逆襲のチャラ男

王叡知舞奈須

第1話:届いたビデオレター

『ウェーイwww!!! ヲタクくん見てるゥwww!!!』

 そんな陽気な声が、机の上のノートパソコンから響いた。

 ヲタクくんと呼ばれた青年は自室でこれを見ている。

『今、彼女の家に来ていまーす!!

言うて、もうこれの収録から一週間は経ってると思うけどねー!!』

 見ているこの映像はビデオレターだ。大き目の小包に他の荷物と共に入っていたDVDに収録されていたもの。

 如何にもチャラそうな、淡い金髪が目立つ褐色肌の青年が映っていた。

 彼女というのは二人の共通の知り合い、だった。

『いやー、それにしても……ねー』

 ふと急にハイだったテンションが鳴りを潜めた。

『もう、三年か……早いな』

 そうだな、と。画面の向こうに居る彼に同情する様に、ヲタクくんは一人呟いていた。

 何せ彼女は、三年前に他界しているのだから。

 深夜遅くに仕事帰りだった所に、運転手が居眠りしていたらしい高級車に跳ねられたそうだ。

 丁度一週間ほど前が命日だったはずだ。曜日感覚が狂いかけていたが、カレンダーを見て意識を思い出す程度には焼き付いていた。

『決めたよ。ヲタクくん』

 何かを決意する様に、青年はそう告げる。

 日にちも指定してきた。今日が十二月十九日で、五日後。クリスマスイブの日。

 ……同時に、今は亡き彼女の誕生日。

『こんなことしても彼女は喜ばないだろう、ってのはわかるんだけどさ。

……なんて言うか、何もしないでいるのは、逃げるみたいに思えて。

うまく言えないんだけど……奴らと、戦ってみたくなったんだ』

 画面越しに、見据えてきた気がした。それだけの『スゴ味』がある眼差しだった。

 だが、その次の瞬間には彼の表情は柔らかなものに変わる。

『ところで。同封しておいた小包は見たかい?』


 確かにそれは確認済みだった。

 横面に端子がいくつも付いた青い直方体の箱。何らかの回路と思っていたが、開いた一面から中を覗いてみるとT字型に成形された銀色の金属を中心に置いた集積回路の様なものが形成されていた。

『それはピーコフレームって言ってね。三年前に彼女から引き継いで以来、一人で開発してたんだけど、つい先月に完成したんだ!

良かったら使ってみてくれ。君が作ってるやつ、取り付ければ性能が数倍にも跳ね上がるはずだ』

 そう切り出した彼は配線やら何やらの規格などの情報を書いた説明書も同封していると明言してくれた。

 そこまでで、伝えることは終わった様だ。

『これでお別れだ……じゃあな、ヲタクくん、元気に暮らせよ。

クリスによろしくな!』


 そう言って締められ、ビデオレターは終了した。



 パソコンのシャットダウンを確認し、ヲタクくんは例の機材を持って部屋を出た。向かった先は自宅敷地内の倉庫──否、それは最早格納庫と呼んでもいいだろう。

 上からシートを掛けられた、高さが約5m、横の長さが15m程の山となっているものが置かれている。

「僕は彼を止めたい……止めなきゃならないんだ!!!」

 その一端に向かい、バサッ、と、掛けられたシートを剥がす。

 寝そべる様に置かれていたそれは──直立させれば、全高15mになるであろう人型の機械。

 人面でいう鼻の位置にへの字型のスリットが三つ、放熱機関として備えられた顔を横側からまじまじと見つめる。

 左肩に『群魂』の銘を刻んだその機体の名は──〈0オーグンタマ〉。

「グンタマ! 僕に力を貸せ!」

 そう言って、ヲタクくん──緒詫零ヲタクレイは〈0グンタマ〉に乗り込んだ。

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