それでも死神は恋をした

hinoichi

第1話 こうして僕は死神になった

 どうして死んだのか。どうやって死んだのか。自分の死に関する記憶は全く無い。ただ、自分が死んだ人間であるということはなぜか自覚していた。


 記憶を遡ってみても、その始まりは暗闇があるだけ。自分の手足すら見えないほどの真っ暗闇だ。


 感覚はある。とはいっても、働いている五感は触覚くらいだろうか。両足に何人もの人間の腕が纏わりついている感覚がする。


 どうしてか、纏わりついてくるそれらには何も思わなかった。本能的に、そういう場所にいるのだから仕方がないと理解ができていた。


 しかし、立っているだけでは何も変わらない。引き止めるような腕を、あるいは身体を、何本も引きずりながら、真っ暗闇を歩きだそうとする。


 不思議と、足は一歩ずつ、確実に進めることができた。重たいには重たいが、全く動けないという程ではない。


 ただ、邪魔であるのは間違いなかった。時々、向かう先に微かな光が見えるのに、足に纏わりつくそれらが邪魔でなかなか進めない。振り払おうともがくとすぐにその光は消えて、また真っ暗闇を、足に纏わりつくそれらを引きずりながら進む。それを何度も、何千回、何万回と繰り返した。


 しかし、何の前触れもなく、急に見えない壁にぶつかった時があった。左右、上下に無限に広がっているかのような、見えない壁。


 どうしたものかと立ち止まっていると、ふっと、足元に穴が空いた。


 そして、深く、深く落ちていった。


 恐怖は無かった。自分が落ちるべくして落ちているということが、わかったからだ。


 落ちて。


 落ちて。


 堕ちて。


 気を失うほどに落ち続けて。


 気がつけば、僕は死神になっていたのだ。


 自分が死神であると理解したのは、誰かにそう言われたからだった。


 誰かたち、が正しいだろうか。一人の声ではない。男の声で言われたこともあれば、女の声だったこともある。


 堕ちた先なのであろう、またもや真っ暗闇にいる自分の頭に、直接話しかけてくるそれらの声を、誰かの声と特定することができない。


 誰の声なのかは気にならなかった。


 疑問を抱くこともない。


 言われたことを、ああ、そうかと理解する。


 お前は死神になった。


 ああ、そうなんだ。


 命の価値を計りなさい。


 わかった。


 奪われるべき者からは奪い、与えられるべき者に与えなさい。


 そうか。


 こんなやり取りだけで、僕は死神としての自分の役割を理解した。


 その役目を果たすために、告げられた名前の人間のもとへと送られるのだ。

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