第12話 餌付けすると捗る?
目を開けると私のことを心配そうに見つめるルビー色の瞳が目に入ってきて、また倒れたのだと理解しました。
倒れ慣れという表現があるのか、分かりませんけど前世でもほぼベッドの上から動けませんでしたし、今世でも魔力を封印されている間は結構な頻度で倒れていましたから、それほど驚くことでもありません。
慣れって、恐ろしいものですわ。
慣れてしまうと普通ではないことも普通だと思ってしまうんですもの。
「リーナが急に反応なくなったと思ったら、気絶してるから、びっくりしたよ」
「レオは元気な頃の私しか、知らないのね。私、結構倒れていることが多かったから、アンは全然、焦っていなかったでしょう?」
「あっ、そう言えば、手慣れていたね」
「だから、そんなに心配なさらなくても平気ですわ。それに……あの……レオの言葉が嬉しくて、意識が飛んでしまっただけですから」
私の言葉に今度はレオが固まってしまったようです。
真っ赤な熟れたトマトのような色に染まったレオの顔もかわいいので大好きです。
何もなくても大好きなんですけどね。
「えっと、レオ? 部屋が違うようですけど」
「クエストの報酬でちょっとお金に余裕出来たからさ。二部屋取ったんだよ」
ニッコリと満面の笑みを浮かべるレオの顔にちょっとした恐怖を感じています。
それって、一部屋を私とレオだけで取ったということで間違いないでしょう。
でも、ベッドは今、私の寝ているのしか、ありません。
ダブルベッドだから、広いですけれどそういう問題ではないと思いますの。
あれでしょう?
今日から、というよりも今夜から、誰の目も気にせずに一緒に寝るということですよね。
「あの例のマッサージは今日も……するの?」
「毎日、やらないと成長しないと思うんだ。今日から、二人きりで寝れるんだし、もっと色々、出来ると思うよ」
さらにニッコリと微笑んでいるのですけれど、私にはそれが悪魔の微笑みのように見えてきて。
悪魔なのは彼?
それとも私?
全てをあげるから、全てを欲しいと思っている私の方がより悪魔なのかもしれないわ。
それにレオはまだ、大人になっていません。
私だって、我慢しているんです!
レオは十二歳ですもの。
もうちょっと我慢すれば、きっと大丈夫。
その時、二人で初めてを経験すれば、いいのだから。
そう思っていたのに……色々とおかしいですわ。
積極的過ぎません?
年上なのに私の方がついていけないなんて。
「は、初めてだから……その、あまり激しくはしないでね」
上体を起こして、レオに体を預けながら、そう言って上目遣いに見つめたら…あら?
今度はレオの方が固まりましたの?
🦊 🦊 🦊
時間はまだ、夕刻だったのです。
私の早とちりだったということで謝るしか、ありませんでした。
その代わりに今日から、服の上からではなく、直にマッサージをするよう求められまして、受けざるを得なくなりました。
解せぬと言いたくなる心境が分かった気がします。
ですが、レオが喜んでくれるように胸がもう少し、大きく育ったらいいのにという願いをレオが手伝ってくれているだけで…あれ?
これは結局、どう考えてみてもレオが得することなのに何だか、損をしているような気がしてくるのよね。
でも、彼が喜んでくれるのなら、マッサージでも何でも受け入れられる気がするわ。
そんな考えが甘かったことを知るのはこの数時間後なのですけども。
🦊 🦊 🦊
宿でちょっと遅めの夕食を取ることにした私達は食事をしながら、持ちうる情報を交換して、知恵を出し合うことにしました。
ニールとオーカスは食卓に連れてくるとまずいことになるのでお部屋でお留守番です。
後で彼らの好きな物をあげるということで納得してもらいました。
ニールはともかくとして、オーカスは目を離すと何でも食べてしまいますもの。
「最近は食べれる食器あるんデス」とお皿まで食べ始める子にマナーを覚えさせるのは骨が折れそうですわね。
「じゃあ、
「似たような仕組みだと思いますの。
「はい、それくらいは知ってます。ただ、全部の神様の名前とかはちょっと分からないです」
「知っているだけで充分ですわ。
「まさか、哀れな子って……」
「統一王スレイマンですわ」
「伝説に出てくる王様ですよね。何か、すごい剣を持っていたって、物語にあったような」
教科書や歴史の本に出てくるような名前が出てきたからか、アンの目が輝いているようです。
彼女は杏だった頃に乙女ゲームにはまっているようでしたけれど、歴史的な事柄に興味はないようでしたけど。
実はアンも前世持ちでああり、あちらの世界では親友の
彼女は前世の知識と記憶を有したまま、こちらに転生した珍しい存在と言えます。
かなり高い格を持つ魂でないと起こらない現象ですもの。
私がアンを頼りにしていて、アンは私のことを第一に考えてくれるのにはそんな理由があったのです。
「ジョワユーズのことね。人の剣。私が持っている天の剣オートクレールにレオが持っている地の剣デュランダル。三剣なんて、呼ばれているようだけど」
「そのジョワユーズが
「最初の触媒だったってところかしら。元々、
「だから、僕はバールではなく、ベルゼビュートになったのか。僕の昔の記憶って、あやふやで分からないんだよね。リーナ……じゃなくてアスタルテに殺されたってのも良く分からないし」
それは覚えていない方が幸せだったと思うし、思い出さなくてもいいと思うの。
覚えている私は罪の意識に苛まれていて。
悪夢として何度も見させられるこの責め苦は永久に終わらない。
それが私の罪である限り。
「お嬢さま、それじゃ、
「元は混沌の軍勢と戦う為に団結して、力を高めようとしたものだったの。色々な考えを持った七十二柱の中にそれを悪用しようと画策する者が出ることも分かっていたのにね。だから、
「でも、今、僕やリーナに
「ええ、私とレオの間でリンクしてますし、私はアンやニールと。レオはキリムとリンクしていますわね。
そう、なぜ、今になって発動しているのかという疑問が生じるのですけど、可能性としては三つほど考えられるのよね。
七十二柱の生き残りが暗躍している可能性がないとは言い切れないし、ハイドラをけしかけたのも恐らく、その線が濃厚ですわね。
オーカスとニールが現世に現れるように唆したのも恐らくは……。
二つ目に考えられるのがスレイマンが野望を胸に動き出している可能性かしら?
あの子、私がエレシュキガルとして冥界を見ている間、一度も見なかったのよね。
一度も見ていないということは死んでいない。
何らかのカラクリがあるにしても絡んでいる可能性を捨てきれないわ。
最後に考えられるのが私の親友でもある彼女が関わっている可能性ね。
ただ、彼女は極力、人の世界に干渉しないようにしているようですし、
「うーん、まあ、難しい話ばかりしててもご飯が美味しくないから、今は食事を楽しもうよ」
あまりに私が難しい顔をしているから、気を利かせてくれたのかしら。
本当、私が年上である利点が無い気がするのはなぜなの?
もっとこう年上のお姉さんとして、彼を喜ばせてあげられるようなことは…あったわ。
「食べるのなら、こういうのはどうかなって。はい、レオ、口を開けて、あ~んって」
恋人に餌付け(でいいのよね?)されると男の人は喜ぶらしい。
らしい、というのはいつも通り、本から学んだ情報としてであって。
アンに聞いたら、『恋人はそういうもんですよ』と目を輝かせていたので多分、合っているのでしょう。
それに仔犬みたいなレオに餌付けするのって、楽しそうですもの。
「え? う、うん。あーん」
餌付けされて、もっしゃもっしゃと咀嚼しているレオを見ているだけで幸せな気分に浸れます。
お姉さんらしく世話出来て、おまけに喜んでもらえるのですから、両者が得していいことしか、ありませんわ。
それから、ひたすら私がレオに餌付けして、それを眺めてるだけで幸せな気分に浸って、そんな私をアンが微笑ましそうに見つめて。
とても平和ですわね。
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