第74話 戦争4
「・・・・・すごいわね。」
エッジの隣にいるスマイルスケルトンのミッシェルは思わず呟いた。
ギリア国。兵200万と魔族部隊30万、合わせて230万。
対してアルク帝国『鳳凰の羽』部隊30万との戦い。
なんと。開戦して3日が経とうとしているのだ。
1日で突破できると踏んでいたが、今だ正門を突破できずにいた。
こちらは昼夜とわず、交代で攻撃を仕掛けている。相手は休む事も出来ずに戦っているのだ。
ここまでくると、尊敬の念さえ覚えた。
「・・・・・でも、もうそろそろ終わりのようね。」
「ああ。」
エッジが答える。
今、門を守っている部隊は風前の灯だった。
もう、門の前には1万位しか残ってはいなかった。
・・・・・兵を削られた。
魔族部隊は半分以下に減らされ、同時にギリア兵も50万程やられた。
・・・・・しかし、まだまだ兵力はある。
ここまで兵力を失うのは予想外だったが、150万近くまだあるのだ。
誤算だったのは、エリアスが討てず、今も前線で立ちふさがっていたのが、
魔族と兵士達を大きく減らされた原因だった。
そして敵は、寝る事も出来ずにずっと戦っていた。明らかに限界だった。
さて。そろそろ、完全に息の根を止めさせてもらおうか!
「全軍!!!・・・・・突撃の準備をしろ!!!」
エッジ将軍が大声で指示をだす。
『鳳凰の羽』部隊よ。・・・・・フィナーレだ!!!
「突撃!!!!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
ギリア兵150万。魔族部隊13万。
そして、数百匹のドラゴンは正門に向かって一斉に戦闘を開始した。
☆☆☆
「もうもちません!!!アイリ様!早く帝都へお戻りを!!!」
1人の『鳳凰の羽』部隊の兵士が、門の上で戦況を見ているアイリに叫ぶ。
3日間。なんとか持ちこたえた。
しかし、圧倒的にこちらは不利だった。
相手は数を利用して、ずっと攻め続けてきたのだ。
こちらに睡眠をさせる程の休息を与えさせずに。
180度攻めてくるギリア兵や魔物に、彼ら『鳳凰の羽』部隊は、休む事なくずっと戦っていた。
3日間。・・・・・3日間ずっとだ。
そして、どんどん倒されていく。一人・・・・・また一人と。
特に隊長エリアスは、休憩もとらず、ずっと戦っていた。
いくらなんでも限界だ。
アイリは、門の上で、残り少なくなった『鳳凰の羽』部隊を見ながら思った。
すると、ギリア兵や魔物が一度、戦闘をやめて本陣へと戻っていく。
・・・・・そして、ギリア軍全ての兵士達が、魔物達が、陣形を整えている。
もうだめ。
これ以上戦ったら皆死んでしまう。そして、アルク帝国が滅ぼされてしまう。
アイリの頭には一人の青年が思い浮かんだ。
そして腕に付いている腕輪を見る。
・・・・・きっと貴方は私が助けを求めたら来てくれる。・・・・・絶対に。・・・・・でも、本当に彼を呼んでいいの?こんな絶望的な状況に。
いくら強くても相手は150万以上いるギリア軍だ。魔物やドラゴンだっている。
呼んでも勝てるわけがない。そんな所に彼を呼ぶなんて・・・・・でも・・・・・私には彼しか思い浮かばない。この戦況を変えられる人を。
・・・・・レイ・・・・・レイ・・・・・レイ・・・・・・・助けて。
アイリは腕輪を鳴らした。
☆☆☆
「アイリ。大丈夫か?」
腕輪の会話を切った瞬間。
アイリの後ろから彼の声が聞こえた。
振り向くと、そこにはレイがいた。そして仲間の4人も。
「・・・・・レイ!!!」
アイリは、レイに抱き着く。
「ごめんなさい!!!呼んでしまって。・・・・・でも、貴方しか頼れる人が思い浮かばないの。」
僕は優しくアイリの頭を撫でながら言う。
「何言ってるの?僕達は友達だろ?友達がピンチな時に頼ってくれなかったら逆に僕は怒るよ。・・・・・さぁ。状況を教えて。」
アイリは、現状の戦況を話した。
戦って3日経っている事を。そして、門を守っている『鳳凰の羽』30万の部隊が、残り1万になってしまっている事を。
対して、敵は、魔物を含め150万以上もいる事を。
僕は、外の状況を見ながら言う。
「・・・・・そうか。よく頑張ったね。・・・・・とりあえず、門の外にでようか。アイリにも頼みたい事があるんだ。」
そう言って、アイリと一緒に門の上から降りると、門内の周りには負傷者が大勢いた。
負傷者を治療しようと、回復師や治療士、医師達が駆けずり回っている。
そして、その端には死体が並べられている。おそらく治療したが助からなかったのだろう。
・・・・・・えっ?
