第84話 7大貴族




「このクソガキ!なんて事をしてくれたんだ!!!」





僕達は、リンさんの後に付いて街並みを歩いていると、先の方から怒鳴り声が聞こえた。




ん?




気になって、僕は駆け寄って見ると、アイスをもった小さい女の子の前に男の子が立っていた。



そして相対して、スカートの裾にアイスが付いた高そうな服を着て、

日傘を差している女性がその子達を睨みつけている。



その女性の周りにいる屈強な男達数人が子供達に怒鳴っていた。



「ごっ、ごめんなさい。妹がよそ見をしてしまって。」



「ごめんなさいですむか!この御方がどなたか分かっているのか!!!」




すると、日傘を差している女性は、男達に言う。




「はぁ。これからお呼ばれなのに台無しだわ・・・・・私に無礼をはたらくとどうなるか。教えてあげなさい。」



「はっ!」



男達は指を鳴らしながら子供達へと近づいていく。



男の子は、女の子を座らせると、覆うように庇う。



「お兄ちゃん!」



「いいか。リリ。動いちゃだめだぞ。お兄ちゃんが必ず守るから。」





シュン。





ガッ!ドッ!





・・・・・殴られる寸前、兄は目をつぶっていたが・・・・・何も起きなかった。




恐る恐る目を開けると、殴ろうとしていた男達が地面に倒れている。



「えっ?」



すると、その少年の前に一人の青年が立っていた。



「きっ貴様!!!」



「・・・・・大の大人が、子供に手をあげるのはどうかと思うんですが。」



僕は仲間を残して、瞬時に二人の子供に手をあげようとしている男達を咄嗟に足で払って地面に倒した。



すると後ろに居る女性が面白くない顔で言う。



「貴方。その子が私に何をしたのか分かっているの?」



「見た感じですが、子供があなたの服にアイスを付けてしまったのでしょう。」



「あら。それを分かっていて私の前に立つの?」



「ハハ。・・・・・あのですねぇ。子供のした事ですよ?大人ならもう少し広い心で、この位許してあげてもいいんじゃないかな。

・・・・・でも、許せないんなら、僕が代わりに弁償しますよ。」



「なっ!」



その女性は、徐々に顔を赤くし、僕を睨みつける。相当お怒りの様だ。



「・・・・・貴方、冒険者ね。私を誰だか知っているの?」



「すみません。僕はつい最近来たので、この国の事はまだ何も分からないんですよ。」



「そう。よそ者の冒険者ね。・・・・・じゃなきゃ、私にそんな態度はとれないか。・・・・・この子達は?」



すると、隣にいた頭のよさそうな初老の男が言う。



「東地区の道具屋の子供です。」



「分かったわ。・・・・・行くわよ。」



僕を睨んだ後、その女性は男達を連れてその場からいなくなった。





僕はすぐに、二人の子供に声をかける。



「大丈夫?」



「うん!ありがとう!お兄ちゃん!・・・・・ほら、リリも!」



男の子の後ろに隠れる様にしながら、顔を出して女の子はお礼を言う。



「・・・・・ありがとう。」



「うん。無事ならいいんだ。僕はレイ。君達は?」



「僕はランド!妹はリリっていいいます!」



するとリリがランドに悲しそうに言う。



「お兄ちゃん。アイスがなくなっちゃった。」



「リリ。レイお兄ちゃんが助けてくれたんだ。その位は我慢しようよ。」



僕は笑顔で二人の頭を屈んで撫でる。



「ハハハ。せっかくのアイスが台無しだね。そうだな。ここで出会ったのも何かの縁だ。こういう日は何かあるか分からないから、君達を家まで送ろう。で、出会いの印にその途中にアイスを奢るよ。どうかな?」



