第39話 平穏なディナー
完全に事件を解決したとは言い難いですわ。
胸に棘が刺さって、チクチクとした痛みを感じる。
そんな気持ちの悪い状況ですわね。
ただ、ギルドから、派遣された方々はとても優秀です。
捜査は進むでしょう。
それが解決に結びつく物であるかどうかはともかくとして。
これにて、一応の解決はみたと判断し、宿に戻ろうとして、はたと気付きました。
アンはギルドから派遣された方々と一緒に来たのです。
つまり、あの二人が……。
二人だけで留守番をしているということですわ。
嫌な予感がするのですけど。
🐉 🐷 🐉
「これはまた、うん……弁償だね」
「ええ。弁償すればいいという問題ではないですけども」
半分くらいの大きさになったテーブルに
二人だけを残していったのが悪かったのよね。
高い授業料を払ったのだと諦めましょう……。
「ねえ、リーナ。過保護って、言われたことは?」
「ありませんけども?」
私が過保護に育てられたということかしら?
否定出来ませんけど特別、過保護ではなかったと思いますの。
何のことか、良く分からないので小首を傾げますとレオはこめかみに手を置いて、難しい顔をしています。
どうしたのかしら?
「僕がしっかりすれば、大丈夫かな。うん、大丈夫だ。問題ない」
「レオ、何の話ですの?」
「将来のことを考えて、ちょっとね」
「そ、そうですのね?」
将来だなんて!
もう、そこまで考えていましたのね。
頼りがいがありすぎて、五歳下とは思えないわね。
それでは旦那様と呼ばないといけないのかしら?
でも、レオって、呼びたいですわ。
「うわぁ。これはまた! 後片付けが大変ですねぇ」
後から部屋に入ってきたアンが惨状を目にして、げんなりとした顔になります。
『大丈夫ですわ、私が手伝いますもの』と申し出ましたのにやんわりと断られたましたの。
どうしてかしら?
全く、分かりませんわ。
🍴 🍴 🍴
半分になったテーブルは手の施しようがありませんでしたけれど、床に関してはアンとレオがきれいに掃除しました。
レオは手伝っていいのに私が断られたのが解せませんわ。
しかし、思ったよりも掃除に時間がかかりませんでしたから、五人揃って、夕食をとることにしたのです。
相談した結果、外食ではなく、宿でお料理を楽しもうという結論に至りました。
「レオはまた、お肉ですのね?」
「うん。リーナだって、肉でしょ。それも肉は肉だよ?」
「鶏肉だから、ヘルシーなのです。太りにくいんですのよ?」
「リーナはもう少し、肉付いたって、いいと思うんだけどなぁ。ちょっと食べてみなよ、はい、あーん」
「え?し、仕方ないですわね……あ~ん」
レオが食べさせてくれた
ソースも凝っているようで素材を殺さないよう、やや抑えた味付けにしてあるようですわ。
ちょっと甘めの味付けですから、食が進むのではないかしら?
ただ、美味しいのですけど、油っこさは苦手ですわね。
「美味しいですわ。レオも鶏肉を食べたいでしょ?」
「え?いや、別に食べたくは……」
「食べたいのよね? あ~んして」
「は、はい。食べたいです。あーん」
一口大に切った鶏肉のソテーをレオの口に運ぶともきゅもきゅとかわいらしく食べてくれるのが嬉しくて、何度も繰り返してしまいました。
あまりに何度もあげていたものですから、『それ以上貰うとリーナのがなくなるよ』と断られてしまいました。
野菜を『あ~ん』すると本当に餌付けしているようにしか、見えないですしやめておきましょう。
アンは骨付きの大きな牛肉にかぶりついてます。
彼女も狼の獣人の血を引いてますから、血が滴るようなワイルドな肉が好きなのよね。
その隣に座っているニールも本来は肉食のドラゴンですけれど、甘さを極めたシロップがたっぷりとかかったパンケーキを満面の笑顔で食べています。
こんなにも甘い物を好むというのはどこか育て方を間違ったのかしら?
オーカス?
彼はお腹が満たせればいいから、メニューの一番左から、順に食べてますわね。
少々、食べ過ぎな気がしますから、もっとしっかりと働かせないといけませんわ。
🍴 🍴 🍴
とても満たされる気分になった夕食が終わって、部屋に戻りました。
テーブルが無くなりましたから、少しだけ殺風景になりましたけど、元からそう使っていなかったせいでしょう。
あまり、気になりませんわね。
ベッドが無事でしたら、問題ありませんもの。
ちょっとはしたないですけれど、まだあの部分が痛いのです。
ベッドの上に仰向けに寝ると少しは楽ですわ。
「リーナはあの死んだ人で何か分かったことないかな?」
彼は寄り添うように仰向けに横になってくれたのです。
ぴったりと密着してますから、レオの体温を感じられて、それだけで痛みが和らぐような錯覚を覚えます。
気のせいなのでしょうけど、手も繋いでくれるので安心出来るのは確かでした。
「え? そうですわね……あの方。帝国語を喋っていましたけれど、訛りがありましたわ」
「訛り? じゃあ、黒幕が帝国じゃない国の場合もあるってこと?」
「専門的な知識はありませんから、確証がないのですけど北の訛りとも違いますわ。あれは多分、西部訛りですわ。前々世で西の小国家の王女でしたもの。聞き覚えのある訛りですわ」
「西か。西って、何か複雑なんだっけ?」
意外と勉強熱心なところのあるレオは政治情勢も網羅しつつあるのよね。
「小国がせめぎ合ってますわね。どこも頭一つ抜け出せない群雄割拠の状態ですのよ? そのせいかしら。帝国もあまり、力を入れる必要がないと判断して、放置してますの」
「なるほど、そうなると力を欲しているところが多いとも考えられるんだね?」
「はい。イニシアティブを取れますものね」
『あの子ですの? まさか』という嫌な想像が頭をよぎります。
あの子が生きていたとしたら、五十歳くらいかしら?
「リーナ、何か、難しいこと考えてた?」
「いえ。ちょっと昔を思い出しただけですわ」
「一人で悩んじゃ、駄目だよ」
「分かってますわ、レオ。……レオ?」
レオは不思議そうな顔をしているのですけど、どうかしたのかしら?
「あれ? 今日はお風呂いいのかな?」
痛いですけども鉄は熱いうちに打てと言いますわ。
ちゃんと訓練すれば、レオも我慢が出来るようになるはずですし、この痛みにも慣れてくるはずです。
本にもそう書いてありましたもの。
痛みを堪えて、よいしょっと体を起こし、レオに馬乗りになります。
「ちょっ。リーナ、いきなりはびっくりするよ」
あら? 方向を間違えたかしら?
起き上がって、そのまま馬乗りになるのは失敗ですわ。
これではレオの顔が見えませんもの。
何という残念な失敗なのでしょう。
これでは服を脱がせにくいですし、彼に背中を取られてはいけない気がするのです。
だって、嫌な予感がするんですもの。
でも、ここで焦っては負けですわ。
焦りを見せないように振舞わなくては!
「どうせ、汚れますのよ? お風呂はあ・と・で」
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