何かに気づくと、僕はその死体が並べられている所へと向かった。
そして一人の遺体の前で、僕は立ち尽くし、そして両膝を地面につく。
「・・・・・ティンク・・・・・さん?」
目の前にティンクの遺体が横たわっていた。
「ティンクは部下の裏切りからエリアスを庇って・・・・・。」
アイリは絞り出すように言う。
・・・・・僕はティンクさんの遺体を茫然と見ながら過去の情景を想う。・・・・・
「えっ?何言ってるんですかティンクさん。僕がモテるわけないじゃないですか。」
「レイ殿は自分の魅力をまるで分かってない。私ももし、出会いが違っていたなら君に恋していたのかもしれない。
フフフ。今は私もエリアス隊長と同じように君を弟の様に思っていますよ。」
「弟ですか。何か微妙ですね。」
「ハハハハハ。レイ殿はもっと周りをみなさい。貴方を想っている素敵な女性がいるではありませんか。」
「はぁ・・・・・(誰だろう?)」
眠っている様なティンクの顔に、一粒。また一粒。・・・・・僕の涙がこぼれた。
「・・・・・いつか聞こうと思っていたのに。答えを教えてもらう前にいなくなってどうするんですか!!!」
涙が止まらなかった。・・・・・そして、暫く僕は動けなかった。
外は、地響きと怒号が響き渡っている。ギリア軍が一斉に攻めてきたのだろう。
キリアが僕の隣に来て、すまなそうに言う。
「レイ・・・・・・ごめん・・・・・死んでしまったら・・・・・魔法で生き返らせる事はできない。」
僕はキリアの頭を優しく撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。
・・・・・戦争が・・・・・こんな戦争があるからいけないんだ!!!
僕は門へと向かって行った。
門の外へと出ると、そのままエリアスがいる先頭へと歩いていく。
目の前には、左から右まで数えきれない程のギリア軍が押し寄せてきている。
先頭まで行くと、僕は言う。
「キリア。・・・・・・・壁。」
「ん。」
キリアは手をかざすと、土がどんどんと盛り上がり、門と『鳳凰の羽』部隊を覆うように、高さ8メートル程の半円の土壁が出来上がった。
そして、一緒についてきたアイリに言う。
「アイリ。『鳳凰の羽』部隊の人達に全員、門の中へ戻る様に言ってほしいんだ。皇女のアイリが言えば皆、聞いてくれると思うんだ。」
アイリは頷くと、すぐに兵士達に指示を出していく。
僕は先頭にいるエリアスを見る。
その姿は、全身返り血で、真っ赤に染まり、肩で息をしているが、剣を構え、動く事をやめようとしない。
おそらく、意識が飛んでいるのだろう。
シュン。
僕は瞬時にエリアスの隣に行き、肩をたたいた。
「エリアスさん。」
「???・・・・・ハッ!・・・・・・レイ君?」
「ご無沙汰してます。エリアスさんも、門の中へ戻って少し休んでください。・・・・・後は僕がやります。」
「・・・・・敵がどの位いるのか分かっているのかい?いくら君でも・・・・・。」
僕は話を遮って言う。
「エリアスさん。僕は久しぶりに怒りを覚えてます。ちょっと暴れたいので、皆には避難してほしいんです。・・・・・お願いできますか?」
「・・・・・分かった。それでは少し休ませてもらおう。でも、厳しくなったら声をかけるんだよ。」
「はい。」
そう言うと、エリアスは、まだ残っている『鳳凰の羽』部隊を全て門の中へと戻すと、アイリと一緒に入っていった。
僕はキリアに言う。
「キリア。門の中にいる負傷している人達を治してくれないか?・・・・・あと休んでもらって。」
「・・・・・分かった。・・・・・すぐ戻る。」
そう言うと、キリアは、門の中へと入り、すぐに手をかざす。
「・・・・・エリア回復。・・・・・あと、休め。」
手から発せられた緑色のオーラは門の中にいる全員にいきわたった。
「うっ、嘘だろ?」
1人の回復師がその光景を見て狼狽する。
なんと、腕や足がなくなった兵士達の体は元に戻り、全ての負傷した兵士達の傷が治っていったのだ。
そして、治ったと同時に、皆その場で眠りについた。
ここにいる、全ての人達は、3日間寝ずに見張り、治療し、戦っていた。眠りの魔法を使った瞬間にすぐに皆、眠りに落ちてしまったのだ。
アイリも例外なく眠りについた。
しかし、エリアスだけが、強い精神力でフラフラになりながら、歩いていた。・・・・・・・ティンクの元へ。
そして隣に膝をつくと、ティンクに語りかける。
「・・・・・ティンク。僕達の弟が来てくれたよ。・・・・・君と会うのはもうしばらくかかりそうだ。・・・・・ごめん。」
そう言うと、そのままティンクの隣で眠りに落ちた。
「・・・・・おまた。」
皆に魔法とかけると、すぐにキリアは僕の元へと戻った。
「ああ。ありがとうキリア。・・・・・じゃ、白雪。ラフィン。門を閉めてくれ。」
白雪とラフィンは頷き、正門がゆっくりと閉まっていった。
