第14話 デートという名の負けられない戦いがある

 朝です、朝なのですけど起きられません。

 物理的破損?

 筋肉疲労?

 いいえ、精神的疲労ですわ!

 心の摩耗ですわ!!


「無理……こんなの毎日なんて無理……死んじゃうわ」


 結局、ほぼ一晩中、レオのマッサージの前に翻弄されるだけ、翻弄されました。

 すごく気持ち良くって、思い出しても……コホン、違いますわ。

 それだけだったら、良かったのですけどマッサージだけではなかったのです。

 胸だけではなく、あちこちに薄っすらと赤くマーキングされてしまいました。

 首元まで隠さないと表歩けないですわ、これ……。

 それに全身、気怠いのは身体を弄ばれ続けたせいだわ。

 やりすぎ駄目!反対!

 そんな言葉、口が裂けても言えませんけども。


「大丈夫、リーナ? 顔色、悪いよ」

「大丈夫ですわ……多分。大丈夫ですけど少し、休みたいの」


 そう言って、私の顔を本当に心配そうに見つめてくるレオの顔を見ると全てを許しせますの。

 そうなのです。

 許しますわ!

 私の弱点は虚弱な体質だけかと思っていたのですけど、どうやらレオが弱点も追加した方が良さそうですわね。


「本当に大丈夫?」


 大丈夫じゃない原因はほぼあなたなのですけど。

 顔色悪いって、心配してくれているのにその間もずっと、胸を揉んでいる手が止まらないようですけど、どういう意味ですの?

 気持ちいいですし、胸が大きくなるのなら、甘んじて受けますけど気になることがございますわ。

 レオは気持ちがいいのかしら?

 聞くのもおかしいですし。

 『私の胸、気持ちいい?』

 駄目!

 絶対、駄目ですわ。

 頭がおかしいか、はしたない女にしか、見えないですわ。

 黙って、揉まれるのを我慢しましょう!


 それにしても一晩中あんなに元気に私の身体を弄ぶだけ、弄んで朝になっても元気でまだ、弄べるなんて、元気ですわね。

 私だけが疲れ果てているのは解せませんけれど。

 本当にこれを毎日続けると大きくなるのかしら?

 疑問を感じながらも疲労に加えて、ずっと与え続けられる弄ばれという名の快感の前に抗うことが出来ず、意識を手放すのでした。


 🦁 🦁 🦁


 次に目を覚ました頃には太陽が真上に来ていました。

 どうやら、あまりの倦怠感に昼まで寝ていたようです。

 さすがにレオも疲れたのでしょうね。

 私の胸に顔を埋めるようにしたまま、安心しきった顔で寝ていました。

 あなたが大人になったら、覚えてらっしゃい。

 全部、搾り取ってあげますからね!

 なんて、仄暗い想いはすぐに消え去りました。

 レオが目を覚ましちゃったんですもの。


 私をジッと見つめてくるその瞳に悪意なんて、欠片もなくって。

 純粋に私だけを好きでいてくれる、私だけを愛してくれているって、分かるから。

 そうよ、駄目よね。

 私はお姉さんなんだもの、もっと心を広く持ちませんといけないですわ。


「もう大丈夫そう?」

「ええ、今度は寝られたので大丈夫ですわ」


 少しは寝られたから、冷静に考えられるようになったのかしら。

 いつものようにお姉さんを演じられたと思うの。

 夜みたいにペースを乱されない限りは保てるはずなのですけれど。

 どこまで持つのかしら?


「でもさ、かなり疲れてるよね。今日はクエスト受けるのやめとこうか」

「どうしてですの?私は無理してませんわ」


 真面目な話をしているけれど、私は今、ベッドの上です。

 レオと抱き合ったままでおまけに服を着ていません。

 さすがにそれだけで気を失うことがなくなった自分を褒めてあげたいと思います。

 まぁ、昨夜も寝る前にお風呂で肌と肌が接しましたし。

 レオの裸を見ても大丈夫なくらいには慣れてきましたわ。


「クエストをやめて、今日は皆の服を買いに行こうよ。特にリーナのね。もっと肌出ないのにしないと」

「え? 何か、最後の方が聞こえなかったけれど?」

「うーん、分かりにくいかな。要はデートしようってことだよ」

「デ、デートですの!?」


 デートなんて、前世でもしたことなかったのに。

 ううん、違いましたわ。

 私と彼の出会い自体が特殊だったことを忘れていました。

 恋に落ちて、結婚して、愛の結晶を授かって。

 その期間が短かかったのです。

 あの時代は平和ではなかったもの……。

 答えは決まっているわ。


「はい、喜んで」


 🦁 🦁 🦁


 それから、昼食を軽くとった私達はバノジェのとある洋品店を訪ねていました 

 宿の女将さんから、アンが情報を聞き出してくれたのですけど、隠れた名店でセンスの良い服飾品が揃っているそうなのです。

 アンはオーカスの手を引いて、色々な上着をあてがっては『これがいい』『これは違う』などと言っています。

 まるでちょっと年の離れた姉が手のかかる弟の世話をしているようで微笑ましい光景です。

 レオと手をしっかり繋いで歩くのにも慣れてきたこともあり、店内でも相変わらず、繋いだままです。

 相変わらず、胸のドキドキは激しいのですけど、これは大事なことですわ。


「レオは髪が黒いでしょう? だから、白系統もしくは淡い系統の色の方が合うと思いますわ」

「白っぽいのか、うーん、何か違う気がするなあ」

「何か、ですのね? 具体的には分かりますの?」

「恋人とか、夫婦でお揃いみたいなのはないのかな?」


 レオが言いたいのって、あれでしょう?

