第109話 It’s not fortune...But fate.
『直撃コースだ!』
『なに!?』
『間違いない。少なくとも何発かはこの基地に当たる!』
暴走するミサイルの行く先、サウロイドの司令室では不幸にも迎撃の大任を任された例の二人が慌てていた。見張り役として指令室にいた管制官と、管制官代理の砲術士官ユノ中尉である。
『猶予は!?』ユノ中尉は
『無い!100秒を切った』とレーダーに噛り付いている管制官が答えた。
『ものすごく低空飛行だが、それでももう地平線の向こうに顔を出しているはずだ。射線は通っているはずだぞ!?』
撃ち落とすなら早くやれ、という意味だ。
『待て、MMECは充電中だ!』
『間に合うのか!?』
『知るかよ!!』ユノ中尉は忙しくキーボードを叩いている。
管制官は堪らず立ち上がると、部屋の後方の潜望鏡(潜水艦のアレだ。指令室は地下にあるので周囲の様子を肉眼で見たいのなら潜望鏡これを使うしかない)
『ちゃんと進んでいるんだろうな!?』
12時の位置の砲台、1時の位置の砲台、2時の位置の砲台……
時計の文字盤がごとく基地を取り囲む砲台群は順々にうな垂れていたその首をもたげると、眠りから目醒めて伸びをするように天を仰いだ。
ウォオオン、バリバリバリ…!
砲台が起き上がると、次は銃身を包むリング状変圧器に電撃が走り始めた。
それはもちろん起動シークエンスの一部なのだが、それはまるで主の焦りが伝わらない大型の家畜のようにゆっくりであった。
『くそ…!』
管制官は、一向に急ぐ様子のない砲台達の準備運動を潜望鏡で確認してから机を叩いた。その苛立ちは別の相手に向けられた。
『なんて野蛮な連中だ!いきなり攻撃するか!?』
いや、実際はそうではない。状況を整理すると――
まず第一に人類はこの威嚇射撃の前、再三にわたってサウロイドに電波通信を試みていた。
しかしそれは、ことごとく失敗した。人類はこの時点で、
そして第二に、そうであっても異星人(人類はそう思っている)にいきなり攻撃するほど人類は野蛮な連中ではなく、まずは1km離れたティファニー山にミサイルを撃ち込んで様子を見ようという事になっていた。しかも万が一にも異星人を攻撃しないよう、ミサイルの一発一発を人が操作するという念の入れようだった。
だから、それが災いしたというのは不幸でしかない。
人類が用いたフェニックスミサイルの遠隔操作は赤外線に迫るほどの超高周波が使われ、人の持ち得るいかなる妨害電波にも干渉されるハズはなかった。(高周波の代表である光を想像して欲しい。光を電波で遮る事ができないように、高周波は電波で妨害する事はできない)人類はその特性を信頼してフェニックスミサイルを使用したのだが、結果としては
――こうしてサウロイドは、なんて野蛮な連中だ、と人類を罵ることとなったのだ。
場面を、その
このとき奇しくも人類側の管制官は、サウロイド側の管制官と同じセリフを叫んでいた。
『直撃コースです!! 少なくとも三……いや四発は
『まさか!』副艦長のアヌシュカも愕然とした。
『コードB-34を再送信。……ダメです、フェニックスミサイルなおも制御不能』もう一人の管制官のフェイは冷静である。
『自爆信号は?』真之も語調は冷静だったが意味の無い質問をしてしまった。その場にいる誰もが、自爆信号を試みている事を知っているからだ。
『そちらも送信中です』フェイは冷淡に応えた。
『光だ。可視光でいいのだぞ?』
『やっていますよ…』
人類はもっとも信頼のおける電波…光によるモールス信号でミサイルとの最後の通信を試みていた。ミサイルを空中爆破させるという、自らの振り上げた右手の拳を自らの左手で受け止めるような誠意ある行動を示そうとしていた。
しかし……それさえも叶わないようだ。
『要因は?』ネッゲル青年が堪らず口出しをした。
『え…?電波障害だと言っているでしょう?』フェイは何を言っているのだ、という顔をした。
『違います。直撃する要因です』
『要因など無いわよ、制御不能なのだから。
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