第80話 戦後



「ちっ!!!硬いな。」



ワイバーン部隊のナガーリは呟く。





ここは上空5,000フィート。





2つの国の空挺部隊が激突していた。





その戦いは、お互いゆずらず、熾烈を極めていた。



ギリア軍、ワイバーン部隊2.000とアルク軍、飛空艇1.200隻は、すでにお互い半分位の兵力になっていた。





飛空艇・・・・・その中でもひときわ目立つ深紅の飛空戦艦。





おそらくあれが、アルク軍自慢の空挺部隊

『紅の鷹』部隊の隊長がいる戦艦。





何度狙って攻撃しても、びくともしない。





「しかし、硬いな。・・・・・これはどうやって落とすか・・・・。」



上空を飛び回りながら、ワイバーン部隊将軍ナガーリは再度独り言の様に呟いた。





すると、後方からワイバーンに乗った伝令兵がナガーリに叫びながら報告をする。




「ナガーリ将軍!!!報告です!!!・・・・・ギリア国・・・・・陥落!!!!・・・・・ギリア国・・・・・敗北です!!!!!」



「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」



ナガーリは茫然としながらワイバーンに身をゆだねていた。




・・・・・ばかな。負けただと?あの作戦でどうやったら負けるのだ?・・・・・何か我々には考えつかない事が起きたという事か?

ふぅ。・・・・・事実は事実として受け止めるしかないな。





ナガーリは、ワイバーンの脇に付いている発煙筒を出し、各部隊に合図を送る。




「全部隊!!!戦いは終わりだ!!!皆武器を捨て、降伏しろ!!!!!」





各部隊長が白旗をあげはじめた。






それを見ていた深紅の飛空戦艦に乗っているジョディが命令を出す。



「通信兵!全飛空艇に指令を!攻撃を中止しなさい!!」



「はっ!」



そう言うとジョディは、ため息を吐きながら船長の椅子へと腰を下ろした。




「ふぅ。まさか勝つとはね。戦況を聞いた時はもうダメかと思ったわ。・・・・・さて、今回なぜ勝てたのか本国へ帰ったらエリアスに聞かないと。

・・・・・でも、もう少しだけ戦いたかったわ。相手の動きも読めてきたというのに残念ね。」




ジョディは座りながら続けて指示をだす。




「いい?彼らギリア兵を捕らえたら、そのままギリア国へ向かうわよ!すぐに行動を開始しなさい!」



「はっ!!!」



近くにいる副官がすぐに通信兵へ指示をだした。










☆☆☆










首都『アルク』。その中心にある帝都の城。



会議が行われている大きな一室に伝令兵が駆け込んできた。






「急報!!!!急報です!!!!エアリス隊長率いる『鳳凰の羽』部隊がギリア国の宮殿を

占領!!!!教皇アラミアム=ローマとその一族を捕らえました!!!!!」




「なに?!」



思わずガイルズ皇帝は椅子から立ち上がる。




「さらに!!!ギリア国に向かっていたマルカス将軍も合流したと報告がありました!」




ワッ!!!!!!




集まっていた大臣達が抱き合い、喜びを爆発している。




ガイルズは緊張の糸が切れたのか、崩れる様に椅子へと座りなおした。




「何が・・・・・いったい何があったのだ?」




エリアス率いる『鳳凰の羽』部隊が正門へと行ってから数日が経った。



逐次、伝令兵が状況を伝えていたが、あまりいい戦況ではなかったのだ。



しかも、途中から伝令兵の情報も途絶え、今後、民や我々はどうしたらいいか、大臣達と一緒に考えあぐねていた。





そこへいきなりの勝利報告。





狐につままれた気分だった。





すると報告に来た伝令兵が察したのか、続けて報告をする。



「まだ確証はありませんが!!!!・・・・・あのレイ=フォックス殿が現れたとの事です!!!!

そして・・・・・ひゃ150万以上いたギリア兵を、あの方がたった1人で殲滅したと・・・・・

そんな情報が入っております!!!!!!」



「はぁぁぁぁぁぁ???何を言っているのだ?いくらなんでもそんなのありえないだろう!!!」




一人の大臣が言う。




「でも、どう考えても負け戦だったのだ。我々は逃げる算段をしてたのだぞ?」




更にもう一人の大臣が話に合わせる。




黙って聞いていたガイルズ皇帝は、大臣達に話しかける。



「・・・・・確かに、何かあった事は間違いないだろう。我々が想像もつかない事がな。

・・・・・まずは事実確認と、現状報告を続けてくれ。

 そして、ギリア国が落ちたのなら、すぐにその対応を考えねばな。

・・・・・皆、暫くは寝る事は出来んぞ!」



「ハッ!!!!!!!」




今までは民を出来るだけ逃がし、どう時間を稼ぐか話し合ってたので皆表情は沈んでいた。



しかし、今は、皆、喜びに満ち溢れ、何日も寝ないで会議しようが、ここにいる全員がやる気になっていた。










☆☆☆










「ただいまぁ~」




僕は家の扉を開いた。




「レイ殿!!!」



「レイさん!!!」



執事のセメルトとメイド長のリンが現れると、すぐに他の人達もやってきて僕達を迎えてくれた。




「レイ殿。誠に申しあげづらいのですが、この国の状況が今、切迫しておりまして・・・・・。」



「あぁ。その事?うん。とりあえずそれは解決したから安心して。」



「はぁ?」



セメルトがポカンとしていると、僕は続ける。




「その事は後で皆に説明するよ。・・・・・とりあえずは、新しいお客さんを連れてきたし、体も癒したいからゆっくり温泉でも浸かって、その後は、パァ~と慰労会をしたいんだけどいいかな?」




僕が言うと、皆安心したのか、緊張した面持ちが晴れやかな顔へと変わっていった。




「分かりました。レイ殿が言うのであれば問題ないのでしょう。・・・・・それでは、久しぶりにお戻りになられたので、精一杯、宴会の準備をさせていただきます。準備が終わるまでは皆さまゆっくりと温泉へお入りくださいませ。」



「ハハハ。ありがとう。」



僕は後ろを振り返って仲間に言う。




「さぁ皆!暫くはゆっくり休もう!!!今日は飲んで食べて騒ごうじゃないか!!!」



「おぉぉぉぉぉぉぉ~!!!」



皆手をあげて喜んでいる。





・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ。マジで疲れた。とにかく早く温泉に入りたい。・・・・・暫くはホームから動かないでゆっくりしよう。




そう思いながら僕は、皆を連れて温泉に入りに行った。










☆☆☆










アルク帝国の国民達は、各町に設置してある魔法鏡の前で今か今かと放送が始まるのを待っていた。





ギリア国が滅び、3日が経とうとしていた。





今日はアルク帝国皇帝が、全国民に向かって勝利宣言をする日だった。





「おい!始まるぞ!」




魔法鏡の前に陣取っていた一人の男が叫ぶ。



その周りにいる国民達が一斉に魔法鏡に目を向けた。




そこには、ガイルズ皇帝と周りに大臣、そして将軍達が立ち並んでいた。




ガイルズ皇帝がゆっくりと話始める。




「全帝国民の皆よ。知っての通り、我々アルク帝国は、度重なるギリア国の挑発に耐えたが、これ以上は危険と判断し、戦争へと踏みきった・・・・・。

 

 そして、予想外の出来事や、様々な思惑があったが、何とかこれを打ち破り、我々は勝利を収めた!!!


 皆よ!!!アルク帝国皇帝ガイルズ=レンベルは、ここにギリア国との勝利を宣言する!!!!!!!」





ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!




ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!





アルク国内の全ての町々で歓声があがった。





城の中まで聞こえた歓声を心地よく聞きながら、少し落ち着いた後に、皇帝は続ける。





「そして、帝国民の皆よ。アルク帝国が勝利できたのは、我々の力ではない。・・・・・我々だけでは、ギリア国の策略で負けたのだ。・・・・・確実に。


 それを、救ってくれた英雄がいる。・・・・・・そう!!!このアルク帝国、全帝国民が知っているあの御仁だ!!!


 200万以上で我が国を攻めてきたギリア軍の大半を、たった一人で殲滅し、我が国を救ってくれた御仁

・・・・レイ=フォックス!!!!!!!!」





ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!


ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!


ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!


キャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!






アルク国内全ての町々で更に大きな歓声や喜びが上がった。






「・・・・・皆よ。もう我々では、これに見合うだけの御礼をさしあげる事など到底出来ぬ。・・・・・だからこそ、アルク帝国、全帝国民に告ぐ!!!!!


 レイ=フォックス殿が困っていたり、頼み事があったりしたら、全ての事をやめ、それを一番の最優先事項として行う事!!!!!


 そして、レイ=フォックス殿の敵は、アルク帝国の敵とする!!!!!アルク帝国全軍で援護する事をここに誓う!!!!!!!!!!」





ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!








いつまでも・・・・・いつまでもこの歓声は鳴り響いた。・・・・・そして、数週間アルク帝国内はお祭り騒ぎとなった。










☆☆☆










真っ白いマントを羽織ったモデルの様な顔立ちの男が白い花を持って、大きな霊園の中を歩いていた。




その男は目的の墓石まで来ると、白い花を優しく置いた。




「・・・・・あれからもう3ヶ月経ったよ。ティンク。」




エリアスは、ティンクの墓石に向かって話はじめた。




「ギリア国に今は行っててね。国の統一や整備などで忙しくてこれなかったけど、やっと数刻だけ時間を貰って君に会いにこれたよ。」





墓石を見ながらティンクの事を想う。





「フッ。君を失ってから気づくなんてね。私は本当に鈍感な男だ。」







・・・・・生きてください。・・・・・そして、この国を・・・・・家族を守って。






ティンクの最後の言葉が頭をよぎる。






「あぁ。君との約束は忘れないよ。私は君の分まで生きて、この国を守ると誓おう。」





墓石に向かって優しく微笑む。





「・・・・・もう時間だ。すぐに【ゲート】を使ってギリア国に戻らないといけないんだ。・・・・・ちゃんと終わらせてから、今度はゆっくりと会いに行くよ。」





そう言うとエリアスは立ち上がり、霊園を後にした。










☆☆☆










僕は白雪と二人で霊園の入口まで来ると、見かけた人がこちらへと歩いてきた。




「エリアスさん!」



僕が呼ぶと、エリアスはパッと笑顔になって答える。



「レイ君と白雪ちゃんじゃないか!」



僕はエリアスさんの元へ駆けて、握手をする。



「久しぶりですね!あの正門の戦い依頼でしょうか。」



「あぁ。そうだね。」



久しぶりにエリアスさんに会った僕は、霊園の入口で暫く話し込んだ。






「・・・・・で、ギリア国の方はもう落ち着いたんですか?」



「ハハハ。まだまだだね。でも徐々にだが、形になってきているよ。君が残してくれた【ゲート】のおかげで人員の行き来が出来ているおかげでね。」



「そうですか。それは良かった。・・・・・それじゃ、エリアスさんが落ち着いたらゆっくりと飲みましょう。」



「ああ。約束だ。」




僕とエリアスは握手をして別れた。






墓の前まで来て、僕達はすでに置いてある白い花の隣に同じように花を添え、地球にいた頃の様に手を合わせた。





・・・・・ティンクさん。エリアスさんが来たんだね。フフフ。どんな話をしたんですか?僕達は、もうしばらくはゆっくりしながらこの国にいます。



だから・・・・・また来ますね。





僕達はゆっくりと立ち上がると、後ろから足音が聞こえた。




「・・・・・えっ?ティンクさん?・・・・・あっ。すみません。思わず・・・・・。」




振り返って見ると、髪は長くティンクさん程背は高くないが、一瞬見間違える程、雰囲気が似ていた。




するとその女性は笑顔で話す。



「いえ。・・・・・貴方はレイ=フォックス様ですよね。姉からよく聞かされていました。私はティンクの妹のミンクと言います。」



「えっ?妹さんですか?」



「はい。」



僕が驚いて聞くと、ミンクは笑顔で答えた。





僕は、墓石に向き直って話す。




「・・・・・すみませんでした。・・・・・もう少し早く僕が来ていたら、ティンクさんは死ななかったのかもしれません。」



「レイ様・・・・・そんな事おっしゃらないでください。・・・・・これは戦争です。

姉も覚悟はしていたと思います。エリアス隊長を守れたのですから、天国で胸を張っているに違いありません。」



「・・・・・そうですか。」




ミンクは、墓石を見ている僕の隣まで来ると、同じように花を添えながら話す。




「はぁ。実は今、落ち込んでいるんです。・・・・・それでお姉ちゃんに相談しようとしていたんです。」



「ん?どうしたんですか?」



「実は・・・・・。」



ミンクは、ティンクさんの様に国を守りたいと思い、兵に志願したのだ。



特に部隊の人数が少なくなって募集が出ていた『鳳凰の羽』部隊に。





『鳳凰の羽』部隊は最強と言われている部隊だ。人気は凄まじく、何万人もが受けていた。



その中でも、彼女の実力は他の人に比べ秀でていて、実技等のテストを上位で突破したのだが、隊長との面接で落とされたらしい。





ハハハ。エリアスさんらしいや。





それを聞いた僕は、白雪からメモ用紙と書く物をもらい、何かしら書いてそれをミンクに手渡した。



「ミンクさん。これは何というか・・・・・まぁ紹介状みたいな物です。これをエリアス隊長に渡してもう一度、この隊に入りたい気持ちを伝えてください。きっと良い返事がもらえると思いますよ。」



「・・・・・えっ!!!本当ですか?・・・・・ありがとうございます!!!」





ミンクは、紙を受け取ると、とても嬉しそうに頭を下げて、城の方へと駆けて行った。





・・・・・エリアスさん。気持ちは分かりますけど・・・・・ダメですよ。彼女はおそらく諦めないで他の部隊へと行ってしまうでしょう。それはダメです。


エリアスさんが指導して、見守ってあげてください。・・・・・ティンクさんの為にも。






「さっ。白雪。僕達も帰ろうか。」



白雪が頷く。





僕達はもう一度、ティンクさんの墓石に手を合わせて霊園を後にした。














〜死傷者。アルク兵70万。ギリア兵250万。〜



アルク帝国 対 ギリア教国。



大国同士の戦争は、全世界に衝撃を与えた。



そして、短期間でアルク帝国が勝利した事も。



これによって、西の大国と北の大国が統一され、アルク帝国は今までの倍の領土を手に入れる事となった。



アルク帝国が望まない戦いだったとしても。



この勝利で、全世界のパワーバランスが大きく崩れる事となる。



大国の中でもアルク帝国がひとつ抜き出てしまったのだ。



各国はアルク帝国を含む、世界会議を提案する。



アルク帝国はそれを受け入れ、落ち着いたら日程を調整して、初の世界会議が開かれる事となった。



ただ、表面上はアルク帝国が戦争して勝利した事となっているが、各国の首脳陣は知っていた。



ギリア国がほぼ勝利したであろう戦争に、

ある一人の青年が現れ、

たった一人で150万以上いたギリア軍を殲滅し、アルク帝国を勝利に導いた事を。










各国は、一斉にその者の情報を集めていた。













SS級パーティ『ホワイトフォックス』リーダー。













レイ=フォックスを。























~~~~~


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


これにて第4章は終了です!


まだまだ続きます!


これからも読んで頂けると励みになります!


よろしくお願い致します~♪



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