【書籍化】追放魔術教官の後宮ハーレム生活(旧【無能と言われて追放された俺、外れスキル『魔力錬成』で美少女たちを救っていたら世界最強に育った件。可愛い神姫たちに愛されながら真の最強勇者に登り詰めます】)
幕間2-3 ある平凡な少女が呪いを解いて神姫になるまで3
幕間2-3 ある平凡な少女が呪いを解いて神姫になるまで3
煌びやかなアクセサリーや香水、化粧品が並ぶ、洗練された店内。
半ば強引に座らされた鏡台の前で、ベルはあわあわと慌てふためいていた。
「な、ナターシャさま、これはいったい……わぷっ」
「ナターシャでいいってば。ほら、もっと顔上げて」
ざっくばらんな子爵令嬢は、ベルの顎を持ち上げると粉をはたいた。
ゆるふわ男爵令嬢マリニアが、店頭に並んだ新作をあれもこれもと持ってくる。
「ベルちゃん色白だから、淡いピンク系の口紅も似合うと思う~」
王都から馬車で六日。
ロクを筆頭に、マノンとベル、ナターシャ、マリニアというメンバーでダンジョン攻略に臨んだ、その帰り。
ロクが、ベルの故郷に寄ろうかと言ってくれた。
ベルが生まれ育った街は、攻略したダンジョンから半日の距離にある。
ベルは母に会えることはもちろん、ロクが自分の故郷を憶えていてくれたことが嬉しかった。
街に到着するなり、ナターシャとマリニアがショッピングを楽しみたいとねだり、ロクは快く送り出してくれた。
ロクとマノンは、ベルの母親への手土産を買うという。
ベルもそちらについて行くつもりだったのだが、ナターシャとマリニアに腕を掴まれ、あれよあれよという間にお店に連れ込まれていた。
「あ、あの、ナターシャさま。私、お化粧なんて……」
後宮に入ってからも、自分には分不相応な気がして、必要最低限の化粧しかしたことがなかった。
戸惑うベルをよそに、ナターシャは真剣な顔でパレットを吟味している。
「お母さんに会うんでしょ? せっかくならおめかししてこーよ」
「ベルちゃん、こっち向いて~。唇、んってしてね~」
マリニアに口紅を塗られながら、そわそわと目を泳がせる。
大通りに面した、一等可愛くておしゃれなお店。
ずっと憧れていたけれど、入るのは初めてだ。
なんだかむずむずして落ち着かない。
柔らかなブラシやパフが、心地よく顔を撫でる。
「てかベル、めちゃめちゃ顔小さくない? 羨ましいんだけど」
「分かる~。あと、首から鎖骨のラインがとってもきれいだよね~」
代わる代わる化粧を施してくれるナターシャとマリニアの手首には、流麗な腕輪が光っている。
ナターシャたちが神器に認められたのは数日前のこと。今回のダンジョン遠征は、その初陣も兼ねていた。神姫の魂を解放するには至らないまでも、二人は存分にその威力を引き出した。
今は腕輪となって彼女たちに寄り添っているその高貴な輝きに見惚れる。
「よし、完成っと」
ナターシャの声に目を上げる。
鏡の中に、可憐な少女がいた。
ぱっちりと大きな瞳に、淡く色づいた唇。頬はほんのりとバラ色に染まり、目元には人を引き込むような透明感が漂っている。
びっくりして息が止まる。
「だ……誰、ですか……?」
ナターシャが噴き出し、マリニアが嬉しそうに手を叩いた。
「わあ~、可愛い~。アイシャドウが効いてる~。さすがだねぇ、ナターシャ」
「でしょ? 初めて会った時から、絶対オレンジ系が似合うと思ってたんだよねー」
鏡の中の姿が信じられなくて、何度も瞬きする。
教室の片隅で俯いていた少女の面影はどこにもない。
ロクが見たら、何と言ってくれるだろうか。
想像しただけでどきどきと胸が早鐘を打つ。
(お化粧って、すごい……これならもしかして……)
メイク道具を片付けているナターシャに、思い切って声を掛ける。
「あ、あの……そばかすも、隠せますか?」
お化粧の力を借りれば、コンプレックスだったそばかすもなかったことに出来るかも知れない。
けれどナターシャは、不思議そうに首を傾げた。
「できるけど、別に、隠す必要なくない?」
「え?」
「だって、チャームポイントじゃん」
ぽかんとするベルに、マリニアが別の口紅を試しながら、歌うように言う。
「わたし、ベルちゃんのそばかす好きだよ~。コーデリアお姐さまの泣きぼくろと同じくらい好き~」
