第5話 今からお墓作り

場所は、王族と関りが深い人間が葬送される場所。王に飼われた猫だとか。側室にすらさせて貰えない愛人だとか。消さなきゃいけなかった妾の子供だとか。



表だって葬儀が出来ない人そういう生物が埋葬されている場所だ。



兄上は両手に大きな花束を持って、そこに僕を連れてきた。


「いやぁ、凄いよねこの量。両手で持ちきれないぐらいだ。店の女の子達が献花として、だってさ。泣ける話だよねぇ~。」


「‥‥なぜ、貴方がペルの事を知っている?」


「まぁ、葬式に適さない花も幾らかあるけどさ。そういうのも彼女達らしくていいんじゃないって、あいつも言いそうだよね。」


「質問に答えてください。なぜ、貴方がペルのことを知っているのか。」



「先に墓を作ってからだよ。」



「・・・・・・。」







「手を貸そうか?」



「要らない。」



スリーの手を借りるのは違う気がした。




だから一人で墓を作った。




「魔術を使えよ。」




「煩い。」




魔術を使うのは違う気がした。




だからスコップと手押し一輪車猫車を使って穴を掘った。初めての重労働で、掌から血がにじみ出た。


「だから魔術を使えって言ったのに。」



「煩い。」




アラヤ人の葬儀は火葬だったから、棺にペルの亡骸を入れて焼いた。霊園にあった窯に棺を入れ込んで火打ち石を使うと、肌をチリチリと刺すような熱が僕を襲った。


不思議と辛くは無かった。



それを見ながらスリーはそこらに落ちていた石を拾って僕に渡す。




「これはせめてものお礼さ。受け取りな。」




「・・いらない。」




「まあそういわずに」




「・・いやマジでいらない。ゴミでしょそれ。」





それでもとしつこく食い下がるスリーに押されて渋々石を受け取ると、スリーから肉が焼けるまで、4時間半ほどかかるらしいと言われた。




「石を受け取ってくれたお礼に、ある少女の話をしてあげよう。」




その間に、スリーから話を聞いた。




「ある少女は、アラヤ人の末裔でした。アラヤ人は流浪の民族。埋葬してくれるのは身寄りしかいない。ところが彼女にはそんなものはもう・・いない。だから俺らしか作れる人がいないのさ。」




僕が聞きたいことを知っていながら、敢えて違う話をする。焦らすかのように話題を選ぶスリーの話は、僕の頭を逆に冷静にした。




「彼女の部下は?」




「彼女の部下は店の立て直しに忙しいのさ。王族を殺そうとしたんだからね。耳が早い貴族にはもうバレている。それでも頑張って噂を消して、トップが抜けた分を埋め直して今はてんてこ舞い。残念ながら彼女の葬礼する暇なんてありゃしない。だから俺が頼まれたってわけ。」




いつものように、赤子に子守唄を謡うかのように話すスリー。




丁度良い音節の、美しい歌のよう。




「なぜ兄上なんです?」




「部下だからだね。」



高々とVサインを挙げて、彼は僕を見る。



「部下?」



僕を殺そうとした彼女の上司が、こいつ?



「彼女、ペェは僕の部下なんだ。これでも苦労したんだぜ?アイツが欲しがっている物全部を駆けずり回って用意して、折角交渉の場に立ってくれたと思えば今度は条件が厳しいのなんの。あれじゃあ俺の部下じゃなくて協力者だ。ま、頑張って従属関係を築けたのは流石俺って感じかな。」




誇らしげに胸を張り、鼻高々に自慢するスリー。ということは、ペルが僕を殺しに来たのは。




「お前の命令か?」


僕の声に肩をすくめてオーバーに否定する。


「おっと残念ながら違う。いや、折角手に入れたレア駒を、ファイーブに横取りされるとは思わなかったしそれには大海が出来るほどの殺意が湧いたけど、俺じゃない。」




そして、スリーは僕を見た。




いつものような明るい顔で、明るい声で。けれどやっぱり寂しそうな目で。彼は話した。


「アイツの意思だよ。アイツがお前を殺すべきだと決めたんだ。」



「今から弟君を殺しに行くって言われて、その時に二つのお願いを託された。」




「お願い?」




お願い。その言葉に僕の胸に棘が刺さったような痛みが走る。




一体、なぜだろう。




「一つは俺へのお願い。『例えファイーブが妾を殺しても許してほしい。逆に妾が殺しに成功したら主が妾を殺しておくれ。』だって。」




・・・・やっぱりあれはペルなんだ。




一縷の望みとして頭にあった『双子説』『変装説』『ドッキリ説』が全て音をたてて崩れていく。そして僕を殺そうとしたという事実は遅ればせながらやってきて、ずどんと僕の腹へ響いた。




けれど、それだけ。




ペルが僕を殺そうとした。以前ならそれだけで僕は胸が引き裂かれるような思いになっていたのに、今はもうそれを現実として受け止められている。理由は分からない。けれど僕はそれを、事実として受け止めれている。




何故かは、分からない。




「なぜ僕を?」




「教会からの命令だろ。今回でサーシャ様を狙う教会の動向も知ったお前さんは、その上神輿である聖女も匿っているときた。教会からすればツーストライクでもバッターアウトなのさ。」




「え、それがどうして」




教会と彼女に何の関係がある?



彼女はアラヤ人だ。知神レドトンを信奉する民族であって、女神レールオフを信奉する教会とは何ら関係が無い筈。




そんな僕の顔を見て察したのか、彼はその場にあった石をつまらなさそうに蹴り付けながら呟いた。何でもなさそうな口調で、とても重要なことを。


「さっきあげた石。」



「はぁ?」



「そこになんて書いてある?」



「え。。。」


慌てて懐から石を取り出し、じっくりとみる。ペルの名前が彫られている。


「これが何か?ペルの名前が書かれているだけじゃないですか。」


「もっとよく見てみなよ。あっさり見えたら符丁にならないでしょ。」



言われて再度見てみるも、表には何も書いていない。裏にも何も。なら、魔力か?目を凝らして、魔力を感知する。するとそこには、うっすらと魔力で書かれた文字が。



これが、符丁?




「第‥‥五席?」



「そう、十二使徒第五席たる『権謀紡ぎ』。それが彼女の名前さ。」





そのほんの二言が、僕の胸を抉った。

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