「えっ???いいの?・・・・・やったぁぁぁぁぁ!!!」



子供達は飛び跳ねて喜んでいる。



僕は両手で手をつないで、子供達を家まで送って行った。










☆☆☆










「レイ~!ありがと~!!!」



帰りの道中、すっかり仲良くなったランドとリリがアイスを食べながら、古ぼけた道具屋の前でブンブン手を振っている。



僕は手を振り返しながら、少し距離を取っていた仲間達とリンに合流した。



「みんな、ごめんごめん。あと、リンさんもすみませんでした。どうしてもほおっておけなくて。」



白雪が肩をすくめながら言う。



「いつもの事でしょ。ね、みんな。」



「だね。」



「・・・・・おう。」



「そうそう。」



「ハハハ。・・・・・でも、ちょっと気になるなぁ。」




そう。




ランドとリリを家の道具屋まで送ったのだが、両親に事情を説明すると、真っ青になっていた。



それが気になっていた。



すると察したのか、リンが僕に言う。



「レイさん。この国の力関係は少し特殊でして・・・・・。とりあえず、クランに付いたらこの国の事も含めて説明するわ。」




僕は頷くと、もう一度振り返り、二人に手を振って、リンの後について行った。










☆☆☆










「こりゃまた凄いな。」



バスみたいな変な乗り物に乗って数時間。



何重にもある壁を通過して、中央にある王城の次の壁までくると、そこはとても広い住宅街だった。



片側は、広い庭、豪華な門、高級そうな館が続いている。



そしてもう片側は、高い建物や、大きい館など、様々な館が建ち並んでいた。



「さっ。こちらですよ。」



変な乗り物から降りた僕達は、高い建物がある方へとリンと一緒に歩いて行くと、一つの高い建物へと着いた。



リンは振り返って、片手を広げて案内する。




「ようこそ。ここが、我がクラン『アークス』の本拠地です。」




見上げると6,7階はあろうか。レンガ作りのその館はビルの様に高かった。



何部屋位あるのだろうか。



クランというから、そこそこ大きいと思っていたが、こりゃ大規模クランだな。



僕達は館へと入ると、クランマスター室へと案内された。





「やぁ。レイさん。久しぶりですね!!」



「ええ!!この国に来たので、ぜひ、会いたいと思いまして!」




『アークス』のクランマスター、シュバインは僕と握手をし、仲間達を笑顔で迎えた。



大きなソファーがある椅子に通されると、リンがお茶を出してくれた。



シュバインはお茶を一口飲み、僕を見ると言う。




「しかし・・・・・色々と派手に活動してますね。この国・・・・・いや、世界中、どこに行っても貴方達の噂が出ない事はなかったですよ。」



「へっ?そうなんですか?」




思わずキョトンとしてしまった。そんなに派手な行動したかな?




「ハハハ。無自覚なんだから、ホント怖いね。」



シュバインは呆れながら続ける。



「・・・・・まぁ~それは置いといて。お互い、積もる話があるだろうから、早速、情報交換といきましょうか。」



「おっ!いいですね。」



「では、この国は初めてでしょうから、まずは、レイさんから質問してください。分かる範疇でお教えしますよ。」



「ありがとうございます。それじゃ、この国の事を教えてくれますか。」








5大国の1つ、強者の国『オロプス』。

・・・・・別名『冒険者の国』。



この国は、3つの勢力で成り立っている。



指揮系統の王族。政治の貴族。

そして戦闘、防衛の冒険者。



それぞれ役割はしっかりしていて、任された所以外は、よほどの事がない限り口を挟まない。



そんな暗黙の了解があった。



政治、経済は全て【7大貴族】と言われている貴族が取り仕切り、この国を発展させている。



この国を興した時から、7つの貴族が尽力し、

大国まで経済を押し上げたのだ。



だからこそ、この【7大貴族】の言う事は絶対だった。



そして、この国の戦闘、防衛は騎士や衛兵ではなく、冒険者が担っている。



全世界の半分以上がこの国にいると言われている冒険者。



この国に拠点を置く冒険者は全て契約として、この国の恩恵を受ける代わりに、敵や魔物が攻めてきた場合、全ての冒険者がそれに対応する事となっている。




これが、この国を【強者の国】と呼ばれる様になった由縁である。




兵隊の様に統率力には欠けるが、それを補って余るほどに、冒険者は強かった。



この国の冒険者のほとんどはレベル100以上だ。・・・・・そして200以上の冒険者もいる。



だからこそ、他の国が攻めてくる事など、まずなかった。



なので、国境に壁を作る必要がなかったのだ。



攻めてくる者などいないのだから。



そして王族は、2つの勢力に任せ、形式上、書類にサインする位だった。








「へぇ~。この国はそんな形で成り立っているんだ。」



「ええ。だからさっきリンに報告をもらいましたけど、ちょっと心配ですね。

・・・・・君が助けた子供達が。

 服を汚されたご婦人はおそらく、【7大貴族】の一つ、フォーフェン家のご婦人でしょうから。・・・・・そうなると、我々も手を出すことが出来ないんですよ。」



「なるほどねぇ。【7大貴族】は政治、経済で絶対なんでしたっけ。僕達は他の国の冒険者ですし、もし何かあってもシュバインさん達には迷惑をかけませんよ。」



「・・・・・私はレイさんとは今後もずっと親交を深めたいと思っています。だから、出来る限りの事はしますよ。必要な時は、ぜひ相談してくださいね。」



「ありがとうございます。」



「後は何かありますか?」



「そうですね・・・・・。実は、冒険者協会本部のマスターからSSS級に挑戦しないか打診がありまして、来月受けるんですよ。」



「えっ!そうなんですか?それは良かった!」




シュバインは嬉しそうだ。




「SSS級は現在9組しかいなくてね。その内の6組がこの国の冒険者なんですよ。」



「へぇ~!それはすごいですね。」




シュバインは今この国にいる、上位に君臨する5つのクランを説明してくれた。






まずは、最強クラン。



5つのパーティで構成されている

『ヒート(HEAT)』。



そしてその中のトップパーティ

【ゴースト】はSSS級。

更に天武祭の決勝で戦った【7剣星】もSSS級だ。




次に、シュバイン率いるクラン『アークス』。



この『アークス』は、クランであってパーティと言うから面白い。100人前後で構成されているが、1軍2軍みたいな形で、パーティを組み替えて冒険しているらしい。



もちろん、『アークス』のトップパーティもSSS級だ。




そして、『レッドパワー』。

『流星(シューティングスター)』。

『たぬき』の3つのクラン、パーティがSSS級なのだとか。




・・・・・最後は間違いなく日本のパーティだろうな。






「まぁ。そんな感じでね。トップクランが集まっている所だから、攻めてくる物好きな敵はいないんだよ。」




そりゃそうだろうね。




「でも、この国のトップクラン達も、注目しているパーティがいるんだ。・・・・・それが君達さ。まぁ、SSS級を君達が受けるのは至極当然だと思うよ。

試験内容は教えられないけど、君達ならきっとなれるさ。」



「ハハハ。ありがとうございます。」



「まぁ後は、君達と接触したいクランはトップクラン以外にも、いっぱいこの国にはいるだろうから、気を付けて行動をした方がいいかな。」



「そうですか。情報を教えてくれて助かります。じゃ、シュバインさんは何かありますか?」



「・・・・・まずはね、お礼を言おうと思ってたんだよ。なんと!前に君に情報を教えてもらった『天界』に行ってきたんだよ!」



「えっ!そうなんですか?!」



「君に聞いてからね。色々と旅をして、アルク帝国にある【天の塔】以外で、行ける所がないか探したら何とあったんだ。・・・・・で、暫く『天界』にいて、天界人の信用を得られてね、天界に『アークス』の拠点を作る事が出来たんだ。・・・・・今は一部のメンバーが留守番に行っているかな。」



「へぇ~!それはすごいですね!何もなく天界に行けたんですか?」



「あぁ。天界に通じる最後の扉でね、天界の幹部らしい人が立ちはだかったんだ。戦ったら厳しそうだったんだけど、君の名前をだしたら、喜んで迎え入れてくれたよ。」




おいおいおいおい。

そんなんでいいのか?【3大天将】!!!




「ハハハ。それは良かったですね。」



「でも、流石に天界の王には面会できなくてね。もし今度、君達が行くようなら紹介してもらえればと思ってね。」



「そうですか。まぁ僕も落ち着いたら行こうと思ってましたから・・・・・分かりました。機会があったら、話をしておきますね。」



「本当に?!それはありがとう!!!それで・・・・・。」






その後も、シュバインさんと有意義な情報交換をして別れた。






クランを出た時にはもうすっかり夜だったので、すぐにシェリーさんと落ち合って、シェリーさんおすすめの料理店でガンガン飲みまくった。










☆☆☆










「おはよぉぉぉぉぉぉぉ。」



頭が痛い・・・・・。



完全に二日酔いだった。



「おはよ。」



「はよ!」



「・・・・・おす。」



「いい朝だね!」




見ると、皆はとても元気そうだ。




毎回思うんだけど、何で君達はそんなに強いの?

お酒、同じ量飲んでたよね?



僕だけ頭を抱えながら朝食の席につこうとすると、玄関の呼び鈴が鳴った。





ん?





僕が玄関を開けると、そこには、先日助けたランドとリリがいた。



何かあった時にと、場所を教えていたのだ。



男の子は目に涙をため、その後ろにいる女の子は泣いていた。



僕はすぐに子供達と同じ目線に屈み、努めて明るく優しく話す。






「ランド。リリ。どうしたの?」










するとランドは、我慢していたのか、妹と同じ様に大声で泣き、僕に言った。










「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!

お兄ちゃん!!!!!!

家が!!!!!・・・・・家が!!!!!」



















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