第93話 海国7




「えっ?」



思わず僕は呟く。





目の前には、片膝をついて敗北を認めた海国王、

海神ポリウスがいた。





すると、僕の背後から発せられた殺気がなくなる。



振り返ると、僕の後ろには、白雪、ラフィン、

キリアが戦闘態勢に入っていた。



少し離れた、回復した人魚サリュウの所には、カイトが弓を引きながら構え、ポリウスに狙いを定めている。



ポリウスを倒して復活した時に、白雪達が駆けつけてくれたのだ。





代わりに戦う為に。





ほんと、仲間想いで自慢のメンバーだな。





白雪とキリアがすぐに僕へ近づくと、回復魔法をかける。



斬られた傷や、左手が元に戻っていくのを見ながら、僕はポリウスに話す。





「負け?・・・・・でも、薬で完全に回復しているよね。」



「確かに、我が国に一本しかない【奇跡の薬】を飲んで我は回復した。

 ・・・・・だが、それは側近が持ってきた物。

これは我とお主の1対1の戦いだ。そこに助けが入った時点で我の負けよ。・・・・・まぁ、助けがなければ我は死んでいたかもしれんがな。」



「それじゃ、僕も見逃してくれるのかな?」



「フッ。貴様の強さなら、その仲間と、離れた所にいる人魚達で、手薄な我の国を滅ぼす事も出来よう。」



「興味ないね。僕は彼女を助けられればそれでいいんだ。」



「・・・・・そうか。ならば、我に勝った勝者として、今後お主の言う事には従おう。・・・・・何か要望はあるか?」





いきなりそうくるか。ほんと武士だな。





「・・・・・今、この世界の海は、君達【海国人】と【人魚】の2大勢力になっているんだよね。・・・・・なら、人魚の女王に僕が話すから和解できないかな。

 仲良くしてくれなんて言わないよ。ただ、お互い共存の道を模索して欲しいと僕は思ってる。」



「フム。・・・・・・・・あい分かった。我は今、別の件で忙しくてな。それが落ち着いたら検討すると約束しよう。・・・・・それでいいか?」



「あぁ。それで十分だよ。・・・・・約束だ。」






僕はポリウスと握手をして別れた。










「サリュウ!!!」



「お姉ちゃん!!!」



ミーシャは、僕の後ろにいたサリュウを見つけると勢いよく抱きしめる。




海国人の国『レべリア』の王、ポリウスがいる城から数キロ離れた所で、人魚達は僕達が戻ってくるのを待っていたのだ。



二人は再会を喜び合っていた。

周りの人魚達も二人を囲みながら涙を流している。





うん。よかよか。





僕はその光景を、二人が落ち着くまで黙って見守っていた。










☆☆☆










「さぁ!レイさん!どんどん飲んでくださいね!」



ミーシャが右隣に座ってお酌をしながら言う。




「レイお兄様!このお酒も美味しいんですよ!

 ささ、飲んでください!」



サリュウが左隣に座ってお酌をしながら言う。




その光景をカイトを除く3人の仲間達がジト目で僕を見ている。






ここは、西の海【アイラ海】にある人魚の国の城。



サリュウを救出し、ミーシャ達と戻った僕達は、

女王ミラクリア率いる人魚達や他の魚達が歓喜に震え、お祭り騒ぎとなった。



その主役たる僕達は、すぐに城へと案内され、

宴が開かれる事になったのだ。



どういう風に作り出したのか、この大広間のみ、

海水はなく、普通に空気があった。



そして、女王や王女、側近達や給仕達、ここにいる全ての人魚達は下半身が魚ではなく、人間と同じように足になって僕達を歓迎してくれた。




聞くと、魔力を使うが、足になる事も出来るのだという。




両脇には、可愛い王女達がお酌をしてくれるし、美しい他の人魚達もどんどん料理やお酒を持ってきてくれる。




そんな状態で、お酒が進まないわけがなかった。




3人の視線は痛いが、やっぱり気分はいいね!・・・・・カイトは来る人魚来る人魚、片っ端から飲みながら口説いているのはあっぱれだけど。



僕は開かれた大きな窓を飲みながら見ると、外では魚達や人魚達が歌いながら泳いでいる。





こんな幻想的で美しい光景を眺めながらの食事は、感動の一言だった。





すると、気持ちよく飲んでいる僕の前に、人間の格好をした女王ミラクリアや側近達が座る。





「レイ。改めてお礼を言うわ。ミーシャを。そしてサリュウを。私の娘達を助けてくれて、ありがとう。」



「ありがごうございます!」



ミラクリアとその側近達がお礼を言う。




「・・・・・前にも言った様に僕達は冒険者です。この国の秘宝【神海の息吹】を頂いて、更には【水神の花】も沢山貰いました。それに見合うだけの仕事をしただけですよ。」



「フフフフフ。ほんと謙虚な人ね。・・・・・でもそれでは私達が納得しないわ。何か他にも願い事はないかしら?」



「・・・・・そうですね。・・・・・それでは、海国人の王。ポリウスと一度会ってもらえませんか?」



「えっ???!!!」



ミラクリアは、まさかその名が出ると思わなかったのか、驚いている。




僕は、救出時にポリウスと戦いになった事。そして海国人の国と人魚の国が和解できないかを打診した事を話した。




「・・・・・そう。そんな事があったのですね。」



「ミラクリア様。ずっと敵として戦ってきた相手です。簡単には仲良くできない事は重々承知です。・・・・・でも、今後もこんな争いを続けて、ミーシャやサリュウみたいに、人魚達が傷つくのを僕は見たくありません。結果はどうあれ、ポリウス王は僕の願いを聞き入れてくれました。

 どうか、お互い共存の道を検討してもらう事はできないでしょうか。」




女王は、娘達や側近達を見る。




「・・・・・そうね。私もこんな争いは望んでないわ。ただ、この国を、この子達を守りたいだけ。・・・・・レイ。貴方の提案を受けるわ。ポリウス王と一度、話し合いの場を持ちましょう。」






ワッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!






