第98話 竜人2
「何だあいつは!」
「ふざけんな!」
「邪魔すんじゃねぇ!」
ワァ~!
ワァ~~!!
観客席からヤジが飛んでいる。
「ねぇ。いい加減足をどかしてくれないかな?」
ルーカスを踏み潰そうとしたドラゴンは、
軽々と片手で防いでいる男から足をどかす。
・・・・・何だあいつは?踏み潰そうとした足を片手で防いだだと?・・・・・・・ありえん。
一番後ろで見ていたミケランは、突然現れた男に驚いていた。
「大丈夫ですか?」
僕はルーカスに手を差し伸べる。
「ハァハァハァ。・・・・・ああ、ありがとう。
俺は大丈夫だ。だけど仲間がやられてしまってね。・・・・・回復を頼めないだろうか。」
僕は仲間達に目で合図をする。
「分かりました。すぐに治療しますね。・・・・・ルーカスさんも一緒に下がってもらえませんか?」
「!!!俺はまだ大丈夫だ。あの竜人はとても強いぞ。だから一緒に・・・・・。」
「ルーカスさん。僕は大丈夫ですから、仲間の傍にいてあげてください。」
ルーカスが言いかけた言葉を遮る。
「・・・・・そうか。分かった。それではお言葉に甘えるよ。・・・・・気をつけて。」
「ハイ。」
ルーカスは、負傷した【ストーム】の4人が運ばれた闘技場の控室へと歩いていった。
僕は、ルーカスを見送ると5人の竜人の方へと近づき、観客席まで聞こえる声で言う。
「ここに、ゼリュウという人はいますか?!」
すると、観客席から一人の男が飛び降り、
一番後ろのミケランの隣に立つ。
「・・・・・俺が、ゼリュウだが?」
「そうですか。僕は冒険者です。貴方を討伐しに来ました。ライカンドさんが言うには、竜人は決闘を申し込まれたら断る事はないと聞きました。
なので、決闘を申し込みたい。・・・・・ただ、戦いの途中で割って入ってしまいましたから、貴方達6人と僕との戦いでどうでしょうか。」
「待って!僕もいるよ!!」
いつの間にか、僕の後ろにカイトがいた。
「2対6だと???」
「舐めてんのか~!」
「ふざけんな!」
「何様だ!あのヒューマンは!」
「さっさと殺してしまえ!」
一度静かになった観客席がまた騒ぎ始めた。
「ライカンド様。いいのですか?」
闘技場まで案内した後、そのまま特等席へと移動して成り行きを見ていたライカンドは側近に言う。
「ああ。あの方がそれでいいと言っているんだ。進めろ。」
「ハッ!」
・・・・・あの戦争の時、天竜様が主と呼んでいた男。そして王女様もあの男を立てていた。あのヒューマン・・・・・どの位の実力なのか知りたい。
ゼリュウとミケランは、外では悪さをしているみたいだが、竜人の中では強い方だ。・・・・・さて、何人倒せるのか見ものだな。
ライカンドは、特別席から眺めながらニヤリと笑った。
ライカンドの側近が、観客席の壇上へ上がると言う。
「静まれ!!!今、頭(カシラ)が認めた!!!これより、そこの者2人と、我が同胞6人の決闘を始める!!!!」
ウォォォォォォォォ!!!!!
周りが盛り上がっている。
先頭にいるドラゴンが一番後ろにいる2人に言う。
「ゼリュウさん。ミケランさん。ここは俺に任せてもらっていいか?あんなヒューマン二人。あんたたちが出るまでもない。俺一人でこのままかたずけてやる。」
「・・・・・好きにしろ。」
そう言うと、ゼリュウとミケランは壁の方へと下がっていく。その後を残りの3人が追従する。
「そう言う事だ!俺が直々に相手をしてやろう!
