幕間 大海原を往く
第48話 船旅はもう少し、ロマンのある優雅な旅だと思っていたのです
装束も船の旅なのに近郊の花園を見に行く程度の軽装です。
乗船前に『海をなめるなって、言われそうだ』とレオがおどけた口調で言ってましたけど、そのような目線や態度を取られてはいません。
言葉遣いは『海の男』らしい乱雑なものですけれど、丁寧に応対しようという熱意は感じられますもの。
白銀の巨大な船体を陽光で煌めかせた
階段の手すりも非常に凝った彫刻が施されていて、何も知らない人を目隠しで連れてきたら、豪華客船の船内と勘違いするのではないかしら?
まず、案内されたのはこの船旅で厄介になる船室でした。
アドミラルコートに良く似た裾の長いコートを纏った水兵さんが部屋まで先導してくれました。
監視役兼案内役といったところかしら。
コートを纏っているのですから、それなりに高い身分をお持ちの船員さんなのね。
言葉遣いもなるべく丁寧にしようと心掛けているようですし。
たまに無理をなさっているのか、言い淀む場面がございましたけれど、そういったことをうるさく言うつもりはありません。
聞き流しておくことにしましょう。
「三部屋、用意しなくても本当にいいんですかい?」
「私とレオは同室でかまいませんわ」
船員さんはあからさまに驚いた表情をされました。
何度も確認されましたけど問題ないと思うのです。
昨夜は何か、あったような気がしますけど、覚えていないので問題ありません。
レオだって、このように狭い船の中では目立ってしまいますから、無茶しないはずですわ。
「ねぇ、レオ」
それだけで察してくれたのでしょう。
「リーナって、音が遮断出来る魔法使えたよね? なら、大丈夫だよ」
察してませんでしたわ。
爽やかな笑顔とともに無茶なことを言っている気しますの。
聞き間違えたのかしら?
「魔法が集中が途切れると効果も切れるのはご存知でしょう?」
「え?」
きょとんとした顔になりましたわ。
どうやら、知らなかったようね。
遮断して、いつものようにしようと思ってましたのね?
目を細め、ちょっと睨むと視線を逸らしましたから、図星のようですわ。
「一週間くらいですのよ?それに今日は腰が駄目ですもの」
「今日は僕だって、我慢するって。リーナに無理させると思う?」
レオのことは誰よりも分かっているつもりです。
ですから、今日はおとなしくしてくれることは分かっていますし、彼が我慢するのに苦痛が伴うのも理解しています。
そういう解消法があるのではないかしら?
今日はどうせ、おとなしくしなければいけませんし、本で勉強しておくのもいいわね。
🦊 🦊 🦊
船室へと案内されてから、すぐにジーグリットさまに連れられて、レオと二人でとある場所に向かいました。
この船の動力炉にあたる重要な部分です。
以前、感じた気配で予想した通りでしたわ。
動力炉に配置されていたのは海を支配せし、旧き友の魂が宿る巨大な魔水晶だったのですから。
「レティ。お久しぶりねと言うべきかしら?」
私の呼びかけに水晶が淡い光で光を放ったり、消えたりと点滅することで応えてくれました。
レティと愛称で呼びかけましたが彼女の本当の名はレヴィアタン。
かつて海の支配者、海底に眠る女王と呼ばれた者。
そして、私とレオと同じく、
(アーシーとベルなの? 久しいね。姿は違ってもすぐに分かった)
「あなたもすぐに分かったわ。身体はどうしましたの?」
(海の底に沈んでいるわ。傷が治らなくて、もうずっと長い間、眠っている…忘れるくらい長い間ね)
「そうでしたのね。それでレティはなぜ、人に力を貸してますの? 人嫌いなあなたがどういう心変わりかしら?」
(人に力を貸している訳ではないわ。アーシー。あやつと利害関係が一致した。それだけのことよ)
「そう……でしたら、あなたの望みが叶えられるまではこのまま、ということかしら?」
(そうなるわ。だから、私はもう少し、ココにいる)
「リーナ、どうだった?」
「レオには聞こえてませんでしたの?」
「うん、リーナが一人で喋ってるなって、思った」
ダランと力無く垂れる両耳とお尻の尻尾が見えるのよね……。
仲間外れにされたと思って、寂しかったのかしら?
「私らに見えてんのは魔水晶がただ、点滅しているだけですよ」
魔法適性の問題?
