第94話 海国8
「あれ?なんか少なくないか?」
「ええ。・・・・・というか、それらしい人は誰もいないわね。」
白雪が周りを見渡して答える。
僕達は、4大国の1つ『オロプス』の首都『サイン』にある冒険者協会本部へと向かっていた。
着いてまず思ったのが、冒険者達や現地人達で混んでいる街の通りが、あまりにも空いている事だった。
見た感じ、冒険者らしい人達がまったくいない。
一般人だけが、所々にいる位だ。
不思議に思いながら本部へと着くと、入口から館に入る。
中へ入ると、いつも冒険者でごった返していた一階は、ガランとしていて静まり返っていた。
僕はすぐに、シェリーがいる受付へと足を運ぶ。
いた。
シェリーさんだ。
「シェリーさん!」
「レイさん!」
僕は手を振りながら、シェリーさんの元へと歩く。
「良かった。無事に戻って来てくれたんですね。」
「はい!無事戻りました。あと課題のクエスト、【水神の花】も手に入れましたよ!」
「本当ですか!それはおめでとうございます!」
シェリーが自分の事の様に喜んでいる。
「ありがとうございます。・・・・あの、シェリーさん。所で今日はどうしたんですか?僕達以外、冒険者が誰もいない様な気がしますが・・・・・。」
僕は周りを見渡しながらシェリーに質問する。
「あぁ。そうでしたね。レイさん達がクエストの花を探している間に、この国に魔物が大量に発生しまして、冒険者達は全員その討伐に向かっています。」
「えっ?そうなんですか?」
「はい。・・・・・ただ、討伐に行って、
もう1週間近く経ってまして
・・・・苦戦をしているみたいです。」
シェリーが不安そうな顔をする。
・・・・・なるほどね。ここの冒険者は魔物の討伐に行っているのか。たしか、この国の防衛は冒険者が受け持つんだったな。
・・・・・という事は、シュバインさん達も行っているのか。プレイヤーは皆レベルが高い。問題ないとは思うけど・・・・・。
「そうですか、なら僕達もちょっと様子を見に行ってきます。この国の人ではないので、出来る事は少ないかもしれませんが、ちょっとは手伝える事もあるかもしれませんしね。」
「えっ?いいのですか?でも、せっかく
【水神の花】を持ってきたのに・・・・・。」
「ハハハ。まぁこの試験の期限は3ヶ月で、あと2ヶ月ちょっとはあります。
問題ないでしょ。・・・・討伐に行った冒険者の中に知り合いもいますし、少しでも手伝えればね。」
僕は笑顔で答える。
「ありがとうございます!
レイさん達、ホワイトフォックスが参戦してくれれば、とても心強いでしょう!!!
もちろん。我々協会としても、何かお礼をさせて頂きます!どうか、この国の冒険者達を守ってください!」
「ええ。どこまでやれるか分かりませんが、全力を尽くします。・・・・・では早速行きますね。
終わったら、課題のクエスト達成報告をします。」
「はい!気を付けて行って来てください!」
シェリーに軽く手を振ると、仲間達の元へと行き、事情を説明する。
「・・・・・という事らしいんだ。次の試験もまだ2ヶ月は先だし、手伝ってもいいかな?」
「レイが決めたんなら、私達はついていくだけよ。」
白雪が笑顔で言う。
「そうそう!別に了解とらなくてもいいよ!」
ラフィンが言う。
「・・・・・ずっとついていくから・・・・・気にするな。」
キリアが言う。
「リーダーはレイ、君だ。君の言う事は、皆、信じているから大丈夫だよ!」
カイトが言う。
「ハハハ。ありがとう。んじゃ行くか!」
「オウ!!!!!」
魔物と戦っているという、海辺の町『ローカル』へと、僕達は向かった。
☆☆☆
「はぁはぁはぁ・・・・・。
クソっ!こりゃやべぇな・・・・・。」
上位クランのSSS級パーティ【たぬき】のリーダー、カズキは呟く。
海の魔物と『オロプス』の冒険者達の戦いは一週間続いていた。
最初の数日は、レベルが高く、戦いにも慣れている【たぬき】を含む冒険者達が優勢だった。
しかし、魚人や海の魔物をある程度狩り尽くすと、途中から【海国人】なる者が戦闘へと加わってから状況が一変した。
我々と同じ、人間並みに知能があり、しかも強い。こちらは、魚人や魔物との戦いで疲弊している為に、かなりの苦戦を強いられていた。
カズキは、中央の先頭にいるトップクランの2チームを見ながら言う。
「・・・・・特に、あの【海神】という奴・・・・まるで歯が立たねぇ。
・・・・・あいつら大丈夫か?もし、あいつらが倒されたらマジで終わりだぞ。
・・・・・おい!そっちに負傷者がでたぞ!すぐに後ろへ下げさせろ!」
心配そうに先頭を見ながら、カズキは【海国人】との戦いを続けた。
「・・・・・どうした?これで終わりか?」
「シッ!!!」
ギィィィン!!!
トップクラン【HEAT】のクランマスター、アッシュ=レインが素早い動きで一刀をいれるが、
海神ポリウスは難なくその一刀を青い大剣で防ぐ。
そのまま力で大剣を振るうと、背の高いアッシュの体は宙に浮き、後ろへと飛ばされる。
ドンッッッッッッッッッッッッッ!!!