すぐに消し炭にしてくれるわ!!」
すると、カイトが僕の前に出る。
「なぁ。君がさっきのパーティと戦ったのかい?」
「ん?・・・・・あぁ!俺一人でな!弱すぎてつまらなかったわ!」
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
カイトがいきなり大声で叫ぶ。
「俺はな!!!仲間と・・・・・特に知り合った女性を傷つける野郎は絶対に許さねぇぇぇぇぇ!!!!!てめぇは絶対にぶっ殺す!!!!!」
「へっ?・・・・・・・カイトさん?」
目はつり上がり、口調も変わり、修羅の様な顔をしている。・・・・・・アイドル顔のカイトがまるで別人だ。
【ストーム】の女性陣を瀕死の状態まで傷つけたのが相当頭に来ているらしい。
カイトが僕の方へ振り向くと言う。
「レイ!こいつは俺がやる!!いいな!」
「はい。」
僕は少し距離を置いた。
「何だぁ~?俺は二人まとめても良かったんだがなぁ。」
「うるせぇ。ピィーピィーピィーピィー喋ってんじゃねぇ!!!」
「貴様!!!!!・・・・・・・じゃ、死ね!!!!」
ゴオッ!!!!
ドラゴンは大きく口をあけてブレスを吐いた。
吐いた業火は目の前の土を焼き、先の壁を溶かす。
「ハッ!消し炭になったか?」
ドラゴンは、先ほどまでいた男の場所をみて言う。
「こっちだよ。のろま。」
横を見ると、少し離れた所で、その男は弓を引いていた。
「・・・・・秘技。【100矢】。」
ブワァァァァァァ
光の矢を放つと、一気に分裂して無数の矢がドラゴンを襲う。
鋭い爪ではらいのけようとするが、数本の矢を防げただけで、光の矢が次々に刺さる。
「・・・・・ちっ!動くんじゃねぇよ。
・・・・・重力魔法【グラビディ】。」
ズンッッッッッッッッ!!!!!
ガッ!・・・・・なっ!うっ動けん!!!
ドラゴンは金髪の男を見ると、
その男はすでに次の動作に移っていた。
「100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!100矢!
100やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「グォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
何分続いたのだろうか。
無数の光の矢が延々とドラゴンに放たれる。
防ごうとしていた腕は力を失い、顔を含め、体全身に光の矢が刺さっていく。
暫くして、攻撃がおさまった時には、戦っていたドラゴンは矢が刺さりすぎて姿形が分からない程になっていた。・・・・・そして、途中で絶命していた。
「ハァハァハァ。・・・・・ざまぁ。」
そう言うと、カイトはフラフラになりながら、僕の方へとやってくると、手をあげる。
「レイ。・・・・・僕はもう満足さ。
後はよろしく。」
僕とタッチすると、魔力を使い果たしたのか、その場に倒れこんだ。
良かった。最後はいつものカイトだ。
・・・・・ほんと怖いわ!!!
僕はホッとする。
「ちっ!油断しすぎだ。」
「あぁ。・・・・・だが、これであと一人だ。あいつをやった後に、倒れている男をやればいい。」
戦いを後方で見ていたゼリュウとミケランが言う。
・・・前から戦っていたのはあいつだ。・・・・・我々は体力も何も消耗していない。・・・全開だ。
「さて。相手の要望だ。ここからは、我々五人全員で相手をしてやろうではないか。」
ミケランがそう言うと、竜人5人は、闘技場の中央へと歩く。
それに合わせる様に青年が中央へと歩きはじめた。
「さっさと殺せ~!!!!」
「なぶり殺せ~!!!!」
「竜人の強さを見せろぉぉぉ!!!!」
1人倒されたのが意外だったのか、観客は更にボルテージが上がる。
向かい合うと、ゼリュウが言う。
「おい。お前の要望だ。これからは全員で戦ってやろう。」
青年はゆっくりと白く美しい剣を抜くと言う。
「遠慮なくどうぞ。」
ゼリュウはミケランと目を合わせる。
・・・・・一瞬で終わりにしてやる。
「行くぞ!!!」
武器を持った竜人が一斉に襲い掛かろうとしたその時、青年は剣を持った腕をだらりと下げ、立ち尽くす。
「奥義。ゾーン。」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
騒がしかった観客は静まり返っていた。
誰しもが声をあげる事なく、その状況を固唾をのんで見つめていた。
青年に襲い掛かったであろう、ゼリュウ、ミケラン含む五人は・・・・・・・・・死んでいた。
一瞬。
一瞬だった。
観客は、なにが起きたのか、まるで分からなかった。
全員の首が同時に飛んだのだ。
首がない死体は、竜人からドラゴンへと姿を変える。
・・・・・チン。
静まり返った闘技場の中央で、青年はゆっくりと剣をおさめると一人呟く。
「・・・・・悪いね。ドラゴンになるのを待っても良かったんだけど、ルーカスさん達の状況を早く知りたいんでね。」
青年は、ゼリュウとミケランのドラゴンの頭を空間収納に入れると、そのまま闘技場の控室へとカイトに手をかしながら戻って行った。
「・・・・・これほどとは。」
特等席で見ていたライカンドは、声を震わせながら呟く。
・・・・・あの天竜様の主だ。五人相手でもいい勝負をするかもと思ったが・・・・・一瞬だと?