レティが敢えて、私にだけ聞こえるよう囁いたのかしら?
立場としては変わらないのですから、変なのです。
私、レオ、レティは同じ立ち位置にいた同士なのですから。
レオに聞かれても困る内容とは思えませんし。
魂の同調が起こった訳でもないのに不思議ですわ。
「レヴィアタンは体を取り戻すまで時を必要とするそうですわ。ジーグリットさま、これが望んでいた言葉かしら?」
「あぁ、そうなんだ? それじゃ、そろそろ船出してもいいかい?」
「あっ。お願いします」
そのまま、レティと別れ、連れて行かれたのは操舵室となのかしら?
それともコントロールルームとでも呼んだ方がいいのかしら?
「さあ、野郎ども! 出航だよ」
「微速前進」
「出力良好、微速前進」
レオは目を輝かせて見ていますわ。
垂れていた耳と尻尾も元に戻ったみたい。
私には良く分からない世界ですけど、男の子には何か、堪らないものがあるのかしら?
船の旅はデッキで風を受けながら、飲み物をいただく…そんな優雅なイメージを思い描いていたのですけども。
のんびりと過ごすのも悪くないと色々と考えてましたのに無駄になりそうですわ。
窓から、見えるバノジェの街並みが段々と小さくなっていきます。
ずっと離れる訳ではないのにやはり、少し寂しさが伴いますわね。
やがて、陸から遠のいたところでジーグリットさまはまた、号令をかけるようです。
「よーし、そろそろ、潜るよ」
「隔壁を閉鎖」
「隔壁閉鎖よし。潜航を開始します」
「潜航開始」
この船、予想通り、水中に潜れるのね。
帆船が主流のこの世界では明らかにオーバーテクノロジーというべき産物ですわ。
完全に水中に潜り終わると安定したからなのかしら?
もう部屋に戻っていいとジーグリットさまが仰るのでお言葉に甘えて、そうさせてもらうことにしました。
🦊 🦊 🦊
「ねぇ、レオ。船の旅って、意外と面白くはありませんのね?」
ベッドにうつ伏せに寝て、本を読むなんて。
何と怠惰な日常なのかしら?
アルフィンでは許されない(たまにしてましたけども)行為も咎める人のいない船の旅なら、余裕なのです。
でも、窓からちらっと見えたお魚さんが泳ぐ海中を眺めるとついそう言ってしまいました。
船旅はもう少し、ロマンのある優雅な旅だと思っていたのです。
大海原を眺めながら、夕陽が見えて。
二人で夜空に瞬く星を見上げて、ロマンティックに盛り上がって……などと予定を立てていた私のこの思いはどうすれば、いいのかしら?
「この船は特殊だから、しょうがないよ。潜水艦はあっちの世界でも過酷な乗り物らしいよ?」
「そうなんですの? 一週間くらいですから、大丈夫なのかしら? 長かったら、どうなってしまいますの?」
「精神的におかしくなって、心が病むらしいよ。狭いし、密室で同じような景色が続くからじゃないかな」
「おとなしく、本を読むことに専念しますわ」
レオの話を聞いていたら、恐ろしくなってきます。
本を読んでいる間は大丈夫……よね?
「リーナは腰痛いでしょ? ちょっと押してあげるよ? 遠慮しないで」
「え? ちょっと、レオ! そこは違いますわ」
「じゃあ、こっちかな?」
「だから、違いますってば!」
レオったら、『腰の指圧をする』と口で言っているのにその手は全く、腰とは関係ない場所を触っているのです。
そこはお尻ですから!
腰はその上!
もしかして、わざとやってません?
マッサージにしては揉み方がやらしいのですけど。
でも、これくらいのオイタなら、我慢出来そうね。
大丈夫ですわ。
「分かった。こっちだ」
「ひゃぅ!?」
今度は服の上から、割合、強い力で恥ずかしい場所を触られたのです。
緩やかに与えられていたささやかな快感に油断していました。
反射的に読んでいた本を思わず取り落とし、抗議しようと顔を向けようとします。
おかしいですわね、天井が見えるなんて。
「ここのマッサージの方が必要かな?」
レオの手がで緩やかな曲線を描く、胸の双丘へと伸ばされてきます。
『まだ時間が早いですわ』なんて、レオを止める理由にはならなくて。
快感も与え続けられると拷問ですのね……。
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