第55話 レオは名探偵にでもなりたいんですの?
「あら?」
「あれ?」
冒険者ギルドでレオと鉢合わせました。
考えることも動くことも一緒なんて、嬉しいですわ。
アンには待ち合わせや留守を預かった場合、動いてはいけないと釘を刺されたのですけど。
『先んずれば即ち人を制す』のですから、動いて正解だったのです。
『それは結果論ですよぉ』とアンが天を仰いでますけれど、気のせいですわね。
最初から手分けをして探す必要がなかったのですわ。
無駄なことをした気がしますけど張り切って、悪漢を退治するアンの姿を見れたのでよしとしましょう。
「客層の信頼が出来て、お食事も期待出来る。そのような宿がないか、お願いできるかしら?」
「かしこまりました、お嬢さま。宿代はいかがいたしますか?」
「考慮する必要ありませんわ」
「かしこまりました」
一礼すると背筋を伸ばし、しゃなりしゃなりとしたきれいな姿勢で歩くアンはどこからどう見ても一流のメイドです。
どこに出しても通用する私自慢のメイドですもの。
ただ、生き生きとして動いているのは先程のような血を見る時なのはなぜかしら?
私の周りには血の気の多い子ばかり集まる気がするわ……。
「ねぇ、レオ。今のうちにクエストを考えておくべきではなくって?」
「そうだね。討伐の方がいいよね?」
「ダンジョンに関連するものがあれば、一番ですわね。目的を達成しやすいですもの」
「うん、分かった!」
オルレーヌに行く前にレオの力を完全に取り戻したいのです。
その為には情報を集めるのが最善の道でしょう。
現在までに手にした情報は大陸西部のダンジョンに伝説の鎧が眠っているらしいということだけ漠然としていて、まるで頼りにならないわ。
雲を掴むような話ですけど仕方ないですわね。
「ママ―、お菓子はー?」
「お腹空いたデス」
「あの、レオ」
「うん、分かってる。僕一人で探してみるよ」
ニールとオーカスに腕を引かれ、クエストボードに向かうレオに暫しの別れを告げました。
別れるのが辛いですわ。
ええ。
ちょっと大袈裟過ぎるかしら?
距離としては十メートルも離れてませんものね。
「これはどうかしら?」
一個で足りるとは思えませんけど。
「このパン、甘いから、好きだーよ」
ニールは満面の笑顔で齧りついています。
どうやら、気に入ってくれたみたい。
このパン、特注ですもの。
紡錘形で長さは五十センチ近くあります。
大食漢でも満足出来るよう、作っただけあって、甘い物に目がないニールの為に砂糖を大量にまぶし、さらに砂糖を超える糖度の樹液から精製した特製のシロップがたっぷりとかけてあるのです。
これ以上ないというくらいに甘党仕様のパンと言えるでしょう。
幸せそうに齧りつく二人の様子はとても微笑ましいのですけど、べたべたの手はどうにかしないと悲劇が起こりますわ。
「リーナ。二個ほど良さそうなのあったよ。どうかな?」
レオが意外と早く戻ってくれました。
何とか、特製菓子パン一個の損失で済みそうですわね。
「これとこれなんだけどさ。気にならないかい?」
そう言って、レオは二枚のクエスト票をテーブルに提示します。
一つ目はリジュボー南東に位置するダンジョン『怨嗟の迷宮』を対象とした討伐クエスト。
ダンジョンが対象なのはいい点ですわ。
えっと何々……虫……む……し………・…ですって?
「ええ、レオ。とても気になりますわ」
バキッという音とともにテーブルの端が折れました。
全く、誰かしら?
酷いことをする人の顔が見たいですわ。
「う、うん。それはないよね。うん、ない」
二つ目はリジュボーで起きている謎の連続変死事件の捜査。
『この一ヶ月、八人の男性が変死している。
八人に共通点は性別が男性というだけであり、年齢や職業、身分などには全く、共通点が見られない。
死体には目立った外傷は見られないが被害者は全員、脳を失っている。』
この所見だけでは犯人が特定出来ませんけど、脳を喪失しているという点が気にかかりますわ。
「レオは名探偵にでもなりたいんですの?」
「リーナがそういうの好きかなって。好きだったでしょ、そういうの」
それは前世のお話ですわ。
確かに名探偵が活躍するミステリーが好きでよく読んでいました。
ですが、それはあくまで娯楽として楽しんでいるだけですわ。
自らが体験したい訳ではありませんのよ?
「私が探偵に向いていると思いますの? それに魔法があるということをお忘れではなくって?」
「そうだった。魔法があるんだった……」
アースガルドには魔法や特殊な力が存在していますし、不思議な生物が跋扈し、超常現象も日常茶飯事なのです。
密室トリックも転移の魔法が使えれば、簡単にこなせます。
ただ、魔法を使った痕跡が残りますから、完全犯罪とはなりにくいのですけど。
魔物の仕業という可能性も否定出来ません。
内臓だけを好んで食する魔物も少なくはありませんもの。
また、死者に直接聞くという手もありますわ。
この手段はミステリー小説の犯人が知りたいと落ちだけを先に読むのと一緒と言えるでしょう。
要は面白みに欠けるのです。
名探偵気分を味わうのでしたら、絶対に取りたくない手段ですわ。
「えらく考え込んでるってことはやる気十分かな? このクエストにしようか」
「は、はい……」
色々と思案し始めた私を見て、レオにここぞとばかりに押し切られた気がしますわ。
是と答える以外、答えがあるのかしら?
そんな良く分からない状況になっているとは知らないアンが丁度、受付から戻ってきました。
目を丸くして、驚いくアンの姿も珍しいですわね。
いつもと違って、新鮮でかわいいわ。
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