ゼリュウやミケランは竜人の中でも強い方だ。・・・・・ありえない。・・・・・だがこれは事実だ。・・・・・認めないといけないな。・・・・・あのヒューマンを。
ライカンドは立ち上がると大声で言う。
「これで決闘はお終いだ!!!・・・・・皆の者よ!世の中にはヒューマンでも我々より強き者がいるという事だ!皆、肝に銘じて、修練に励むように!・・・・・解散!」
☆☆☆
「レイ君!」
「カイトちゃん!」
・・・・・カイトちゃん?ちゃん付で呼ばれているのかよ!
心の中でツッコむ。
僕とカイトが控室へと着くと、ルーカスが、そして傷が完全に塞がり完治した【ストーム】の女性陣が僕達を迎えた。
白雪とキリアを見ると、二人とも頷く。
良かった。何とか間に合ったんだね。
「レイ君。決闘はどうだった?」
心配そうな顔で、ルーカスが言う。
「えぇ。終わりましたよ。僕達の討伐対象も無事倒しました。もちろん、【ストーム】の対象のミケランもね。」
「!!!・・・・・君は凄いな。俺達は竜人一人だけでも敵わなかったのに。・・・・・レイ君。我々はクエストを失敗したと、ベルメゾンさんに言っておいてくれないか?」
「・・・・・いいんですか?」
「ハハハ。いいも何も、倒したのは君達【ホワイトフォックス】だ。俺達はクエストを失敗したのさ。このまま仮に嘘をついてSSS級になれても苦しむのは俺達だしね。まだまだレベルが足りないって事さ。もう一度出直すよ。」
「・・・・・そうですか。それじゃ、今日は宿で休んで、明日、『北のアルク帝国』までは一緒に帰りましょう。」
「あぁ。そうしてくれると助かるよ。」
その日の夜は、側近の人が案内してくれた料理店で、この町、ドラゴニア料理を堪能させてもらった。
【ストーン】は全員、よほど疲れたのか。宿に着くなり、すぐに寝てしまった。
その料理店に入って驚いたのは、飲み食いしていた竜人達が皆、僕達を見かけると、笑顔で話しかけに来たのだ。
決闘は竜人にとって、神聖な事であり、結果はどうあれ、恨みなど一切ないとの事だった。
凄いな。
特にラフィンに対しては、皆、神様でも見る様に、お酒を注ぎに来ていた。
飲みながら、気になっていた魔界への入口の事を聞いたのだが、それは、竜人がある呪文を使って、強引に空間を捻じ曲げて連れてきた魔物達だった。
なので、魔界へ行き来する様な事は出来ないのだと言っていた。
結局、唯一魔界へと行けるのは、封印の島『カルテル』しかないという事か。
そんな感じで、ドラゴニアの住人達と飲み食いし、楽しい時を過ごした。
宿で一泊した次の日、町の出口まで行くと、
ライカンド達が待っていた。
「もう行かれるのですか?」
「ええ。クエストの報告をしないといけないので。」
「そうですか。ラフィン王女様。この度は、こちらに来て頂きありがとうございました。お父上様には、よろしくお伝えください。
そして・・・・・・・・貴方の名前を教えてもらえませんか?」
「僕はレイ=フォックスといいます。」
「レイ=フォックス・・・・・・。覚えました。
今後、貴方達がこの町『ドラゴニア』に来た時にはいつでも歓迎いたしましょう。」
僕はライカンドに別れを告げると、『北のアルク帝国』へ【ストーム】と一緒に帰路についた。
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