第97話 竜人
「あれ?あれは・・・・・。」
神聖亭から出た僕達は、透き通った夜空を見ながら街中を歩いていると、一緒に試験を受けている冒険者パーティ【ストーム】が少し離れた店の前で立っていた。
「ルーカスさん!」
僕が手を振りながら近づき、声をかける。
「君は・・・・?」
ルーカスが怪訝そうな顔で聞く。
・・・・・しまった。仮面を付けてなかったわ。
「僕達は【ホワイトフォックス】です。」
小声で話す。
「・・・・・何だ!ビックリしたよ!いきなり知らない人から声を掛けられたから何かと思ったよ!」
「ハハハハハ。すみません。思わず声を掛けちゃいました。・・・・・あの、ここでは僕達のパーティ名は呼ばないでもらえませんか?この国では、僕達は良く思われてないので・・・・・。」
「そうなのかい?では何て呼べばいいのかな?」
「あっ!失礼しました。名乗っていませんでしたね。僕はレイ=フォックスと言います。改めてよろしくお願いします。」
「よろしく。ところで、レイ君。
君達はもうターゲットの居場所は分かったのかな?」
「ええ。そちらは?」
「俺達は、MMOの時からここ『ギリア国』で活動していたパーティなんだ。まぁ地元みたいな所だから、すぐに居場所は掴めたよ。・・・・・で、レイ君達も山脈を越えていくんだろう?」
「そうですね。普通に行こうと思ってますよ。」
「そうか。あそこの魔物レベルは高いので有名でね。奥に行けば行く程、凶暴で強い魔物が出現するんだ。」
「へぇ~。でも、ルーカスさん達も行くんですよね。」
「もちろん。・・・・・だけど、ちゃんと対策はしてきたからね。」
そう言うと、ルーカスは2つの小瓶を取り出して見せる。
「これは、完全に気配を消す薬と匂いを消す薬さ。これがあれば魔物に気づかれずに目的地に行けるって寸法だ。」
・・・・・すごいな!そんなアイテムがあるんだ。まだまだ知らない事が多いな!
僕が感心していると、ルーカスの仲間の女性二人が声を掛ける。
・・・・・彼ら【ストーム】は男3人、女2人の5人パーティだ。
「ねぇ!店の前で立ってないでそろそろ行きましょうよ。早く飲みたいんだから!」
「!!!・・・・・あぁ!ビーナス!!!なんて美しい女性達だ!」
カイトがすかさず前に出て、女性陣に声をかける。
「えぇ~!何この子!アイドルみたいな顔してて可愛い!!・・・・・すごい!プレイヤーじゃなくて現地人よね!仲間にしたんだ!」
【ストーム】の女性陣はカイトの体を触りながら喜んでいる。
暫くカイトは女性陣と話しをした後、嬉しそうに僕の方に来て言う。
「なぁレイ!僕は彼女達と一緒に飲みに行こうと思うんだ。いいかな?」
「あぁ。もちろんいいよ。明日一日ゆっくりしてから行こうと思ってたから楽しんできな。」
「ありがとう!じゃ行ってくるね!!!」
【ストーム】の女性陣2人と一緒にカイトは店へと入っていった。
すると、残りの男性陣2人が僕の後ろにいる3人の仲間に言う。
「ねぇ!折角だから君達もどうかな?ずっとあの二人と一緒に居て、君達みたいな、とても美しくて可愛らしい女性と話す機会がなかったんだ。」
「・・・・・ごめんなさい。遠慮するわ。」
白雪が笑顔で言う。
「うん!僕も!」
ラフィンが言う。
「・・・・・レイと一緒にいるから・・・・・行かない。」
キリアが言う。
「そっ、そっかぁ~!それは残念!
・・・・それじゃまたの機会に!」
そう言うと、【ストーム】の男2人はバツが悪そうにしながら店へと入っていった。
残されたルーカスが笑いながら言う。
「ハハハハハ。レイ君。何か悪いね。俺達はプレイヤーとは仲がいいんだけど、中々NPC・・・・いや、現地人とはコミュニケーションをとる時間がなくてね。声を掛けられたもんだから、皆、盛り上がっちゃった様だ。」
「いえ。全然大丈夫ですよ。僕は仲間の意見を尊重しますので、面倒をかけますが、カイトをよろしくお願いします。」
「あぁ。彼は責任をもって送るよ。」
カイトの面倒を見てもらう事を約束して、ルーカスは店の中へと入っていった。
・・・・・流石カイトだ。
初対面でも女性だとホント、積極的だよな。
・・・・・僕じゃとてもじゃないが、声をかけるなんて出来ない。
・・・・・ある意味、見習わんといかんな。
僕は改めてカイトの積極性に感心した。
次の日は、食材や足りなくなった物を買い、
しっかりと旅の準備をしてから二日後に僕達は目的地へと旅に出た。
カイトが言うには、【ストーム】は一日早く出かけたらしい。
彼らは、気配を消しながら行くと言っていたので、無事辿り着くだろう。
もし、何かあって魔物と戦っているのを見かけたら援護しようとは思っている。
折角知り合いになったからね!