 相手の瞳の色と同じ色の装束や宝石を身に着けることで愛を確かめ合う、と言えば聞こえはいいですけど。

 相手を自分の色に染めたいという独占欲が為せる業とでもいうものよね。

 つまり、レオは私のことを独占したいってことかしら!?


「本当によろしいのかしら? 私とレオの場合、二人とも赤系統の服を選ばないといけませんのよ?」


 私達の瞳の色は同じ紅玉色。

 レオは私を。

 私はレオを。

 独占したい、ずっと自分だけのものにしたいって思うと派手な色合いになってしまうのよね。

 私は白金色の髪だから、紅くても大丈夫よね。

 レオも黒っぽい髪の色だから、平気かしら。

 問題ないですわね……。


「それでいいんじゃない? それで三倍の強さになれば、いいけどそんなのないよね?」

「はい? 三倍? 確かに赤い色の鎧で統一された騎士団がいたという話もあったと思いますけれど、三倍の強さかどうかは分かりませんわ」

「リーナ、そこは聞き流しておいてよ」

「ええ? そうでしたのね」


 え? 何? 今の流れで私が悪いのかしら?

 おかしいわね。

 結局、年上なのにお姉さん出来ていない気がするわ。


「ママ―、ファーイトー」


 右肩でニールが小さな声でエールを送ってくれるから、余計に悲しくなってくるのだわ。


「リーナ、これとか、いいんじゃない?」


 握ったままの手をぐいぐいと引っ張られて、連れて行かれて。

 お姉さんなのにデートでリードするどころか、逆にずっとリードされていません?

 レオが『これ!』と選んで私に合わせてきたのはワインレッドを基調としたワンピースドレスでした。

 胸元も完全に隠すデザインであまり、そこに自信のない私には嬉しいところかしら?

 腕も全体を覆い隠すフレアスリーブで手首どころか、手の甲までかかるくらい長いのだけど、手首や肩の部分に巻かれているかわいらしいリボンは黒なので色が締まって見えて、いい感じ。

 腰のデザインもすっきり、していてやはり、黒い腰布が巻き付けられていて、それがアクセントになったかわいらしいデザインです。

 スカート部分もフレアデザインで膝丈よりも長いので……あら?

 このドレスって、ほとんど肌が見えないようになっているのね。


「レオ、黒まで入っているのね。分かっていて、選びましたの?」

「い、いや、たまたまじゃない? 偶然ってやつだよ」


 言い淀んだのが怪しいですけど、ここまで独占欲を出してくれると愛されているって、実感出来ていいわ。


「レオが選んでくれたんですもの。嬉しいわ」


 素直に感謝の気持ちを言って、いつもレオが見せてくれるようには出来ないけど微笑んで見せただけで彼の顔が見る間に赤く染まったから、


「レオはこれがいいと思うわ」

「うわ……王子様っぽくない?」

「本当なら、そうだったでしょう? 別に間違いではないと思いますわ」


 私がレオの為に選んだのはテイルコート。

 男性用だから、ワインレッドでもより濃い感じの色合いの方が彼には似合うでしょうし、私の髪を連想させるような白も全体に取り入れられているのがポイント高いのです。

 何のポイントかというと私のレオ独占ポイントですけども。


「これを着て、街歩くの勇気いりそうだね」

「その隣を私があのドレスで歩くのですけど。もしかして、それも嫌ですの?」

「嫌じゃないです。それでお願いします」


 何だか、無理矢理に言わせた感が出ている気がしません?

 妙に丁寧語ですし、耳がぺたんと寝ちゃって、尻尾もしまっちゃったわんこのような体ですけど。

 それはそれで私の中でゾクッとくるものがあったりして。

 そんな自分に戸惑いつつも彼に弄ばれている方が気持ちいいし、幸せって感じられるのよね。


「ねえ、レオ。あれ、本当に着たくないのなら、別のでもいいのよ」

「いや、あれでいいよ。僕もあれを着てみたいかな。貴族ごっこ出来そうだしね!」


 えっ?もしかして、さっきのしょげていたように見えたのは演技でしたの?


 🦊 🦊 🦊


 手直しには最低、三日はかかるものの素敵な服が選べて、とても満足出来る買い物だったと思います。

 オーカスもまるで舞台に出てくる道化の王子のような姿だったのが洗練されたぽっちゃり子供執事風に変身していました。

 アンは自分のメイド服に合わせて、執事服を選んだのかしら?

 子供好きで面倒がいいのは知っていたけど、意外でしたわ。

 それにしてもあの洋品店はとても、いいお店でした。

 店主のマダムは私達を微笑ましそうに遠くから、にこやかに見ているだけで「お似合いです」のような押しの強い売り方をしてこない方でしたから。

 それにセンスも独特で良い物が多く、部屋着もあの店の物に変えるべきかしら?


 洋品店に行っただけで終わってしまったデートですけど、私はとても幸せな気分を味わえました。

 レオはどうだったのかしら?

 私と服を見ているだけで楽しかったのかしら。

 それともただ、退屈でした?

 優しいあなたのことだから、服を見て笑顔になっている私を見ているだけで幸せと言うのでしょうけど。

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