第35話 別れ

何故か、夜中にふと目が覚めてしまった。






起きて見渡してみると白雪とカイトは寝ているが、師匠がいない。


この家は一軒家だが、あくまで一人用なので狭い。なので寝る時も一緒だった。






僕は二人を起こさない様にゆっくりと寝室をでて、家の外に出た。


外は、夜の様に暗かった。


うっすらと光が照らされている。


師匠が言うにはこの塔の天井は『日光石』というのが埋め込まれていて、日中はずっと光を発しているのだそうだ。


そして夜になるとその光が弱まり、夜の様に薄暗くなる。


だから一日が外を見なくても分かるのだそうだ。





すごい石だ。





僕はこの20階のひらかれた平原を見渡しながら、湖の先にある滝に向かっていた。


たしか師匠が滝の流れる水の奥にとっておきの場所があると言っていた。


そこに居るのかもしれない。




滝まで来て見上げるとほんとにすごいな。


滝である。


塔の中にだ。


水が勢いよく落ちていく。


どこから来てるんだろうか。




謎だ。




滝の流れる裏手にまわり、人ひとり通れる足場を通ると洞窟があった。


その洞窟に入ると、風が顔にあたる。




風?




そのまま進んでいくと、そこは外につながる空洞だった。





いた。師匠だ。





師匠は外を眺めながら、座っていた。



僕は師匠の隣まで行き、一緒に座った。






「すごい・・・・・。」






外を見ると夜空が広がり、星が輝いていた。下を見ると今いる場所がとても高いのが分かる。


20階だもんな。


そしてその先には固まった明かりが見える所がある。


西の果ての町ザークだ。






「ほっほ。すごいじゃろう。この眺めはほんとに絶景だからのぉ。」






・・・・・僕は黙って聞いていた。・・・・・師匠の声はとても弱々しかった。






「色々と旅をした・・・・・一人で強さをもとめた事もあったし、仲間と共に冒険を沢山した時もあった・・・・・楽しかったのぅ。」





・・・・・。





「最後の集大成として、この塔へ来たんじゃが、体力的に少し遅かったのう。もう少しだったんじゃが息切れしてしもうたわ。でも、満足じゃ。こうして最後に弟子ができて、残すことができたんじゃがらのぅ。」




「師匠・・・・・。」




「ワシは、神に選ばれたみたいでの。ハイヒューマンという種族になって今は590歳じゃ。寿命は500歳と聞いていたんじゃが。よく生きたわ。」




・・・・・どんどんと声が小さくなっていく。





「レイよ。教えた技は今後大きく役に立つじゃろう。お主の人生じゃ。思うように生き、好きなように生きよ。ただ一つだけ。どんな事でもいい、高みを目指してれるとうれしいのぅ。それが師匠の願いじゃ。」




「・・・・・この世界に来て自分がどうしたいのか正直まだ分かってません。だから今はやりたいと思った事を最後まで諦めないでやりたいと思ってます。でももし道を外れてしまったら師匠なんですから叱ってくださいね。」




僕は笑って答えた。






ルネは僕を見て優しくほほ笑むと、遠い夜空を見ながらかすれゆく声で言う。





「・・・・・楽しかった・・・・・ほんとに楽しかったのう。リィーネ・・・・・ジョイル・・・・・コイル・・・・・また会おう。」











風が吹き、髪を撫でる。



静寂が暫く続いた。



僕はルネの隣でずっと座っていた。









「レイ?」


振り返るとそこには白雪とカイトがいた。





「うん・・・・・。」





白雪とカイトも黙って僕の横に座った。





「とても優しい人だったね。」


白雪が言う。





「そしてとても強い人だった。」


カイトが言う。







「ああ・・・・・白雪、カイト。絶対に頂上まで行こう。そして師匠の、ルネの最後の冒険を一緒に達成させよう。」



「うん!」



「もちろんさ!」



僕たちは固く誓った。










☆☆☆









外が見えるあの洞窟に、ルネの墓を作った。


そして家にあった剣は頂上へ。仲間の印なのだろうペンダントはジョイルさんへいつか届けよう。






「二人とも。行くよ。」













ルネと呼ばれた、最強の冒険者がいた。


ある国では英雄として。ある国では伝説として語り継がれている。


天の塔へと行って帰らぬ人となったと言われていたが、


そこに住み。弟子を見つけ。


己の全てをその弟子に授けた事は誰も知らない。












☆☆☆












今、居るのは99階の入口だ。


そして僕のレベルは今248まで上がっていた。



何故、そんなにレベルが上がっているのか、それは21階から魔物と戦った時だった。



倒すと普通にレベルが上がったのだ。



レベルが100以上になると特殊な条件でないと上がらない。


不思議に思い、ステータスを見たら、師匠に学んだ新しい技が増えたのとは別に特別なスキルが付いていた。





『剣神の想い』


魔物を倒すと通常通りレベルがあがる。レベル250まで行くとその効果が切れる。





知らぬ間に師匠が最後に僕にくれたスキルだった。




このスキルがなければ、いくら技や剣を覚えたからといってレベルが上がらなければ


ここまでたどり着くのは厳しかっただろう。


しかも50階以上の魔物からはレベルが一気にはね上がっていった。





倒していくと、どんどん僕のレベルが上がった。





「さて。この階を攻略すれば、頂上だ。その前に一つ、聞きたい事があるんだ。カイト。レベル185なんじゃん。なんで?」




そうなのだ。僕がレベル200になった時にふとカイトを調べたら185と表示されていた。


たしか121のはずだ。


カイトはすまなそうな顔で事情を説明した。




「ごめん。レイ。僕のほんとのレベルは君が言ったように185なんだ。この指輪を付けていると自分のレベルより下なら自由に表示を変更できるんだ。」



「なぜそんな事を?」



「僕はちょっと特殊な種族でね。目立つ様な事はこの国ではどうしても避けたかったんだ。レベルがここまで高いと注目される。だから偽っていたんだ。レイには正直に話すか迷っていたんだけど、君はこの国の英雄だからね。それだけで一緒にいると目立ってしまう。だから隠してたんだ。この指輪は自分よりレベルが高い者には偽れないからね。」




そうだったのか。



カイトにも色々と言えない事もあるのだろう。



「・・・・・カイトの依頼が達成したら全てを話してくれるね?」



「ああ。もちろんさ。僕たちはもう仲間だからね!」



「うん。なら今は聞かないよ。あとはこの階だけだ。二人ともがんばろう!」



「うん!」



「ああ!支援はまかせてくれ!」





99階。




98階の魔物レベルは245だった。



普通に考えるともの凄い強さレベルなのだが、今までずっとレベルの高い魔物と戦っていたせいもあり、同じ位か少し自分よりレベルが低い相手と戦ってみるとこんなにも楽な戦いができるのかと驚いていた。




しかも、前と違って素人の剣じゃなく、基本は剣聖。そして技は剣神に教わった剣だ。


同じレベルなら負ける気がしなかった。




僕たちは99階を進んでいった。





先には魔物がいる。





ライオンの頭。蛇の尾。ヤギの胴。




僕も知っている。





キメラだ。




その先を見ると、このキメラが数体いた。




「アイズ。」


キメラ レベル248  




レベルは同じか。




他の二人は後衛にまわってもらっている。


レベルは白雪が198。カイトが185だ。


僕と同じようにレベルがあがるわけではないので、今前線で戦えるのは、自分しかいなかった。


白雪は常に僕の80%レベルだからなぁ。




それでも今の僕なら問題なかった。



「さて、行くかな。」



鞘を持ち、キメラへと歩いていく。



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