首都『ハアム』から、北へ行くには、【雪毛馬】という馬が引く馬車に乗って移動した。
その馬は、この国のみ生息している雪の上でも駆ける事が出来る特別な馬だった。
北へ北へと進むと、魔物がいると言われている山脈の入口へと着く。
そこからは馬車を降りて、歩いて目的地へと向かった。
しばらく進むと、案の定、魔物が次々と現れ、僕達を襲ってくる。
白雪が、最近僕ばかりメインで戦っているので、目的地へ着くまでは、僕抜きの四人で戦うと提案されたのだ。
ちょっと納得いかない部分もあったが、白雪達なりに気を遣ってくれたのだろう。
僕は了承し、パーティの後ろで待機する事にした。
次々と来る魔物をバッタバッタと倒しながら白雪とラフィンは前へと進む。
大型の魔物だろうがお構いなしだ。
そして、多勢で魔物が来た時は、まとめてキリアが魔法で殲滅する。
圧倒的だった。
後ろから彼女達の戦いを見ていると、本当に強くなっているのが分かる。
・・・・・最近、僕達のステータスを見てなかったから、後で落ち着いたら見てみるか。
そのまま何事もなく進み、
三日後には目的地の【緑魔山】の麓に着いた。
確かに、山脈を奥に進めば進む程、魔物のレベルが高くなっていた。最後の方はレベル190位か。
【ストーム】が戦うのならレベル的にかなり苦戦をしただろう。
でも、僕の仲間達にとっては、敵ではなかった。
皆、ケガもなく無事、辿り着いた。
僕は一度も戦闘に参加せずにね!
そして【緑魔山】へと入ると、何故か魔物が一匹も現れなくなった。
この山が何か強い結界でも張られているのか。
それとも竜族が住んでいるからなのか。
魔物と会うことなく中腹へと進むと、突然、ひらかれた場所に着く。
そこにあったのは・・・・・大きな町だった。
上空には、ドラゴンが数匹、優雅に飛んでいる。
「凄いな・・・・・。」
僕は思わず声を出した。
ここがあの老人が言っていた、
この世界で唯一竜人が住む町『ドラゴニア』。
山の中腹にこんな町があるなんて、誰も思わないだろう。
僕は、町の入口にある大きな門の前にいる竜人に声を掛ける。
「すみません。僕達は冒険者ですが、この町に入る事は出来ますか?」
「ん?・・・・・なっ!!!あっ貴方様は!!!!!すっすみません!すぐに頭を呼びますので今しばらくお待ちください!!!」
門兵だろうか、その竜人は、僕の後ろにいるラフィンを見ると、慌てて町の中へと消えていった。
僕は不思議そうにラフィンを見ると笑顔で答える。
「竜人はずっと昔から僕達、天竜人の配下なんだ!天竜人は天界に住んでいるから、竜人が定期的に現界の状況を報告したりしているんだよ!だから滅多に降りて来ない現界に現れたもんだから驚いたんだと思うよ!」
「なるほどねぇ。」
暫くすると、上空から、ドラコンが数匹こちらへと飛んでくる。
先頭にいる赤いドラゴンが、僕達の前に降りると、追従して他のドラゴンも降りる。
みるみるうちに人へと変わると、先頭にいる真っ赤な髪の男が跪く。
すると、他の者達も一斉に続いた。
「・・・・・これはまた。前にお会いしたと思ったら、また違う天竜様にお会いするとは・・・・・。我が町『ドラゴニア』にようこそいらっしゃいました。私の名は、ライカンド。竜人を統べる者です。」
「うん!私はラフィン!よろしく!」
「!!!!!・・・・・何と、王女様でしたか。
こちらに滞在されるのでしたら、ご要望がありましたら何なりとお申し付けください。出来る限り、対応をさせて頂きます。・・・・・ところで、天竜王様はお元気でしょうか?一度、代表でご挨拶をさせて頂いた事がありましたので。」
「パパ?とても元気だよ!!・・・・・それでね。ここでは僕じゃなくて、レイの言う事を聞いてほしいんだ!」
ライカンドは、僕の方を見ると目を見開く。
「貴方は・・・・・この間の戦争で、
もう一人の天竜様が主と言っていた方ですね。」
そういえばシャーベットさんがそんな事を言っていたな。
僕はライカンドに言う。
「ここにゼリュウという竜人はいませんか?」
「ゼリュウ?・・・・・確かにその者はこの町にいますが、どういったご用件でしょうか。」
