第77話 戦争7




「ん・・・・・。」





アイリはゆっくりと目を覚ます。




自分が今どういう状況か暫く把握することが出来なかった。





・・・・・そうだ。





レイ達を外に残し、私達は門の中へと避難したのだ。



そして、キリアに回復魔法をかけてもらってから記憶がない。



周りを見渡すと皆、眠っていた。おそらく回復だけでなく睡眠の魔法もかけたのだろう。皆の体を休ませる為に。





「・・・・・ハッ!・・・・・レイは?!」





空を見ると薄っすらと明るくなってきている。




もう夜明けだ。




という事は、半日以上寝ていた事になる。



正門を見ると開いた気配はなかった。・・・・・という事はまだ攻められていないという事だ。






どうなってるの???






アイリは急いで、門の上へと駆けあがった。



門の上には衛兵が数人立って外を見ていた。おそらく門の上まではキリアの魔法が届かなかったのだろう。






アイリが衛兵に向かって叫ぶ。



「皆さん!!!状況は!!!状況はどうなってるの?????」



「アイリ様・・・・・。」



1人の若い衛兵がアイリに気づくと、震えた手で外を指さす。



アイリが衛兵の隣に駆け寄り、手すりに身を乗り出して外を見る。






空が輝きだした。ちょうど日の出だった。



どんどんと明るくなり、外の情景が浮かび上がった。









そこは・・・・・・・・真っ赤だった。









門から見る辺り一面の地面は、ギリア軍の血で真っ赤に染まっていた。



そして、何か黒い物が見える。・・・・・それは上半身がなかったり、腕や足だけだったり、所々に欠損した死体が転がっていた。






衛兵が震えながら呟く。



「・・・・・こんなの・・・・・戦いとは・・・・・戦争とは言えません。・・・・・一方的な虐殺だ。」





あれは何?・・・・・黒い・・・・・天使?



アイリはギリア軍と戦っている、数千・・・・・いや万だろうか。

漆黒の羽を広げ、空を飛び回っている美しい女性達を見ながら思った。










☆☆☆










「たっ!助け・・・・・ヒッ!!!」




ザンッ!




「くっ!くるなぁぁぁぁ!!!!」




「ガッ!ガギュゥ!!」




バキバキバキ!!!ギュルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!







あれから半日以上が経とうとしていた。




ギリア軍100万以上と黒の一族1万の戦い。






その戦いは凄惨そのものだった。






黒の一族がもつ黒く鋭い爪や剣を振るえば数人、数十人が切り裂かれ、


黒の一族が何かの魔法を使えば、数十、数百人がブラックホールの様に飲み込まれバラバラにされた。




そして中央にいる3mはあろうか、目の前の青年を守る様に佇んでいるその黒い女性は、一言唱えるだけで、数万の兵の命を奪っていった。




エッジは兵に指示を出しながら戦況を見ていた。





「・・・・・ふざけるなよ・・・・・。」





次元が違う。




まるで相手にならない。




こちらのどんな攻撃も効かないのだ。




「将軍!!!準備ができました!!!!」



「よし!精鋭魔法部隊!!!あの中央の黒い女に一斉攻撃だ!!!!」




後ろに控えていた精鋭1万の魔法部隊が長い詠唱が終わったのか、

一斉に魔法を唱える。




「メテオ!!!」



「フレア!!!」




高レベルの魔法を扱える部隊が最大級の魔法をシャインに浴びせる。







ドドドドドドドドドドドド!!!!!ドンッッッッッッッッッッッッ!!!!!







あまりの魔法の威力に土煙が舞い、視界が煙で見えなくなる。





「やったか?・・・・・なっ!!!」





煙が晴れると、そこには青年と黒い女を覆うように黒いドームが出来ていた。




「ちっ!防御魔法か何かか?」




するとその黒い女は黒いドームを解くと、魔法部隊を見ながら言う。




「あら。現界の炎や爆裂魔法とはこんなものなのかしら?・・・・・なら黒の一族の炎系の魔法をお見せしましょう。・・・・・闇炎。」







ズッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!







本隊の数十メートル後ろに控えていた一万の魔法部隊とその周りの部隊が一瞬にして黒い炎に包まれた。



その黒い炎は全体はもちろんのこと、離れていた兵も少しでも黒い炎が飛び火し、触れると一気に広がり、体を焼き溶かした。



後ろに控えていた数万の兵達が黒い炎に焼かれた。





エッジは茫然とその光景を見ながら立ち尽くしていた。



半日以上が経ち、100万以上いたギリア軍は、この本隊10万だけとなっていた。






・・・・・何だ????何なんだ????どうしてこうなったのだ????

計画は完璧だったはずだ。



『鳳凰の羽』部隊にはてこずったがそれも予定の範疇だ。あと少しで100万以上いる兵を残し、正門をやぶりアルク帝国へと攻め入る事ができた。






何故だ?何故なんだ???






隣で戦況を眺めていたミッシェルが言う。



「ふぅ。・・・・・ここまでのようね。私はこれで失礼させてもらうわ。貴方はどうするの?一緒に来る?」



「俺は、この大軍の将軍だ。責任がある。・・・・・まだ我々の方が数は勝っているしな・・・・・必ず勝つ!!!」



「・・・・・そう。それじゃこれで貴方ともお別れね。【ゲート】の報酬だけど、もう8割は前金で貰っているから、残りの2割はいいわ。サービスしてあげる。いいものを見させてもらったしね。」




そう言うとミッシェルは何かを呟くと、後ろに人ひとり入れるくらいの小さなゲートが出来ていた。




・・・・・あれが、ホワイトフォックスのリーダー。レイ=フォックス。・・・・・彼は危険ね。とても危険。・・・・・顔も名前も覚えたわ。



「レイ=フォックス・・・・・いつか会いましょう。・・・・・さようなら。」



ミッシェルはそう呟くと、小さなゲートへと入っていった。



入ると、そのゲートはみるみるうちに小さくなっていき、そして消えていった。










☆☆☆










バンッ!!!




「どうなっておるのだ!!!」



ギリア教皇アラミアム=ローマは、激昂しながら会議室のテーブルを叩きつけた。



軍を【ゲート】から送り込んで5日が経とうとしていた。



当初は2,3日で帝都をおさえ、半分以上の兵を本国へ戻すはずが、

誰一人【ゲート】から戻ってこなかった。




一人もだ。




しかも、アルク帝国へ行き来できる7ヶ所設置した【ゲート】の内、6つが突然消えてしまったのだ。残りの一つも黒い物に覆われて使えなかった。




「バルバッサよ!どうなのだ?!」




参謀のバルバッサは答える。



「・・・・・この計画は完璧でした。相手に情報が洩れる事もなかったはずです。最後に連絡があったのが、正門を守っている30万の兵と相対した時。

 これも予想通り。200万以上いるわが軍ならすぐに殲滅して、帝都へ進軍するでしょう。しかし予定より倍近くかかっている。

 しかも、【ゲート】が消失。何かとてつもない不測な事態が起こったとしか言わざるを得ないでしょう。

 とにかく今は、急いで一つだけ残っている【ゲート】の復旧とこちらに進軍しているアルク軍の対策を考えねば。」





完全に予想外だった。





バルバッサは様々なケースを考え、計算していた。




もちろん不測の事態も。




だが、ここまで時間がかかり、更に【ゲート】が消失するなど、考えもしなかった。



【ゲート】はとても大きく、頑丈で普通の攻撃などでは破壊する事は不可能だからだ。もちろん、生命線の【ゲート】の守りを厚くする様にエッジ将軍には言ってあった。



しかし、現実はゲートは消失し、兵はまだ戻ってきていない。



私の予想だと、あと数日でこちらに進軍しているアルク軍が到着するだろう。



我が国に残っている兵は、だいたい3万位か。





「・・・・・まさか逆の立場になろうとはな。」



バルバッサは小さく呟く。



「何か言ったか?バルバッサよ!」



「・・・・・いえ。」




しかし、まだ分からない。我々が生存し、200万のギリア軍が皇帝を殺し、アルク帝国を占領すればこちらの勝ちだ。




「最終手段ですが、ローマ様。数からして進軍した我々の軍が負ける事は流石にありえないでしょう。

 ですので、兵を戻すことが出来ない場合は、ギリギリまで抵抗し、我々だけでも隠し通路で避難します。そうすればおのずとこちらの勝利となりましょう。」



「うむ。仕方あるまい。・・・・・後でエッジにはそれ相応の責任を取ってもらわんとな。」



「それでは、私は【ゲート】の状況を見てきます。」



そう言うとバルバッサは席から立ち上がり部屋を後にした。





歩きながら、バルバッサは思う。



・・・・・命にはかえられない。・・・・・いざという時は私だけでもこの国から逃げる準備をしなければな・・・・・。










☆☆☆










僕は思わず呟いた。



「・・・・・ここまでとはね。」






凄い。






圧倒的だった。






黒の一族の女性達は上空を華麗に舞いながら、ギリア兵をまとめて殺していく。まるで子供が無邪気に虫を殺すかのように。




そりゃそうか。




一人一人のレベルがあまりにも違いすぎるのだ。




僕よりも高いレベルの人達が1万だ。





相手になるわけがなかった。





見ると相手の数はみるみる減り、もう数万位しかいなくなっていた。





僕はゆっくりと歩み始めた。・・・・・敵の大将へ向かって。










☆☆☆










「将軍!!!ダメです!!!魔法も含めてあらゆる攻撃がまるで効きません!!!!!」





エッジは周りを見渡す。





本隊も10万いたが、すでに半分以下に減らされていた。



それでいて黒い者どもは、一人も倒せずに全て残っている。




「・・・・・まさか我々の方が蹂躙されるとはな・・・・・。」




こちらの敗北は確定だ。



200万以上の兵をなくした。



ここまでの屈辱は生まれて初めてだ。



正門の方へ目を向けると、青年がこちらへと向かって来ているのが分かる。










レイ=フォックス・・・・・・・・・貴様だけは!!!!!!!!










エッジはゆっくりと青年に向かって歩き始めた。
















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