第375話 プレデターを見つけたら(後編)
謎のクワガタ人間に対抗するため、人間の武道家(月に赴任した肩書としては理学療法士)のブルースと、プレデターの見習い(
なぜプレデターの一族に人間の娘がいるのか…ナオミの出自は不明だがともかく彼女はプレデターとして育っていて人間を狩猟の対象としてしか見ておらず、クワガタ人間が逃げたことでこの共同戦線は簡単に崩壊した。ブルースもまた「この宇宙人は華奢で女のようなプロポーションだ」とは感じていたが、この鈍い銀色のプレデターマスクの下が少女の顔だとは思わず、ただクワガタ人間とは別種の宇宙人だと思うばかりであった。
しかし
「お前の方は…少し話が分かるようだな?」
ナオミが地上で人間を殺しまくってきたことを知らないブルースは、話が伝わる方の宇宙人だと勝手に解釈していた。
ブルースは両手を見せて敵意が無い事を示しながら、ナオミに近づいていく…
一方、クワガタ人間に両腕を破壊(右手は折れているかもしれない。左手はコンピュータガントレットの頑丈さが守ってくれた)された上に、地面に叩きつけられて全身に打撲を負ったナオミは苦しそうに身を起こしつつ、近づいてくる
〈使いたくないが…〉
彼女がすぐにプラズマキャノンを撃たなかったのは、弾数が残り少なかったからに過ぎない。彼女としては
しかしブルースの方はその逡巡(すぐに攻撃してこなかったこと)を友好の片鱗と捉えた。繰り返すが、地上でナオミが何をしたかを知らなかったからだ。
「よし…多少は意志が伝わるようだな…」
そうしてブルースが手のひらを見せつつ、ジリ…ジリ…とナオミに歩み寄ったそのときだ。
バーン!!
銃声が響いた。
地上から吊るされたゴンドラに乗るアニィともう一人(逆光で顔は見えなかったが研究員の男の誰かだろう)は地上でナオミが何をしたのかを知っているので迷いなどなかったのだ!
「な!!?」
片膝立ちだったナオミは後頭部を撃たれ、その衝撃で前につんのめってブルースの足元にうつ伏せに倒れた。クタッという人形のような動きである。
「そいつは敵よ!!」
驚いているブルースにアニィの警告の叫びが投げかけられ、ブルースはハッと我に還ってゴンドラの方へ視線を上げた。見れば、ゴンドラはもうブルースの立つ地下空洞の底と同じ高さにまで降りており、ちょうどアニィはゴンドラの側面の柵を開いてゴンドラが着底するはずの場所に出来た
「ブルース、手を貸してちょうだい!」
「あ…ああ」
「この照明弾はソイツのね!?不思議な
「彼女…?」
ブルースは「彼女」というアニィの表現が引っかかったが、いまは追及している場合ではないので頭の隅に
ナオミがブルースを援護するために撃ちあげた照明弾の瞬きは、彼女の命が尽きるのを暗示するかのように弱々しくなってきている。
チカ…ッ チカチカ…ッ
「よし。真っ暗になる前に跳べ!」
ブルースはクレパスの淵に立って、アニィを迎え入れるように両手を広げた。
久しぶりなので描写し直すと、ゴンドラは地下空洞の天井に開いた直径4mほどの縦穴から吊り下げられていて、それが着底すべき地面は何者か(今となれば分かる。十中八九、クワガタ人間ら蟲人族の仕業だ)によってクレパスのような裂け目になっていた。もしゴンドラが床にズゥンと着底してくれれば乗り降りは簡単な話だが、いまは裂け目の上に宙づりの状態なので自力のジャンプでもって飛び越えねばならなかったのである。
「跳べ!」
ブルースがもう一度急き立てると、アニィは緊張から怒鳴り返した。
「分かっている!」
開かれたゴンドラの柵の前に立つ彼女は、ウォータースライダーかリュージュでスタートを切るときのように柵の縁を握り締めている。彼女の背後にいてゴンドラを操作している同伴の男(ナオミを撃ったのはこの男だろう)は「中佐、先に行ってください。ガイドワイヤーは私が投げますから!」と背中を叩いてアニィを急かした。
「私がゴンドラに乗って重しにになっていた方が、蹴り出した時に安定するはずですからね。中佐!」
「オ、オーケー!」
「ここは月だぞ!?ワケなく跳べる」
アニィが怯んでいると見たブルースは、さらにもう一度激励した。ゴンドラと地下空洞の床の間はクレパスによって3mほどの隙間が開いていて、立ち幅跳びと考えるとかなりの距離だが、月面なので運動不足の女でも跳べるはずだ。
「分かっているって!」
アニィは最後やけっぱちに叫び返し、その勢いで思い切り飛んだ。……の割には全然ジャンプは迫力が無く、飛距離はギリギリである。
「危ない!」
ブルースはクレパスの崖っぷちに駆け出し、手を伸ばして空中のアニィを引き寄せた。
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