第24話 サンドイッチの食べ方間違ってません?

 目を覚ますと真っ直ぐに見つめてくる優しい瞳と視線が交差します。


「おはよう。もう昼だよ?」


 あの……えっと?

 そうですわ……あなたのせいで私が昼まで寝ているのではなくって?

 などと口に出したりはしません。

 淑女教育の賜物と年上のお姉さんは懐の広いところを見せるべきですもの。

 『余裕なところを見せるの!』と自分によく言い聞かせます。

 まずは落ち着きませんと!


「レオが放してくれないから、悪いのですわ」


 んんん?

 これでは彼を批判しているように取られるかしら?

 失敗しちゃったと思っていたら、そうでもなかったようで髪を指で梳きながら、『

やばい……かわいいんだけど』と呟くような小声が聞こえました。

 確かに聞こえましたわ。

 お姉さんですもの。

 これくらい騙して手玉に取るくらいの……と思いましたけど”放してくれないから、悪い”って照れながら、言うお姉さんが世の中にいらっしゃいますの?

 いませんわね……。

 手玉に取るどころか、取られていたのですわ。


 ⚔ ⚔ ⚔


 今日はジローのおじさまに義手を届けに行くことになっています。

 その前に腹ごしらえをする必要があります。

 私はともかくとして、レオは成長期なのですから、しっかりと食べて、早く大人になってもらわないといけませんわ。

 ただ、今から、昼食という形で宿で食事をとるよりもこのまま部屋で食事を済ませた方が合理的ですわね。

 その時、『二人きりになれて、いいのでは?』と何かが頭の中で囁きました。

 頭には捩れた角、背には蝙蝠のような翼を生やし、黒いワンピースドレスを着た何かは囁き続けます。

 『料理出来るアピールで身も心も蕩かすのよ。簡単じゃない?』と。


「私の作ったサンドイッチ……どうかしら?」

「ローストビーフのやつ?あれって、リーナが作ったんだ?」

「私でもサンドイッチくらいは作れますの。その……どうでしたの?」

「美味しかったよ。もしかして、あるの?」


 『うふふっ』と軽く微笑みながら、収納ストレージら取り出しましたるはそのローストビーフのサンドイッチが詰まったバスケットですわ。

 原理は分からないのですけど、収納ストレージに生鮮品を入れてもそのままの鮮度を保ったままで保存されるのでとても便利なのです。


「たくさん、ありますから、どうぞ遠慮なく、召し上がってくださいな」

「そっかぁ。うーん、そうだね」


 ええ? あら?

 予想ではもっと喜んでもらえると思ったのですけれど。

 これはレオの反応があまり芳しくないですわ。

 そして、今更、気付く私。

 レオも私もベッドの上に座っているのですけど、服を着てませんわ!

 これはもしかして、まずいのではなくって?


「ねえ、リーナ。食べさせてくれるのはあり? ありだよね?」


 気付くのが遅かったですわ。

 もう逃げられません。

 さっきの反応は芳しくないのではなくて、どうやって私を料理してやろうかと企んでいただけですのね?


「それは勿論、『あ~ん』ってすれば、よろしいのでしょう?」


 呆けた振りをしても無駄だということは分かっています。

 レオの目が捕食者のそれになってますもの。

 普通に手に取って、『あ~ん』で済むはずがないってことを!


「リーナが口に咥えて、食べさせてくれる方だよ?」

「うぅ。どうしてもそれでないと駄目ですの?」

「じゃないと食べないって言ったら、どうする?」


 今日中にジローのおじさまのところに行けるのか、怪しくなってきましたわ。

 『どうする?』って、私が断れないの知っていて、言ってるのでしょ?


「もうっ……分かりましたわ。あむぅ」


 サンドイッチの三分の一くらいを咥え、彼に食べさせようと近付くとガシッと力強く、抱きすくめられました。

 そのままでは苦しいので彼の首に手を掛けると体が安定して、いい感じですわ。

 距離が近すぎて、胸がレオの胸板に当たってますし、元気になっている彼の部分が触れてきます。

 これは恥ずかしいなんて、生易しいものではありません。


 でも、そんな葛藤なんて、序の口に過ぎなかったのですわ。

 サンドイッチに食いついたレオはもきゅもきゅと美味しそうに頬張りながら、さらに近付いてきて。

 当たってますから! まずいですから!

 大人になるまではいけないと思いますわ!!

 頭の中で白いのや黒いのが右往左往して、あわあわしている間に唇と唇が触れ合っていました。


「掃除しないと駄目だよ」


 互いの舌を絡め合って、見つめ合いながら、『銀の橋で繋がってるみたいで素敵』なんて、半ば熱にうなされたように思って。

 つい彼の唇についた油とソースを取ってあげたくなったので舌で丁寧に舐めたのがまずかったのですわ。

 そこから、レオの何かのスイッチが入ったようで押し倒されて、『これ以上はダメですわ!』と当たっている彼の熱を感じました。

 覚悟するように瞼を閉じたら、違ったようですわ。


 早とちりでしたのね、あははは……。

 レオの舌が口の中を好きなように犯すだけの時間だったのです。

 サンドイッチを食べるのではなく、私を食べたいだけではないのかしら?

 まだサンドイッチ一枚目ですのよ?


 その後、三枚目、四枚目。

 もはや私が食べさせているのではありません。

 仰向けに寝かされて、胸の上や……えっと、そうアレなところにサンドイッチを乗せるのです。

 それにレオが食いつく振りをしながら、違うところまで舐めてくるので『私の味見をする』に目的が変わってますわ!


 ええ、そうですとも。

 サンドイッチを食べるだけなのに随分と長い時間がかかってしまいました。

 そもそも、私が息も絶え絶えになって、腰が抜けるまで弄ぶのはどうかと思いますのよ?

 まだ、お昼ですのに!

 結局、出かけられませんでした。

 私のせいではないと思いますわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る