僕は、世界中で犯罪を犯しているその竜人を討伐に来た事を説明した。
「・・・・・なるほど。そうでしたか。しかし、あの者もここでは我々の仲間です。言われたからといって引き渡すわけにはいきません。」
そりゃそうだ。
「ならば、闘技場での殺し合い。・・・・・決闘でどうでしょうか。」
「えっ?」
「我々竜人は、強い者が全て。決闘を申し込まれたら断る事はしません。もちろん、決着はどちらかが死ぬまでです。それでよければ、ゼリュウをお呼びしましょう。」
なるほどね。そう来たか。
探す手間が省けて丁度良かった。
「分かりました。それでは決闘という形でお願いします。」
「かしこまりました。・・・・・それでは宿へご案内しますので、今日はゆっくりと体を休めて明日行いましょう。・・・・・おい!」
「ハッ!」
ライカンドの部下が僕達を宿屋へと案内する。
僕は思い出した様に振り返り、見送るライカンドに聞く。
「そういえば、僕達の他に同じ様な目的で冒険者が来ませんでしたか?」
「あぁ。数時間前に来ましたよ。あの者達は同胞ミケランを倒しに来たと言っていたな。」
「えっ?それでどうしたんですか?」
「倒しに来たのなら、同じ様に提案しましたよ。・・・・・ただ、貴方達の様にお客人ではないので、すぐに闘技場へと案内させましたがね。・・・・・まぁあの者達なら見るまでもなく勝負は分かりきってますが・・・・・まだ戦っているんじゃないでしょうか。」
「!!!・・・・・ライカンドさん!すぐにその闘技場へ案内してください!」
・・・・・何て事だ。天眼で見ると、ここにいる竜人は大体がレベル200以上はある。ドラゴンになれば更にレベルが跳ね上がるだろう。
そして彼ら【ストーム】は195位だ。
・・・・・苦戦するのは目に見えている。
僕達は、戦っているという闘技場へと向かった。
☆☆☆
「遊んでんなぁ~!さっさと殺せ~!!」
「もっと粘れ~!人間ども~!!」
ワァ~!
ワァ~~!!!
闘技場の観客席で竜人達が騒いでいる。
コロッセオの様な円形の闘技場の中心に、
SS級パーティ【ストーム】がいた。
ある者は腕を食いちぎれられ、
ある者は足が飛ばされていた。
皆、瀕死の状態だった。
唯一、フラフラになりながらもまだ立っている者が【ストーム】のリーダー、ルーカスだった。
「はぁ。・・・・・つまらんな。もっと歯ごたえがある奴が来たのかと思ったわ。」
相対している5人の竜人の一番後ろで腕を組んでいる男が言う。
「ハァハァハァ・・・・・くそっ!」
ルーカスが肩で息をしながら呟く。
まさか、ここまで竜人が強いとは思わなかった。
クエストの討伐者、ミケランは見つかったが、俺達パーティメンバーが5人だからと、相手もミケランを入れた5人組での対決となった。
最初は、前衛の二人といい勝負だったが、その内の一人がドラゴンへと変わってからは、まるで相手にならなかった。
剣で斬りかかろうが、魔法を叩きこもうが、相手に決定的なダメージを与える事が出来ずに、仲間が1人、また1人とやられていった。
何とか生きてはいるが、俺以外は皆瀕死の状態だった。早く手当てをしないと命にかかわるだろう。
・・・・・もう、勝てない。どうにかして、皆を連れて逃げないと・・・・・。
すると、ドラゴンへと変わった竜人が言う。
「はっ!弱すぎてミケランさんが手を煩わせる事もないわ!・・・・・これで終わりにしてやろう!!!」
そう言うと、その大きなドラゴンは、ルーカスを踏み潰そうと足を上げ、地面へと踏み下ろした。
「クソッ!!!!・・・・・皆!!!!」
ルーカスは死を覚悟し、目をつぶる。
「・・・・・はい!そこまで!!!!!」
ドンッッッッッッッッ!!!!!!!!
踏み下ろした足は、ルーカスの頭上ギリギリで止まった。
目をつぶっていたルーカスは、
ゆっくりと目を開ける。。。。。
目の前にはドラゴンが踏み下ろした足を、
片手で軽々と受け止めている
レイ=フォックスがいた。
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