第80話 あなたは愛が何か、本当に分かってますの?
私は今、一人で優雅とは言えない空の旅をしておりますの。
目的地は白銀に包まれた美しき、オデンセの頂にある彼女の巣。
いえ、お城と言うべきかしら?
一人なのはどうしてですって?
オデンセに住まう主は私と同じ、氷を得意とする者とみて、間違いありません。
そうである以上、周囲に危険が生じるのは必定。
ニールとアンには村の方でお留守番してもらうのが一番いいのです。
優雅ではないのはなぜですって?
それは自分の力で羽ばたいて、飛ばないといけないからですのよ。
意外と重労働でしたのね……。
今日の私の出で立ちは割合、シンプルな物です。
レオの色である濡れ羽色を基調としたクラシカルでシックなデザインのドレスですもの。
ただ、今回の依頼内容から、何らかの戦いに巻き込まれるのは予想していたので袖丈こそ、手首までを完全に覆う長いものですが裾は膝上くらいに抑えてあります。
これくらいなら、動きやすいですし、蹴りやすいのですわ。
また、これは最後までレオに反対されたのですけど背中部分が肌を露わになった少々、大胆なデザインになってますの。
『リーナの背中を見ていいのは僕だけだ』って、たくさん噛まれましたから、背中には彼の物という証である赤い痕が点々と付いています。
でも、このデザインにはちゃんとした理由があるのです。
肩甲骨の辺りから伸びる大きな黒い翼。
この為にわざと背中を開けたのです。
露出狂の類ではありませんもの。
翼の邪魔にならないようにしたかっただけなのですけれど、レオが変なところで独占欲を出すのですわ。
『そんなに想ってもらえて嬉しい』なんて言ったら、彼はどんな顔をするのかしら?
羽ばたくたびに黒い羽毛がまるで雪のように舞って、ちょっとした詩的な美しさを感じますわ。
問題はそれが闇のように黒い羽毛ってところですけど。
どうして、黒く染まったのかしら?
元々、私の翼はどこまでも澄み切った真なる白でしたわ。
髪も元々は太陽のように眩い黄金の色だったのに冥府で暮らしている間に今のような白金色になったのよね。
色素が薄くなったのかしら?
ならば、翼が黒くなったのも自然な現象…ではないですわね。
「レオの髪と同じ色だから、これでいいですわ」
お揃いみたいでちょっと嬉しいですもの。
そんなことを考えているうちに視界に入って来たのはまるで氷のブロックで組み立てられたような大きな建築物です。
美麗なアイスブルーのお城は氷の城と言ってもおかしくないですわ。
「まるでおとぎ話に出てくるお城のようですわ」
お城に住まうのは夢を見たまま、未だに見果てぬ夢を追いかけるお姫様かしら?
🐉 🐉 🐉
氷の城の前に降り立つと城の主は盛大な歓迎をしてくれるようです。
まるで私が来ることを知っていたかのようですわね。
これは中々、楽しめるのではなくって?
氷のブロックが組み合わさり、人の形を成したモノが少なく見積もっても十体以上、私の前に立ちはだかっています。
命名するとすれば、アイスゴーレムとでも言うのかしら?
「どうやって、お片付けしましょう」
炎の魔法はあまり、得意ではありません。
だからといって、全く使えない訳ではなく、爺やとの繋がりにより、そこそこは使えるのです。
この一帯を灼熱地獄に変えるくらいは欠伸しながら、片手間でも出来ますもの。
ただ、それで終わらせるのではあまりに面白みがないのです。
あっという間に溶かすだけなんて、何と芸がないのでしょう。
そこでちょっと考えましたわ。
腰に佩くオートクレールを抜き、魔力を充填させます。
オートクレールは魔力で操れる
理論上は魔力が許す限り、どこまでも伸ばして攻撃が可能なのに加え、魔力に応じた魔法を刃に乗せることも出来るのです。
「でも、普通に炎で溶かしたりはしないわ」
横薙ぎにオートクレールを振ると切っ先が次々とアイスゴーレムの中心部を貫いていきます。
勿論、ゴーレムには痛覚に該当するものがありませんから、体が連結されているのを一切、気にも留めず、私に向かってこようとしています。
でそこに軽く炎を流してから、
ガラガラと音を立てて、崩れていくアイスゴーレムの群れ。
成功ですわね。
炎で溶けたところを瞬間凍結されたんですもの。
液体が急速に固体に変われば、構成する要素が持ちこたえられなくなり、自壊しますのよ?
「前座は終わりですわ。さぁ、あなたの力を見せてくださいな」
城のバルコニーに佇み、こちらを見下すように見ていた少女の身体が宙に浮かび、すっと音も無く、地面に降り立ちました。
バルコニーにはもう一人、人影がありますけどそちらは身動き一つしません。
それもそのはずですわ。
全身が凍り付き、氷の彫像と化しているのですから、動けるはずもありません。
彫像の正体は連れ去られたカイさまですわね。
それにしても身のこなしが優美でまるで貴族の令嬢のようですわ。
抜けるように白い肌と雪のように白い髪。
この白銀の世界に生まれるべくして、生まれたと言っても過言ではないでしょう。
その瞳は妖しく、金色に輝き、私を射竦めるような視線を向けてきます。
予想が正しければ、彼女はニールと同じ
白銀の世界を生きる純白の美しきドラゴン・ヘイグロト。
ヘイグロトは吹雪姫と呼ばれ、休眠期に入っていたはずですが、いつ目覚めたのかしら?
「あたしの邪魔をしないで。あたしは愛するカイとここで幸せに暮らすの」
「愛ですって?あなたは愛が何か、本当に分かってますの?」
恐らく、彼女はまだ、幼いのです。
見た目こそ、ニールよりも大人びて見え、私と同年代くらいのようですけど、愛を語るほどの経験をしていないのでしょう。
好きと愛は似ていても違うものですのよ?
ヘイグロトがカイさまを好きであるのは間違いないのでしょうけど、それがあまりに一方的過ぎた為に今回の騒ぎになった。
まるで種でも蒔かれたように自然過ぎて、気味が悪いですわ。
何者かの邪な思惑を感じざるを得ませんもの。
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