「……――」
ずっと、冴えないそばかす顔とばかにされてきた。
チャームポイントだなんて、考えたこともなかった。
「ロク先生も、可愛いって言ってたよ~」
「えっ、えっ」
顔が熱くてたまらない。
頬を押さえるベルを、ナターシャが覗き込む。
「で? どーする? 隠す?」
「……やっぱり、このままで」
小さな声で伝えると、マリニアが「えへへ~、ベルちゃんかわい~」と笑いながらベルを撫でた。
ナターシャがにっと唇を吊り上げる。
「このメイク気に入ったなら、一式買ってあげる」
「そ、そんな!」
「いいって。この間、誕生日だったでしょ? マリニアと決めてたの。あたしたちから、友だちへのプレゼント」
「と、友だち……」
甘美な響きに胸が高鳴る。
貴族のご令嬢と友だちになれるだなんて、後宮に入る前にはとても想像できなかった。
ナターシャがひらひらと手を振る。
「じゃ、先に出て待ってて。プレゼント用に包んでもらうから」
「え~、言っちゃうのぉ~? そういうのって、サプライズにするものじゃない~?」
「いーじゃん、祝う気持ちに変わりないんだから」
ナターシャとマリニアにぺこりと頭を下げて、ふわふわした足取りで店を出る。
頭がぽーっとして、通行人にぶつかってしまいそうだ。
ひと気のない横道に入って、ほうと息を吐く。
まるで夢のようだ。
故郷を発った時から、二度と後宮から出ることなどできないと覚悟していた。グズでのろまな食用うさぎのまま、一生を終えるのだと。
それが、優しい
母は何と言うだろう。
そうだ、母に会える。
自分が授かった新しいスキルのことを伝えたら、どんなに喜んでくれるだろう――
嬉しくて自然と顔が緩んでしまう。
思わず化粧の施された頬を押さえた、その時。
「ベル? ベルじゃない?」
不意に聞こえた声に、心が凍り付いた。
顔を上げる。
「なに? 化粧なんかしちゃって。生意気」
そこには、毒の花のような美貌の少女――メリッサが立っていた。
可愛らしいバラ色の唇も、気の強そうな双眸も変わらない。
四、五人の取り巻きを引き連れ、傲岸に腕を組んだその姿は、ベルを容易に一年前の悪夢のような日々へと引き戻した。
「あ、あの……」
「あんた、うまくやったわね」
メリッサは意地悪く目を眇め、鼻を鳴らす。
「新しい勇者サマ、大当たりだったみたいじゃない。魔族を退けて、王都を護ったんですって? 神姫まで後宮部隊なんて呼ばれて持て囃されて、国中大騒ぎよ。あんた自身は何の取り柄もないくせに、ちゃっかりおこぼれに預かっちゃって、羨ましいったらないわ」
俯くベルに、粘っこい囁きが絡みつく。
「で、どうなの? 勇者サマを悦ばせることはできた?」
耳が熱くなる。
きゃははは、と甲高い声が鼓膜をつんざいた。
「ま、あんたじゃ無理か!」
取り巻きたちとひとしきり笑って、メリッサは身を乗り出した。
「ねえ、コーニー・ベル。神姫なんて、グズのあんたには荷が重いんじゃない? 今から代わってあげてもいいわよ?」
「……いや、です……」
「はあ?」
足が震える。
それでもベルは、しっかりと地面を踏みしめ、喉で凍え付こうとする声を必死に振り絞った。
「それだけは、いやです」
自分は神姫だ。
まだ未熟でも、神器がなくとも、誇り高く崇高な、あの御方の神姫の一人だ。
メリッサの双眸が、氷のように冷たく尖る。
「……あんたが女で残念。もし男だったら、あたしの
赤い唇が、うさぎを噛み裂く牙に似て、歯を剥き出す。
「無力で無様なコーニー・ベル。あんた、あたしに逆らえると思ってるの?」
刺すような視線に息が止まる。
心臓から血が飛沫くような錯覚に、薄い胸を喘がせた時、
「あら、ベル」
場違いなほどに朗らかな声が響いて、ベルははっと振り向いた。
「マノンさま」
「こんなところにいたのね、可愛いベル」
そこには、大陸中の少女の憧れが降臨していた。
香り立つ美しさに、端々から溢れる気品。薄暗い路地が華やぐほどの麗しさを纏った少女――
唖然と佇むメリッサたちに向けて、マノンは淑女のお手本のような微笑みを浮かべた。
「そちらは、ベルの
「は、はい。学校の同級生で……」