飛ばされたと同時にポリウスは踏み込んで、アッシュに一刀を入れる。
飛ばされたアッシュは、そのまま伝説の日本刀で防ごうとするが、青い大剣はあざ笑うかのようにその刀をすり抜け、アッシュへと襲い掛かる。
ザンッッッッッッッッ!
「グッッッッッッ!!!」
後ろへと飛ばされた為、致命傷にはならなかったが、着物から血がにじむ。
「ほら。次だぞ。これは防げるかな?」
そう言いながら、ポリウスは大剣を天にかかげると、海から数本の水柱があがり、その青い大剣へと吸収される。
「海神剣。」
振り下ろすと、巨大な剣がアッシュを襲う。
ドドドドドドドドドドドンッッッッ!!!!!!!
周りにいた冒険者は風圧で吹き飛ばされ、砂煙が舞う。
徐々に視界が晴れる。
「ほぅ。」
見ると、アッシュの前には、2mはある白く女神の模様がされている盾で防いだシュバインがいた。
タタタタタタタタタタタタタタタタッ!
その横から、小柄な【アークス】の副クランマスター、リン=エンキュートが駆ける。
・・・・・私の短剣はかするだけで致命傷を与えられる。
・・・・・相手が強い弱いは関係ないわ!!!
すかさず、ポリウスの懐に入る。
「ハァッ!!!」
ポリウスはバックステップで躱そうとしたが、
リンの短剣はそれより早く切り裂いた。
ザシュッ!!!!!
「やった!・・・・・えっ???」
斬ったが、後ろへ下がったポリウスは水の様に溶けていった。
「横だ。」
ドンッッッッッッッッッッッッッ!!!
いつの間にかリンの隣にいたポリウスは、
蹴りをリンの腹めがけていれる。
小柄なリンは、サッカーボールの様に、
数メートル先まで吹き飛ばされた。
「カハッ!」
吹き飛ばされ、地面にたたきつけられたリンは吐血する。
ポリウスは、向かってきた3人の冒険者を見渡しながら思う。
フム。強さは、我の幹部達と同じ位か。
・・・やはり、あの冒険者が特別という事か。
・・・・・ならば、もうこの戦いも終止符をうつとするか。
ポリウスはゆっくりと、シュバインとアッシュの方へと歩き始めた。
☆☆☆
シュバインは、伝説の武器【女神の盾】でポリウスの技を防ぎ、倒れているリンを見ながら考えていた。
・・・・・まずいですね。長い戦いで疲れている所に、魚人や魔物より強い【海国人】か・・・・・。
それでも何とか戦ってこれたが、あの海国人の王・・・・・ポリウスはレベルが違いすぎる。
私も今はレベル280はある。おそらくアッシュ=レインも。・・・・・だが、あの王は遥かにレベルが高い。ゆうに300は軽く超えていますね。
さて・・・・・どうするか・・・・・。
ポリウスは、シュバインの方へと歩み始めると、
目を見開き、驚いた顔をしながら、数メートル手前で止まった。
そして、すぐに大剣を持ってない手を掲げる。
すると、戦っていた【海国人】の戦闘が止まる。
???・・・・・何だ??????
「シュバインさん!」
シュバインは後ろを振り向くと、仮面を被った者達がこちらへと近づいてくる。
「レイさん!!!」
こちらへと近づいてきたのは、
レイ率いるホワイトフォックスだった。
先頭へと歩いている仮面をしているパーティに周りの冒険者達が注目する。
「おい。あれって・・・・・。」
「ねぇ。・・・・・ホワイトフォックスよ。」
「あれが噂の・・・・・。」
冒険者達も戦いを止めて仮面を付けたパーティに
注目している。
僕はシュバインの元まで行くと周りを見渡した。
リンが数メートル先で倒れているのを見かけると、すぐにキリアに指示をだす。
「キリア。リンさんに回復を。」
「・・・・・おう。」
キリアがリンの方へと駆ける。
「シュバインさん。大丈夫ですか?」
「ええ。私は大丈夫です。・・・・・・・しかし、どうしたんだ?」
シュバインは突然戦闘を止めたポリウスを見る。
「あぁ。・・・・・ちょっと彼と話をしてきますので、冒険者の皆さんも戦闘は中止してもらえますか?」
そう言うと、シュバインはすぐに理解した様に言う。
「何かあるんですね。・・・・・分かりました。
それでは、我々は一旦後ろへ下がります。」
「ありがとうございます。」
シュバインはそう言うと、【アークス】のメンバー、ビレッジに合図をだす。
それを見たビレッジは、すぐに天へと魔法を放つ。
すると、その魔法は花火の様に空中ではじけて、
大きな音をだした。
海辺の町『ローカル』へ撤退の合図だった。
何があったか分かっていない冒険者達は、不思議な顔と戦闘をしなくていい安堵の顔をしながら町へと戻って行く。
残ったのは、【アークス】と【HEAT】。
他の上位クランの一部のみだった。
その上位クランの人達も、数百メートル、僕達が見える位置まで下がる。
僕はシュバイン達が下がったのを見ると、
ポリウスの方へと歩きながら仮面を外して、
笑顔で言う。
「よっ!!!3,4日ぶり!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます