第79話 終戦



「皆!準備はいいか!!」




「オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」




体力を回復したエリアス率いる『鳳凰の羽』部隊は、門内にて戦闘態勢に入っていた。




「今、外ではレイ殿が戦っている!我々も出来る限り援護するぞ!

 ・・・・・・・開門!!!」





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





正門がゆっくりと開く。




騎馬に乗ったエリアスは皆に向かって叫ぶ。




「突撃!!!・・・・・・・・何?」





エリアス達が正門を出ると、そこには・・・・・・誰もいなかった。





ギリア兵が1人もいないのだ。



死体も含めて。



ここで何も起きなかったかのように辺り一面、草原が広がり、その先には森があった。



鳥の鳴き声が聞こえる。平穏そのものだった。




「・・・・・いったい何があったんだ?・・・・・あれは黒い天使?」



エリアスは馬上で呟いた。




この光景で唯一違う所は、数キロ先に彼が立っていた。そしてその後ろにはいつもの仲間が。



そして、彼の前には漆黒の羽を広げ3m近くあろう大きな女性と、同じような格好をした人間と同じ位の大きさの大勢の女性達が片膝を地面について跪いていた。










☆☆☆










「レイ。これでいいかしら?」



「ありがとうございます。シャインさん。」




戦ったギリア兵の死体や血は全て黒の一族によって処理された。


闇に吸収されたあれはどこに行くのか気になったが聞くのはやめた。おそらく気分が悪くなるだろうからね。




僕は改めてシャインにお礼を言う。




「今回はありがとうございました。シャインさん達、黒の一族がいなかったら僕達が負けてました。本当に助かりました。」



「フフフフフ。何を言ってるの?もう私達は貴方を主と決めているのよ?私達を呼ぶのも、そして生かすも殺すも貴方の命のままよ。

しかも、現界に来れて、これだけの魂を貰えたなんて。・・・・・ねぇ!娘達!!」



「ハイ!!!!!!!!!!!」



シャインも、黒の一族の娘達も、大量に魂を吸収した為か、全員恍惚の表情を浮かべている。



「ハハハ。生かすも殺すもって・・・・・。でも、誰一人欠けなくてよかった。これからもよろしくね。」



「ハイ!!!!!!!!!!!主の命のままに!!!!!!」




そう言うと、僕の影が一斉に広がり、彼女たちはその陰に沈んでいく。



沈んでいくシャインは僕の後ろにいるキリアを見て言う。



「キリア。これからもレイの言う事を聞いて、ちゃんと守るのですよ。」



「・・・・・お母様。・・・・・・任せろ。」



「フフフ。言わなくても問題なさそうね。もうすでに貴方の心は彼しかいないみたいね。・・・・・それではレイ。またいつでも呼んでね。あと、魔界へ来た時はもう変装しなくていいから。いつでも尋ねにきてちょうだい。」




ん?魔界へ行っても誤魔化さなくて平気になったのかな?




「はい。分かりました。また今度伺いますね。」



シャインは僕にそう言うと、闇へと沈んでいった。






「・・・・・終わったね。」


左にいる白雪が僕に語りかける。



「・・・・・ああ。」


僕が呟くと同時に、後ろから地鳴りが響いた。




振り返るとエリアス達率いる『鳳凰の羽』部隊がこちらへと向かっている。

先頭には馬に乗ったエリアスさんとその後ろにしがみついているアイリがいた。





僕は仲間を見て言う。



「さて、この戦争で家の皆が不安がっているだろうから帰ろうか!!

 あと、シャーベットさん。僕の家の料理長の料理はとても美味しいですよ!

 好きなだけ居てもらって、食べていいですからね。」



「ええ!!!!本当に?!!!!!」



シャーベットはラフィンの頭をクシャクシャにしながら飛び跳ねて喜んでいる。





・・・・・これ以上は僕達が介入しない方がいいだろう。


これは、アイリやエリアスさん達、国の問題だ。


あとは一つだけ封印した【ゲート】を開放して帰ろう。・・・・・・・はぁ。流石に疲れたわ。





僕達は、アイリやエリアスが来るのを笑顔で迎えた。





・・・・・北の大国 ギリアを殲滅・・・・・特別ボーナスが加算・・・・・レベルが大幅に上がりました・・・・・





無機質な声が僕の頭に響き渡った。










☆☆☆










「急報!急報!!!・・・・・アルク軍約10万が国境付近に現れました!!!!」



「何?!」



大臣達が集まっている部屋に伝令兵が飛び込んできた。



「チッ!早すぎる。・・・・・歩兵を置いて騎馬だけ先に来たか。」



バルバッサは舌打ちをしながら呟く。



「・・・・・仕方ない。すぐに【ゲート】の復旧に行っている全ての兵を集め、城門へ集めるのだ!籠城戦で、出来るだけ時間を稼ぐぞ!」



「ハッ!!!」



伝令兵はすぐに将軍へと伝えに駆けて行った。



「バルバッサよ。大丈夫なのか?」



教皇は不安そうに聞いてくる。



「相手はまだ10万です。こちらは3万ですが、籠城すればまだ時間が稼げましょう。ただ、もってもあと2日位でしょうから、城内へと攻め入られた情報が入り次第、我々は逃げます。それでよろしいでしょうか?」



他の大臣達が一斉に頷く。



「うむ。仕方あるまい。バルバッサよ。よろしく頼むぞ。」



「ハッ。」





バルバッサは部屋を出ると、足早に自分の部屋へと行き、荷物をまとめ始めた。





「・・・・・ここまでの様だな。まだ時間は稼げるが、集団で逃げると目立ちすぎる。この国になんの未練もないのでね。

 先に失礼させてもらおう。しかし・・・・あともう少しで私の計画が成ったと言うのに・・・・・後で原因だけは調査しないとね。」



独り言を言いながら、男の声から徐々に女の声へと変わっていった。



そして、老齢の男から若い女性へと体も変化していく。








スマイルスケルトン。3大幹部の一人。バルバッサ=ミールは荷物を片手に、闇の中へと消えていった。










☆☆☆










「なぁ。これから大丈夫なのかな?」



「分からないな。どうなるか。」



【ゲート】を見上げながら、衛兵達が話していた。



宮殿から数キロ離れた所に設置してある、【ゲート】は黒い物に覆われていて、入ることが出来なかった。



数時間前に、アルク軍が攻めてきたと報告があり、数人の衛兵を残して、全ての兵は城門へと行ってしまった。




「まぁ。俺達はとにかく、ここを監視・・・・・ガッ!」



「?!どうし・・・・アッ!」



いつの間に背後にいたのか、真っ白なマントを羽織った男達は、全ての衛兵達の首を静かに切った。



気づくと、【ゲート】に覆われていた黒い物はなくなっていて、中からエリアス達率いる『鳳凰の羽』部隊が続々と現れた。




エリアスが出てくると、先に衛兵達を処分した者達が報告をする。



「隊長。周りにいる兵たちは全て処理しました。」



「そうか。」



エリアスは、出てきた1万の『鳳凰の羽』部隊を前に言う。



「いいか!ここからは時間の勝負だ!周りには目もくれるな!我々の目的は、宮殿へ行って教皇とその一族の確保だ!!!・・・・・行くぞ!!!!!」



「ハッ!!!!!!!!!」





エリアス達『鳳凰の羽』部隊は一斉に宮殿へと駆けて行った。










☆☆☆










伝令兵が教皇、大臣達がいる部屋へと入って報告をする。



「報告!只今、アルク軍と城門にて戦いが始まりました!」




ザワッ




大臣達が顔を見合わせながらざわつき始めた。




「そうか。・・・・・始まったか。あい分かった。逐次報告せよ。」



「ハッ!」



伝令兵はそのまま駆けていった。



教皇は、ゆっくりと大きな椅子に腰かけ、ふといない参謀が気になった。




「バルバッサはどこにいった?」



「そういえば昨日から見かけてませんね。」



近くにいる大臣が答える。



「ふむ。・・・・・すぐに呼んでくれ。次の対策を練らんとな。」





バンッ!!!!!!!!





教皇が言った瞬間。



部屋の扉が勢いよく開くと、白いマントを羽織った兵達が一斉に入ってきた。



教皇や大臣達が座っているテーブルの周りにその兵達が囲む。



すると、扉から白いマントを羽織り、ひときわ立派な鎧を着た男が現れ、教皇を見て言う。




「・・・・・貴方が、教皇。アラミアム=ローマで間違いないな。私は、アルク軍『鳳凰の羽』部隊隊長エリアス=ノート。・・・・・ここにいる全員、我々と共にきて下さい。逆らうようなら・・・・・分かりますね?」



「・・・・・何故だ?・・・・・早い。早すぎるだろう・・・・・。」




教皇は愕然とし、肩を落とした。




そして、教皇達全員、兵達に連れられて部屋を後にした。










☆☆☆










「はぁはぁはぁ。」



「リール様!お早く!もうすぐです!」



リールは付き添いの者達に連れられて、脱出用の通路へと駆けて行った。





アルク軍が攻めてきたのだ。





教皇や兄、弟達は全て捕まってしまった。




「あっ!」



「ガッ!」



先導していた付き添いの者達が白いマントを羽織った兵達に切られていた。




「あなた達!」



すぐにリールは切られた付き添いの者に駆け寄る。



「・・・・・リール様。早くお逃げを・・・・・。貴方はこの国の希望です。・・・・・貴方だけでも逃げて・・・・・。」



そう言いながら、付き添いの者達は息絶えた。




すると道を塞いでいた数人の白いマントを羽織った兵士達がリールに話しかける。



「貴方は、アラミアム=リールで間違いないか?・・・・・我々と一緒に来てもらおう。」



そう言うと、その兵士達がリールへと近づいてくる。





・・・・・私はまだ死ねない!!あの方と会うまでは!!!・・・・・





しかし、震えて、足が動こうとしなかった。



兵が手をのばし、リールは目をつぶった。





ザンッ!!!!!!!!!!!!!





見ると、目の前にいた兵達は、細切れにされて地面へと落ちていった。





えっ?





「いけませんねぇ。女性に対して手荒いまねをするのは。」



細切れにされた兵達の後ろには、背の高い男が立っていた。



そのさらに後ろに若い男と女がいる。



「・・・・・ジョアン様。この者以外にアルク兵はいません。」



「そうですか。ご苦労様です。」



「貴方様は・・・・・。」



「あぁ。失礼しました。私はジョアン=キングと申す者です。貴方を助けに来ました。・・・・・弟が人生を全て捧げた女性を死なせるわけにはいきませんからね。」



「えっ?弟って?」



「いえ・・・・・。とりあえず今はこの二人に従ってください。・・・・・頼みましたよ。クリスト。ミューズ。」



後ろにいた二人は頷くと、リールに手を差し伸べる。



「さ、王女様。こちらへ。」



助手の二人はリールを連れて闇へと消えていった。





ジョアンは見送ると、フッと消え、宮殿の一番高い屋根の上に現れた。


そこで佇みながらアルク軍が攻めている光景を見ながら呟く。





「・・・・・私の仕事の邪魔をし、更には弟の計画を潰しますか・・・・・。

レイ=フォックス・・・・・一度、ゆっくりと二人だけで会いたいものですね。」










そう言うと、その男は闇の中へと消えていった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る