、頭と胸にも蔓に似たものが巻き付いてくる。
ちょっと感触が違う気がする。
もっと何か、こう繋がっている感じが強い。
「でも、やっぱり気持ち悪い……」
何度、経験してもこの感覚は気持ち悪くて、慣れないものだ。
宙吊りにされていて、気持ちいい人いるのかな?
いないよね? まさか、いるの!?
妙な思考の海に溺れかけてしまう。
『ク・ホリン』
え?
いつも壊すとか、消すとか、物騒なことしか、流し込んでこない頭の中のあいつが初めて、まともな単語を喋るもんだから、びっくりしちゃう。
もしかして、アレの名前?
こちらの出方をうかがうように青い光を放つ大きな一つ目を動かしながら、ゆっくりと近付いてくるのはヤマトと同じくらいに大きな、二本の足で歩く巨人だった。
血を浴びたみたいに真っ赤で全身に尖った棘みたいなのが生えていて、頭にも角が生えてる。
おとぎ話に出てくる鬼って、あんなのだよね。
右手には三つ又に分かれた槍を持っているんだけどその大きいこと。
軽く十メートルくらいはありそうだ。
『ムラクモ……トレ』
言われるがまま、右手をかざすとどこからともなく現れた大剣ムラクモがその手に収まっている。
どういう仕組みなんだろうと不思議に思っている間もなく、反射的に身体が動いた。
横に薙ぐように払われたムラクモによって、赤い奴の額から放たれた雷のようなものが弾かれる。
その雷みたいなのが近くの木々を薙ぎ倒しながら、凄まじい炎を上げてる。
何なのよ、あれ!?
当たったら、死んじゃうじゃない。
「わたしがどうにか、しなきゃ」
わたしが迷わなければ……。
わたしが決めていれば……。
だから、もう迷わないんだ。
決めた!
この力はきっと守る為のものだ。
奪う為のものじゃない。
「やあっ!」
槍を構える動作に入った赤い奴との間合いを一気に詰める。
ヤマトはこんな大きな図体の割に信じられないくらい軽やかに動けるのだ。
わたしは空を飛べないけど、もし飛べたら、こんな感覚じゃないのかなってくらい。
そして、奴を捉えた。
両手で握り締めたムラクモを最上段から、振り下ろす。
赤い奴の頭を目掛け、渾身の力を込めて。
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