「よし。それじゃ、キリア。この壁を元の地面へと戻してくれ。白雪とラフィン、カイトは門の守りを頼む。一人も入らせない様にしてくれ。
ただ、数が数だから、キリア。強力な防御結界を張ってほしい。それで敵がその結界に入れない様ならわざわざ戦わなくていいから。」
キリアは頷く。
白雪が言う。
「レイ。私も、怒ってるんだ。・・・・・ティンクさんを知ってるのは貴方だけじゃないのよ。だから、もちろん門を守るけど、結界の中にいようとは思わないわ。・・・・・私も出来るだけ戦うわ。」
ラフィンが追従する。
「うん!僕も!」
カイトが二人を見て言う。
「じゃ、キリアだけはまずいから、僕は結界内から、弓で援護するよ。」
「・・・・・分かった。でも、無理だけはしない事。危なくなったらすぐに結界内へ戻るようにね。」
そう言うと、キリアは僕の隣にきて、小瓶を3本僕に渡す。
「・・・・・レイ。・・・・・レイが何をするのか大体わかる。・・・・・多分必要になるから・・・・・取っとけ。・・・・・まだ数本あるから・・・・・心配しなくていい。」
この小瓶はたしか、今までの冒険で何回かドロップしたアイテムだった。結構、レアな物だったので、キリアにあげた物だった。
【魔の泉】魔力を全回復する。
「ハハハ。お見通しか。ありがとう。キリア。」
そう言って僕は、壁の方へと歩いていった。
☆☆☆
「将軍!いきなり壁が現れました!!門に攻め入る事が出来ません!!」
「なんだと!?」
エッジは、ミッシェルを後ろに乗せて、馬を走らせ全軍の前線へと向かった。
「どけどけぇ!!!」
叫びながら中央の前線へと着いて見ると、高い土壁が門や兵を守る様に半円状に建っていた。
なんだと?・・・・・さっきまではなかったはずだ。どうなっている?魔法か何かの類か?しかし・・・・・予定外だ。・・・・・どうする?
エッジは馬から降りて、考えていると、土壁に変化があった。
なんと、エッジの前の土壁が徐々に砂に変わっていったのだ。そしてその周りの土壁もゆっくりと砂に変わっていく。
先に砂に変わっていった目の前には、見かけた事のある一人の青年が立っていた。
エッジに気づくと、ゆっくりとこちらへと向かって歩いてくる。
エッジは、周りにいる幹部に大声で指示を出す。
「いいか!俺の指示がでるまでは、ここで待機だ!!全軍にその事を伝えろ!!」
「はっ!」
そう言うと、エッジは、再度馬に乗り込み、全軍を後ろに、馬を走らせた。ミッシェルを乗せて。
馬を走らせている途中、土壁はゆっくりと砂へと変わっていった。
土壁がなくなっていき、中の状況が見えてくると、青年の後ろには・・・・・誰もいなかった。
まだ1万はいたであろう『鳳凰の羽』部隊が1人もいないのだ。
いたのは、正門の所に仮面を被った者が数人いる位だ。
・・・・・なんだ?どういうつもりだ?
エッジは考えていると、すぐに青年の近くへとたどり着いた。
エッジとミッシェルは馬を降り、その青年と対峙する。
「久しぶりと言った方がいいかな?・・・・・小僧。いや。もう有名人か。『ホワイトフォックス』のリーダー、レイ=フォックスよ。」
「あの山の出来事以来ですね。エッジさん。あの時は、挨拶も出来ませんでしたから。」
「ああ。そうだな。・・・・・で、なぜ一人でここにいる?今までここにはアルク帝国の兵士がいたはずだが?」
「・・・・・皆さんには少し休んでもらいました。・・・・・エッジさん。なぜこの国を攻めるんですか?・・・・・引き返す事は出来ませんか?」
レイからその言葉を聞くとエッジは大きな声で笑う。
「ハーハッハッハッハ!!なぜ攻めるのかだと?面白い事を言う。そんなの決まっているだろう!この国が欲しいからだよ!!この世界で一番資源が豊富で、様々な物に恵まれているこの国が!!!しかも、引き返せだと?100%勝てるこの戦いで引き返すわけがないだろう!!!
・・・・・まぁいい。時間稼ぎだろうが、もういいだろう。お前もこの国に肩入れした事を後悔して死んでいけ。」
「・・・・・へぇ。貴方がレイ=フォックスなのね。貴方にはあとで弟を助けてくれたお礼をしようと思っていたけど残念ね。・・・・・運が良ければまた会いましょう。」
エッジとミッシェルはそう言うと、馬にまたがり、待機している軍へと戻って行った。
馬を走らせ、全軍の前で止まると、エッジは片手をあげて大声で叫ぶ。
「正門を破壊し、アルク帝国を滅ぼすぞ!!!!!!全軍!!!!!!突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
150万以上いるギリア軍が一斉に正門へと向かって行った。
正門の少し先で佇んでいるその青年は、向かってくる150万の兵を見ながら、静かにつぶやいた。
「・・・・・・・・・ダークネストゥルー。」
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