周りにいる人魚達が嬉しそうに抱き合っている。






「しかし、レイ。ポリウス王に勝つなんて・・・・・貴方本当にヒューマンなの?」




呆れながら言う。




「ハハハ。れっきとしたヒューマンですよ。・・・・・・あっ。でもハイヒューマンになったんだっけ。」



「ハイ???」




ミラクリアは僕や仲間達を見て小さく呟く。




「なるほどね。

・・・・・・【選ばれし者】・・・・・か。

それなら納得だわ。」



「えっ?何か言いました?」



「いえ。何でもないわ。・・・・・さぁ!まだまだ宴は始まったばかりよ!たくさん食べて、飲んで、ゆっくりしていってちょうだいね。」










宴は3日間続いた。










☆☆☆










「ふぅ。久しぶりの陸だな。」



ミーシャとサリュウに送ってもらい、南の大国『ナイージャ』のリゾート地『サンマルクス』から少し離れた海辺にいた。




強い日差しを受けて、目を細める。




しっかし・・・・・この世界の種族は、

なんでこんなにお酒が強いのか。




3日間、ずっと飲みっぱなしだった。僕も地球の時からお酒は大好きで強いと思っていたが、この世界では弱い部類に入るのかもしれない。



このまま居続けると、ダメ人間になりそうだったので、別れを告げ、陸へと戻った。




帰り際に、女王が言った言葉を思い出す。



「レイ。貴方は娘達の命の恩人です。そして、この海を平和に導いてくれています。

・・・・・この御恩は一生忘れません。

貴方に助けが必要な時や、私達に頼みたい事があったら遠慮なく言って頂戴ね。」





・・・・・そんなに気をつかわなくていいのに。・・・・・・でも、心強いな。

ありがとうございます。ミラクリア様。





「レイィィィィィィ。ちょっと待ってよぉ。」



歩き始めた僕に、カイトがフラフラになりながら言う。




「馬鹿ね。飲みすぎよ。」



白雪が言う。




「人魚達に勧められたお酒。全部飲んでたもんね!」



ラフィンが笑いながら言う。




「・・・・・あほ。」



キリアが毒づく。






ハハハ。・・・・・良かった。流石にきつくて最後の日はあまり飲めなかったんだよね。・・・・・・・結果オーライ!






僕は、黙ってカイトの背中をさすった。










帰還紙を使って、ナイージャの首都『ナイラビ』につくと、独占契約を結んだ大商人、イーサの店へと向かった。



店へと入ると、すぐにイーサの部屋へと案内される。



「おぉレイ殿!今日は何様ですかな。まさかもう新しい物を仕入れたので?」



「そうですね。まずはこれを見て頂きたいのですが・・・・・。」



そう言うと、僕は【水神の花】をだす。



イーサはすぐに受け取ると、厚い図鑑を取り出し、虫メガネの様な機材でその花を見ながら言う。



「うそでしょう。・・・・・これは・・・・・

【水神の花】ではないですか!!!

レイ殿、これをどこで手に入れたんですか?

 この花は滅多に手に入れる事ができない素材ですよ!今ではおそらくどこにも売られていないでしょう。それ程、希少なのです。」



「実は・・・・・これだけあります。」




僕は空間収納から、両手いっぱいに【水神の花】をだし、イーサの机に置いた。




「なっ!なんとぉぉぉぉぉぉ!!!」



イーサは驚きながら続ける。




「こっ!これが最後に売りに出されたのは100年以上前です。その時の売値が2億を超えていました。今、売りに出せば、もっと高い値で売れますよ!しかも、これだけの量。

・・・・・凄すぎる。」



沢山置かれた【水神の花】を見ながらイーサは興奮しっぱなしだった。



「イーサさん。この花を売ります。ただ、2つの条件を守ってもらいたいんですよね。」



「ほう。2つとは?」



「1つは、この花を売りに出すのは、3ヶ月後にお願いしたい。そして2つ目は、もし、冒険者が尋ねに来て、この花を探していたらその冒険者には売ってください。もちろん、イーサさんが決めた売値で。」



「分かりました!それではその条件で販売させて頂きます!」



「よろしくお願いします。」




その後は、応接室でお茶をしながら雑談をして

イーサさんとは別れた。




・・・・・イーサさんとの独占契約は、僕達が持ってきたアイテムや素材を渡して、それを売りに出し、その儲けの半分を受け取るというものだ。


ある程度売れたら、【心の腕輪】で連絡をもらう事になっている。




「ねぇレイ。なんで冒険者に売る様に言ったの?」



イーサの店を出ると、白雪が質問してきた。




「あぁ。それはね、SSS級試験の花だからさ。

僕達はミーシャと出会って獲得できたけど、流石に普通じゃあの花を見つける事も、取りに行く事も出来ないからね。

 冒険者は横のつながりが大事だ。あのパーティ達が、イーサさんを知っていて、辿り着くことが出来ればあげてもいいかなと思ったんだ。

 まぁ、イーサさんの言い値に払えるかは別としてね。」



「まったく・・・・・・・・優しいんだから。」



白雪が小声で呟く。




「ん?何か言った?」



「何でもないわ。」



「そう?じゃ皆、冒険者協会本部がある『オロプス』へ帰ろうか!」



「オ~!」










ラフィンが楽しそうに僕の背中に飛び乗り、キリアが僕の胴に抱き着きながら、帰還紙を使って転送した。










・・・・・君達?

楽しそうだけど僕は抱き枕じゃないんだからね?























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