第9話 働かざる豚食うべからずですわ
「オーカス、責任取って、あなたもこの世界で働いたら、いいのですわ。働かざる豚食うべからずですわ」
私は名案を思い付いたとばかりにポンと手を叩いたのですけど、賛同を得られなかったようでちょっとがっかりですわ。
むしろ、胡乱な目で見られているような気もしますけど、気のせいですわね。
「ぶーちゃんも連れていーくの?」
小っちゃな黒蜥蜴に変身したニールが私の肩で黄金色の瞳を瞬かせて、聞いてきました。
ニールとオーカスは冥府にいた頃からの友人…だったかしら?
違ったような気がするのだわ。
ニールは気に入って、追い掛け回していたようだけど、遊んでいるというよりも怖くて逃げているだけに見えたもの。
「え!? お嬢さま、子豚ちゃん連れていくんですか? 危ないんじゃ?」
「オーカスには次元を
私の言葉にオーカスが身体をビクッとさせ、ガタガタと震えているようです。
怯えているのかしら?
冥界に自力で帰る力がない=強制的に帰っていただきます。
つまり、『殺して差し上げますわ』ということですもの。
次元を潜る能力はとても、特殊な力ですから。
冥界と現世を自由に行き来出来るのは私が知る限りでは二人しか、おりません。
一人は冥府の宰相であるナムタル。
彼は制約上、冥府を離れられない女王に代わって、現世においての政務を代行して、取り仕切る能力を与えられているのです。
冥界のメッセンジャーであるナムタルだからこそ、与えられたとも言いますけども。
もう一人は冥界の黒竜ニーズヘッグ。
ニールには冥界と現世の間を自由に行き来するだけではなく、異なる次元を
これは私が与えた力ではなく、生まれ持った才能なのですけど、未だ幼い故、悪用するだけの智恵が無くて、良かったかもしれません。
悪用されれば、とても危険な力なのですから。
「殺すのは可哀想だね。彼が悪いことした訳じゃないんでしょ?」
オーカスを憐れみ、幼子を宥めるように彼の頭を優しく、撫でるレオの姿に私の心臓の方が持ちそうにありません。
私も頭を撫でてもらいたいって、年上なのに!お姉さんなのに!
まずは落ち着きましょう、私。
静かに深呼吸すれば、大丈夫……。
「私とレオがいるのですから、オーカスが一人増えたところで大した問題ではないと思いますわ」
「僕、ここにいてもいいのデスか?」
「むしろ、あなたを自由にさせた方が危ないわ」
「え? リーナ、それって、どういうこと?」
「あら、レオは知らなかったのね。飽食・悪食のオーカスなの。甘い物が好きな甘党のニールなんか、まだかわいい方ね。オーカスはさっきの魔術師みたいに何でも食べようとするのだから。下手に解き放てば、村一つなんて一夜でもぬけの殻になるわ」
「そりゃ、確かに自由にさせちゃいけない奴だね……」
「マーマー、僕も甘-いの欲しーいよ」
そして、思い出しました。
オーカスは先程、四本の腕で斧を扱い、いかにも攻撃力があるように見せかけていました。
あれは虚勢なのです。
実際は門を守る下位神の一柱に過ぎず、守るに特化した防御方面にしか、才がない子なのです。
「ニール、これでいい?」
糖分が切れると面倒なことになるもの。
逆に糖分さえ与えておけば、おとなしい子なのですけど。
「で、でもお嬢さま、この子豚ちゃんをそのまま、町に連れていくのは目立つと思いますっ」
物欲しげにしているオーカスに
アンは子供の面倒を見るのが昔から、好きだったわ。
オーカスの世話をしていると母性本能が満たされるのかしら?
子供と子豚は似て非なるどころではないと思うのだけど、いいの?
「あのデスね、きれいなお姉さん! 僕、実は人間に変身出来るんデス」
オーカスはアンに向かって、そう言うと魔法の詠唱を始めました。
瞬きしている間にかわいい子豚ちゃんの姿ではなく、金髪碧眼の小太り?
いえ、ポッチャリなのかしら?
少々、肉がつき気味なくらいに丸顔な十歳くらいの少年の姿がありました。
「えっ!? 意外とかわいいしっ」
いつも冷静なアンにしては珍しく、頬を少し染めているなんて。
恋愛耐性はない子だとは思っていましたけど、まさかの年下趣味なのかしら?
でも、その男の子、中身がアレな訳だけども。
「かわいいなんて、照れるデス」
そう、まぁ、いいですわ。
アレはアンに任せておくことにしましょう。
私もレオより五歳上ですし、蓼食う虫も好き好きと言いますもの。
「レオ、生存者がいないか、探しましょう。建物を壊さないようにニールがかなり、手加減したようですから、無事だとは思うのですけど」
「そうだね、今まで罠にかかった人達がいるはずだもんね。無事なら、助けてあげないとね」
本当はバラバラに探しに行った方が効率がいいのは分かっているのです。
でも、レオと離れて探しに行くのは嫌でした。
彼が離れて欲しくなくて、その手を軽く握ったら、ちょっと驚いたようにこちらを見てから、力強く握り返してくれたのです。
指と指を互いに絡め合って、少しだけでも彼の体温が感じられる。
それだけで幸せな気持ちになれるなんて、私も随分と臆病になってしまったと嫌な考えが頭の片隅をよぎりました。
ううん……でも、今はこれで十分だからと頭を少し、振ってそんな考えをかき消します。
「それじゃ、探しましょうか、レオ。あちらへ探しに?」
「うん、そうだね。リーナが行きたい方なら、どっちでもいいよ」
その後、生存者を探すよりも彼と見つめ合っている方が長くなってしまい、全く探そうとしないのでアンに本気で説教されたのは言うまでもありません。
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