第10話 ラッキースケベ


「美空……知ってたのか……」

 

「まあねえ~~」

 

「言えよ……」


「言ったじゃん」


「最後まで言えって……」


「それはそうと、何でそんなに疲れた顔してるの?」


「……まあ、色々と……」


「ふーーん、美人に囲まれて嬉しい癖に~~ハーレムだねえ」


「──そこにはお前も含まれてるのか?」


「ば、バカ!」


 バレンタインイベントは従妹の夏生によって有耶無耶に終わった。

 流されるままにキスしようとしてしまった自分に反省しつつ、翌日、今にも雪が降りそうな天気の中、いつもの様に美空と登校。


 夏生が帰ってくる事を知っていた美空に俺は朝から愚痴をこぼしていた。

 

 こっちにも帰ってくるなら帰ってくるで、腹積もり? 心構え? 気の持ちよう? とにかく知ってたなら教えてくれよ! 


 べ、別に、バレンタインで良い雰囲気だった妹との事を、夏生に邪魔されてイライラしているわけじゃ無いんだからね!

 なんて俺がツンデレてどうする? だれ得?


「で……あいつ、うちの学校受けるらしいんだよ」


「あーー、受験明後日だよねえ」


「あいつの頭で入れるのか?」


「うーーん、その辺は小学生迄しか知らないからね、なんとも」


「だよなあ……」

 小学生の頃迄、俺達4人はいつも一緒にいた。

 俺も夏生も妹にベッタリだった。勿論美空も……。

 皆妹が大好きだった。それは今でも……なんだろうけど……。


 妹の命が後1年なんて勘違いをし、それを夏生に話した時、夏生は号泣していた。

 そして、勘違いだとわかった時もまた、号泣していた。

 親の都合でイタリアに行く時も大号泣し、妹の手術が上手く行った時も電話口で号泣していた。

 

 それから2年、俺は夏生とは会話していない。

 妹と、美空は連絡を取っていたみたいだけど。


「もう少し早く帰ってくれば勉強教えてあげられたのにねえ、学年首位さん」


「俺は理系だからな、うちの学校点数は理系の方が高いから、文系の平均点は美空の方が良いだろ?」

 小さい頃に医者になろうって、妹の病気を治したいって、そう思って勉強していた。

 妹が健康を取り戻したので、医者になろうという思いは現在無い。

 でも小さい頃からの習慣で、今も勉強はかなり頑張っている。


「次は勝つから!」


「部活やってる奴に負けるわけにはいかない」


「……」


「美空?」


「ん? ああ、ごめん」


「どうかした?」


「ん? 別に、なんでもないよ」

 美空は少し浮かない顔で俺を見る……なんだろうか? この間も……。

 俺の中で一抹の不安が過った。



 ★★★★


 滞りなく授業を終え、本日も一人寂しく帰宅の徒に着く。


 今の所学園物では無いので、この辺はさらっとスルーで。


 4月からは妹と二人で帰るのか? それか夏生も一緒に?……朝はどうなる? 美空は? なんて色々と考えていたらあっという間に家に到着。


 そして玄関先で、思い出す。

 そう言えば今日妹は委員会とかで遅くなるって言ってた事を……。


 夕飯をどうするか? 夏生もいるし、今日は何か宅配を……なんて考えながらいつもの様に玄関の扉を開けるとそこには……。



「あ、お帰り~~」


 上半身裸でパンツのみの夏生が首にタオルを巻いて、オレンジジュースを飲みながら突っ立っていた。


「ば、お、お前、な!」

 

「ん?」

 

「いや、こっちを向くな!」

 正面を向き俺を見ながらお帰りと手を上げる夏生、首から垂れているタオルで一応肝心な所は見えないが、パンツ一枚、ほぼ全裸姿の夏生は俺に見られている事なんて全く気にする事なく、驚く事なく、むしろなんで俺が驚いているんだ? って思っているかの表情で突っ立っている。


「着ろ、服を着ろ!」


「えーー暑いじゃん」


「今は真冬だ!」


「お風呂上がりでだから暑いんだよね、いやあ、でもやっぱり日本のお風呂は良いねえ~~」

 ビールを飲む親父の如くグビグビとオレンジジュースを飲む夏生。

 その度にチラチラと形の良い胸が、タオル越しに見え隠れしている。

 

 妹よりも遥かに大きく、美空よりも小さな胸が……。


「良いからさっさと部屋に行け!」

 これ以上はまずい、俺は慌てて靴を脱ぐと夏生の背後に回り、汗ばんだ背中を押した。


「ハイハイ」

 俺の手の平が夏生の背中に貼り付く……スベスベとした肌の感触に思わず声が出そうになった。


 階段の所迄押すと夏生はようやく自ら歩き出し、階段を上がって行く。


 俺はついその姿を目で追ってしまう。

 スカートならば見えてしまう角度、当然今はパンツ1枚……なのでどっちにしても丸見えだ。


 以前は近所に住んでいた夏生、家にもちょくちょく泊まりに来ていた。

 小さい頃には一緒に風呂に入った仲、妹と俺と夏生は3人兄妹の様に育てられていた。


 いや……妹が入院している時は、むしろ俺と夏生が兄妹の様だった。


 恐らく向こうは今でも俺を兄貴だと思っているのだろう。


 俺の親父も夏生の親父も、俺と夏生は兄妹、そして家族と認識している。

 

 妹以上に妹な関係……。



 いやいや違うから、俺……普通に興奮するから!

 しかも妹以上に歯止め効かないから!


 以前とは違う……小学生の頃から成長した現在の夏生に、そのスタイルに、スレンダーな身体に……俺は興奮を隠せないでいる。


 ヤバいって……マジでヤバいって……。


 妹の攻撃で俺の理性は崩壊寸前だというのに、更にこんな生活が続くなんて……俺は聖人君子でも、修行僧でも無いのだ。やりたい盛りの高校生なんだ。


「勘弁してくれよ……」

 階段を登っていく夏生の姿を目に焼き付けながら、俺は小さな声でそう呟いた。

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