【完結】氷の魔女は若き黒獅子に溶かされる
黒幸
第0話 二人が出会うまでの簡単すぎるおさらい
私はリリアーナ・フォン・アインシュヴァルトと申します。
魔導の家であるアインシュヴァルト公爵家の長女として、生まれた私ですけれど、少々、複雑な魂を持っていることは公然の秘密です。
私はかつて、違う名で呼ばれ、神々の時代を生きていました。
北の小国レムリアの王女アスタルテ。
それが当時の私。
今や、その名を知る人すらいない忘れられた女神、それが私なのです。
この時代―神代は善き神々、光の神々によって、世界が主導されていた幸福な時代でした。
あくまで神話上はですけど。
ただ、人より優れた力を有した種であったと言うだけ。
だから、罰が与えられたのでしょう。
天空に禍々しい巨大な赤い星が現れてから、世界は混沌と変わり始めたのです。
そして、戦さが起こりました。
私は最愛の人を殺めてしまい、罪の重さに耐え切れず、自らの命を絶ちました。
私達以外の多くの神も戦さの中で倒れ、神々の時代は終わりを告げたのです。
アスタルテとしての私は死にました。
私は当時、まだ管理されることのない無秩序な空間であった冥府を治めることになります。
冥府の女王エレシュキガルとして。
三千年です。
その間に冥府は秩序に則った死者の魂の安息所として、整備されました。
私もブリュンヒルデとニーズヘッグという二人の子を育て、冥府での日々に満足するようになっていたのです。
この頃になるともう最愛の人と会えることなどないと諦めかけていました。
かつて外向的だった私の性格はすっかり、内向的になってしまったのです。
だから、
あの者は決して、信じてはいけないのにです。
人の子として生まれ変わって、現世に戻れば、また会える。
ただ、そう願って。
しかし、私の願いは叶えられることなく、幾たびも転生を繰り返す日々。
これは一種の呪いです。
十八歳の時に死んだアスタルテを踏襲するかのように十八歳になる前に死ぬのです。
こうして、幾星霜が経ったことでしょうか。
私は色々な経験を積み、人間という生き物も理解してきたつもりです。
ですが、自身に関してはもはや諦観が心を占め始めていました。
そんな折、私は子孫にあたる貴族アインシュヴァルト家の令嬢リリアーナとして、生まれ変わったのです。
これが転機となりました。
私は今まで得たことがない最高の身体を得たことに歓喜しました。
それは数千年振りに自分の身体に巡り合った、そんな感動でした。
そして、そこで最愛の人と再会したのです。
それは刹那の喜びと終わり、私は婚約者と魔力を失った失意の令嬢となったのです。
辺境の地アルフィンへと赴くことになった私は様々な出会いを果たし、失われた自らの記憶と魔力を取り戻すことに成功しました。
そして、会えないと思っていた最愛の人とも再び出会えたのです。
数千年以上待ったのです。
比翼連理の夫婦は片方が欠けただけでも死んでしまうのだから。
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