僕らは世界を共有する

玻津弥

序章

 序章


 よく晴れた天気のいい秋の午後。ここはイギリス、エジンバラの町にある公園。

 その公園の奥に林に囲まれたテニスコートがあり、そこで四人の少年がテニスをしていた。

 一人の少年が打ち返したボールは予想以上に高く上がって、受けるはずだった少年の頭の上を越え、フェンスを越え、コートの外の林に落ちた。

 テニスボールを拾いに行った蒼い瞳の少年はボールが木陰に転がっているのを見つけてかがみこんだ。

「あった、あったボール……」

 そのとき。

 ポツン、と空から何かが降ってきた。

 彼の中に見えるイメージだった。

 それは、一つの滴。

 生命をもっているこの世界で最も尊いもの。

 その時、少年の頭によぎったのは「一つの名前」だった。

 少年は青さを湛える空を見上げた。

 日差しが何かを暗示するかのように雲に隠れてゆく。

「……〝リオン〟さま」

 つぶやいた言葉は、少年を呼ぶ声とが重なった。

 雲は晴れている。日差しは戻ってきていた。

 少年は、起きたまま短い夢を見ていたような心地がした。

「メアー、遅いよ。何やってんのー?」

「……うん、今行くよ」

 少年はぼんやりとしながら答えた。

 そして、体の内側に宿る興奮を仕舞いこみ、彼はボールを手に戻っていった。


 神界から落ちてきた雫は女性に呑まれ、いつか人の子となる。

 そう。

 彼自身も同じようにしてこの世界に生まれてきたのだから。

 

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