そう答えながら、ベルはマノンの美しさに圧倒されていた。
いつにも増して優美さに拍車が掛かっている。
マノンくらいになると、オーラさえも自在に操れるのだろうか。
「ま、マノンさま? 今、マノンさまって……まさか――」
目をひん剥いて口をぱくぱくさせている少女たちに向かって、マノンは優雅に一礼した。
「お初にお目に掛かります。マノン・レイラークと申します」
格が違う。名乗りだけでそう思わせるに十分な、完璧な所作だった。
「皆さま、ベルのご学友とのこと。ベルがこんなにも人の心に寄り添える、思いやりのある子なのは、きっと皆さまの影響なのでしょうね。そうそう、ベルの刺繍をご覧になったことはございますか? とても繊細で美しくて、まるでベルの心の清らかさがそのまま表現されているかのよう。私も教えてもらっているのですよ」
「ぁ、ぅ……」
少女たちが絶句して目を泳がせる。
おっとりと弧を描くマノンの双眸が、底知れぬ光を帯びた。
「――ところで、みなさまこんなところで何をなさっていたのでしょうか? 可愛いベルに、何か御用でも?」
「ひ……!」
同級生たちが怯える中、メリッサだけはうさぎを横取りされたのがよほど気に喰わないのか、
まるで虎と子猫のにらみ合いのごとくバチバチと不穏な火花を散らす両者を、ベルはおろおろと見比べ――
その時、ベル、と柔らかな声が鼓膜を撫でた。
「探したよ」
愛おしい声に振り返る。
敬愛する主が微笑んでいた。
「ロクさま」
ロクは静かに進み出ると、ベルの半歩前に立った。背中に添えられた手から温かい魔力が流れ込んで、凍えた心を溶かしていく。
マノンがベルの同級生たちを示す。
「こちら、ベルのご学友だそうですよ」
驚愕する少女たちの唇から、わななく声が零れた。
「ゆ、勇者、さま……?」
ロクが人当たりの良い笑顔を浮かべる。
「ベルがお世話になったみたいで」
穏やかな声の底に、静かなうねりが潜んでいる。
最強勇者と淑女のタッグに気圧されて、取り巻きたちが後ずさった。
「ね、ねえメリッサ、行きましょう……」
しかしメリッサはというと、大きな目をいっぱいに見開いて、ロクを凝視していた。
その視線が異様に熱を帯びていて――ふと気付く。
優しい瞳に、柔らかな物腰。
「行こう、ベル。ナターシャとマリニアが探してた」
ロクが彼女たちの視線からベルを護るようにしてエスコートしてくれる。
同級生たちは為す術もなく立ち尽くしていた。何の取り柄もない
彼女たちがそのまま見送れば、事は収まるはずだった。
しかし静寂を破って、叩き付けるような絶叫が弾けた。
「待ちなさいよ!」
悲鳴に似たメリッサの絶叫に振り返る。
メリッサが拳を握り締めてベルを睨み付けていた。
初めて見る表情だった。
整った顔には、嫉妬や屈辱、激昂、焦燥、そんなものが渦巻いている。
その唇はきつく噛みしめられていたけれど、ベルの耳にははっきりと聞こえた。
「なんであんたがっ……! なんで
メリッサが唐突に駆け寄り、ロクの腕を掴んで強引に振り向かせた。
その瞳が妖しく輝く。
「勇者さま、あたしの目を見て……!」
キィィィィン、と脳を貫くような高音が響き渡る。
『
「いけません、ロクさま……!」
ベルはとっさにロクの目を覆おうと手を伸ばした。
しかし、それよりも早く。
パンッ! と、何かが弾ける音が響いた。
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【追放魔術教官の後宮ハーレム生活】2巻
7/16(金)発売!
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さとうぽて様(https://mobile.twitter.com/mrcosmoov)の描かれる麗しいフェリスとカナデが目印です!
書き下ろしエピソードもございますので、
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
幕間、あと1話続きますすみません!
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