第50話 その器用な手はもって生まれたものですの?

 深い海の中をただ、ひたすら往く旅は退屈なだけではありません。

 夜の帳が下りても分からないのです。

 昼夜の区別がつかない、はっきりしない。

 思っていた以上に人に苦痛を与えるもののようですわ。


 夕食は済みました。

 ですから、時間として考えれば、就寝する夜と理解して間違いないでしょう。

 既に寝衣に着替えていて、ベッドの上で見つめ合っています。

 はい。

 逃げ道がないですわ。


「レオ。色々と勉強したのですけど。試します?」

「ん? 試す? 勉強? それよりさ。リーナ、顔色が良くないと思うんだ。無理したら、駄目って言ったよね」


 え? 気付いてましたの?

 彼に優しく抱き締められて、母親が小さい子にするようにゆっくりと背中をさすられると心が安らいでいくのが分かります。

 そう。

 私はこの船に乗ってから。

 正確には水中に潜り出してから、体調が良くないのです。

 本当は体調を崩したのではなく、心の問題なのですけども。


「私はほら……元々不死族ノスフェラトゥでしょ?だから、流れる水は未だに苦手意識がありますの」

「そっか。でも、それだけかな?」


 鋭いですわ。

 ちょっと具合が悪いだけでも気づいてくれるあなたですものね?


「魔女狩りと称して、おもりを付けて沈められたことがありますの。色々な死に方を体験しましたけど、溺死はあの時だけですわ。それで水中にいるとその時のことをちょっと思い出して」

「だから、具合悪そうなんだ……」


 ギュッと抱き締める腕に力が込められて、骨が軋むような痛みとともに彼がどれだけ、大事に想ってくれているのかという想いまで伝わってきて、幸せを感じます。

 水の中にいるというだけで気持ちの悪さが止まらなかったのに和らいだかもしれません。


「大丈夫ですわ。レオがいるから……平気ですもの」

「本当?」


 肩を掴まれて、真っ直ぐに見つめてくる紅い瞳と視線が交差しました。

 何度もこうして、見つめ合い幾度となく愛を交わしているのに胸の鼓動が早くなってきて。

 あまりの恥ずかしさから、火が出ていると錯覚するくらいに顔が熱くなってきました。


「ええ。レオにギュッとしてもらえるだけで力が貰えたんですもの」

「リーナ!」


 えぇ? あら? おかしいですわ。

 押し倒されたのですけど。

 寝衣のリボンが解かれ、驚いている間に全て、脱がされました。

 その器用な手はもって生まれたものですの?


 脱がせている間も私の気が散らないように唇を奪って、抵抗出来なくさせるのですから、本当油断出来ませんわ。

 こうして舌を絡め合って、唾液を交換し合っているだけでもう腰に力が入りませんもの。

 これはもしかしなくてもまずいのではないかしら?


「リーナ、好きだ。やっぱり、我慢なんて出来ない」

「レオ、きてぇ」


 あっ、つい反射的に答えてしまいましたわ。

 彼に好きって言わたら、つい反射的に何でも肯定しちゃう癖があるのよね。

 これでは火に油を注ぐようなものですわ。

 もう注いでしまったから、手遅れですけども。

 レオのレオが自己主張するように当たっています。

 それともわざと当てているのかしら?

 熱くて、硬くて……元気過ぎません?


「んっ……あんっ」


 レオのやることが段々と大胆になってきました。

 首にちょっとした痛みを感じるほど強く、口付けを落とすのです。

 痕をつけたいってことは私を独占したいってことかしら?

 そう考えたら、何だか嬉しくて。

 でも、レオは悠長に思っている暇を与えてくれないんですもの。


「きゃぅ。レオ、そこ違うからぁ」


 彼の口付けが口付けどころではなくなっています。

 胸の先端の敏感なところを口に咥えると甘えるように吸うレオを見ているとまるで赤ちゃんが母親から、お乳を貰おうとしているみたいで……かわいいですわ。

 でも、かわいいけど舌先で舐め回すのは駄目ですってば!


「あんっ、そんなのダメぇ」


 違いますわ。

 こんな執拗にねぶったり、しゃぶったり、反応を愉しむ赤ちゃんはいませんもの。

 そうやって、舌先で執拗にねぶられていると頭がピリピリと痺れるような感覚がしてきて、おかしくなりそうです。


「やぁっ、あんっ。レオ、出ないからぁ」


 ずっと吸っているけど、出ませんからね?

 右の胸がふやけちゃいそうなほど、ずっと舐められたり、吸ったりされてるんですもの。


「リーナ、イっていいよ」

「ふぇっ?」


 レオは手持ち無沙汰になった左手でそれまで放置されていた左胸をマッサージするように揉みしだき始めました。

 下から上へと持ち上げながら、蕾を摘まんでくるのですけど、我慢出来ずに声が出そうなくらい気持ちいいのです。

 これ以上されたら、絶対無理ですわ。


 私の心の声が聞こえたのかしら?

 レオは左手を胸から離してくれました。

 これで安心なんて思ったのが甘かったですわ。

 彼の手は段々と下の方に伸ばされていって、指先が入口を優しく、撫でるように触れました。

 秘裂をなぞるように刺激されるとまた、目の前がチカチカしてきて、耐えられそうにありません。


 レオは手を緩めてくれることはなくて。

 徐々に指を中にれてくるので『あぁんっ』って、反応したのがまずかったみたい。

 『もっと甘い声を出して』と言いながら、敏感なところがどこか、探そうとしています。

 指の腹で撫でたり、爪を使って刺激しながら撫でたり……絶対、うまくなってますわ。

 そんなこと前はしなかったもの!

 あっ、もうダメ!

 頭が変になっちゃいそう。


「やっ、あん……ダメぇ、もうダメぇ!」


 まさか、レオに色々とされただけで意識を失うなんて、思ってませんでした。

 頭の中がフワフワとしたような妙な気分で気持ち良くって、幸せを感じます。

 レオはどうなのかしら?

 あんなに元気になっていたのに最後まで出来なかったんですもの。

 気絶しちゃったせいよね?

 目が覚めたら、アレをああして、こうやって…考えただけで頭がクラクラしてきます。

 でも、レオは喜んでくれるはずですわ。

 今はこれ以上、意識を保つのも無理ですけど…。


「リーナ? リーナ、大丈夫?」


 レオが心配してくれて、ちょっと焦った声を子守歌のように聞きながら、私はそっと意識を手放すのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る