メインヒロインは、おとめで一途な幼馴染!
千馬いつき
天野白雪 乙女の恋心
「卒業生、退場」
後輩たちの合唱に合わせ、何度も練習した通りにすっと立ち上がる。
一糸乱れぬ綺麗な統率で、体育館の後ろへ歩いていく私たち。
在校生のブロックの合間と、保護者席のブロックの合間を通って、回れ右。
送別の歌に背中を押されながら渡り廊下に出た私たちを、満開の桜が迎えてくれた――。
終わったのは、私立
始めるのは、私、
「アルバムに寄せ書きしよー」
クラスのみんなで卒アルを交換し合い、三年間の思い出とか、お礼とかを書きあっている最中。
私はタイミングを見計らって、眼鏡をかけた女友達に卒アルを渡した。
「
「いいけど……あたしたち、このまま高等部へスライドするだけじゃないの。どうせなら会う機会が減る外部受験組の友達と――」
「いいから、いいからっ」
バッサリ切ったショートカット。生真面目な物言い。最終的に学力は自他ともに認める学年一位、三年連続で夏の総合体育大会女子テニス個人の部ベスト四入りを果たした、私の誇らしい幼馴染。
「――私ね、好きな人がいるの」
深呼吸して、そう告げた。そしてそのまま、相談に乗って欲しいんだけど、って言おうとしたら。
「――
「ぬわ!?」
可愛くない声が出ちゃった。
「ななな、なぜそれをっ!?」
「見てればわかるわよ……あの鈍感が気づかないだけで」
「う~……」
どうしよう、恥ずかしすぎて泣きそうだよ……。
「で、告白するの? なら、呼び出しくらいしてあげるけど」
「ちょちょちょ早い早い早いってば! 優花ちゃんストップ!」
スマホを取り出す優花ちゃんを、それどころか容赦なくチャットアプリの電話画面まで開く優花ちゃんを、なんとかして押し留める。
そう、私が好きな男の子――
「……ぜー、はー……焦ったぁ」
全身に鳥肌が立って変な汗出た。昨日美容院でセットしたはずの髪すら荒れてる気がする。
「呼び出し一つで大げさねぇ」
「優花ちゃんの度胸が鬼すぎるだけだよ!?」
「で、呼び出しじゃないならなんなの?」
「……陽太君、好きな人がいるみたいなんだよね。優花ちゃんならその人のこと知ってるんじゃないかなって」
勇気を出して、聞いてみた。
思い出すのは、今年の修学旅行のこと。恋愛成就で有名な神社で、たまたま陽太君が絵馬を書いているところを見てしまったのだ。陽太君が立ち去るのを待って確認すると『いつか、あの先輩と会えますように』と書かれていた。
あのときのショックの深さといったらない。でも、いつまでも引きずっていたらダメなんだ。だから私は、今日から変わる! 恋のライバルのことを知って、立ち向かうのだ!
「はあ? あいつが? んなわけないでしょ」
「い、いるよぉ、絶対いるもん!」
「その根拠はどこから来るのよ?」
や、それは……言えないけれども……だって、ねぇ? あんな乙女チックなことをしていたなんて、知られたくないだろうし……。
私としても、陽太君があんな可愛いことしていたことは、私だけが知っている秘密にしたいし……。
「い、いいからちょっとさり気なく聞いてみてよ!」
すると、優花ちゃんは躊躇いなくスマホを出した。だから私は、すかさず止めた。
「なななななにをする気!?」
「電話して聞こうかと……」
「私、さり気なくって言ったよね……!?」
「……ハ、ハイ」
お、おっと。顔を近づけすぎてしまった。
のけぞっていた優花ちゃんが姿勢を戻し、眼鏡の位置を直す。
「でさあ、アイツのどこがそんなに気に入ったわけ?」
「へ!? そ、それは……!」
そ、そりゃあ双子なわけだし、気になるよね……でも、恥ずかしい……! 言わなきゃ協力してくれないのかな……。
私が躊躇っていると、優花ちゃんは優花ちゃんなりに陽太君のいいところを指折り数え始めた。
「しいて挙げれば……『陽太リモコン』って言うだけでテレビとエアコンどっちか察して投げて渡してくるところ? 投げる力が強すぎるのは玉に瑕だけど、的中率百パーなのよね」
「家族をこき使っちゃダメだよ……怒らせてるよそれ」
「それとも……陽太のアイス黙って食べても怒らなくなったところ? テレビのチャンネル変えても文句言わずに自分の部屋に行くところ?」
「優花ちゃんお家じゃそんなわがまましたい放題なの!? それもうめんどくさいと思われてるよ、もっと仲良くしよう!?」
聞いてるだけで泣きそうだよ。
「で、結局なんなのよ?」
あ、やっぱり言わなきゃいけないんだ……。
でも、不思議と恥じらいはなくなった。たぶん、優花ちゃんに陽太君のいいところをわからせなくっちゃという使命感のせいだと思う。
「陽太君はすっごく優しいんだよ? よくみんなに教科書貸してあげてるところ見るし、みんな宿題でわからないところあると真っ先に陽太君探してるし」
「まあこき使いやすい雰囲気してるトコあるわよね、アイツ」
「優花ちゃんは一回陽太君に謝った方がいいよ。そして優しくしてあげて」
「いやよ!!」
「拒否が全力すぎるよ!?」
「で、それは外から見た陽太の評価であって、別に白雪が陽太に惚れる理由にはならないわよね? 白雪が陽太を好きになった理由はなんなの?」
「うっ……!?」
誤魔化されてくれない……さすが学年一位の女。
「ははあ、さてはその、左右のおさげの髪留めか」
「ぎくっ!?」
しまった、無意識のうちに青い鳥の羽がふかふかしている髪留めに触れていたらしい。
「褒められた? ――いや、女子のおしゃれにコメントするタイプじゃないし……まさかプレゼント? ――だとしても、アイツにそんな美的センスはないだろうし。だいたいそれ、
私は三姉妹の末っ子で、真ん中の姉が姫花お姉ちゃんだ。優花ちゃんや陽太君とは昔から家族ぐるみの付き合いがあるから、優花ちゃんたちのことは姫花お姉ちゃんもよく知っている。むしろ、二人の赤ちゃん時代も知っているから、記憶が曖昧な幼稚園時代のことなら私より詳しいかも。
「うん。この髪留めは、私の誕生日に姫花お姉ちゃんが買ってくれたの」
ちなみに正解は、この髪留めを作ったのが陽太君。――でした。
私もびっくりしたんだ、たまたま陽太君の席を通りかかったら、ちらっとこの髪留めのデザインが見えて。その日お姉ちゃんに聞いたら、この髪留め、フリーマーケットで買ったんだとか。
どういう流れでお姉ちゃんが手に入れてきたのかはわからないし、お姉ちゃんも陽太君が作ったものだとは知らなかったみたいだけど、これは陽太君の手作りって可能性がとても高い。
「……さすがに手掛かりが足らないわ。お手上げよ。教えてくれる?」
「う~ん……やっぱり秘密。これだけは教えられません」
なんとなくわかっていたけど、やっぱり優花ちゃんも知らないみたい。
もしかして……私の勘違いなのかなぁ?
でも、この髪留めを誰が作ったのかなんて、それはもうどうでもいいのだ。
陽太君が私の髪留めのデザインを描いていたことがきっかけとなって、私は陽太君を目で追いかけるようになった。
そして、陽太君の魅力的なところをたくさん知ることができた。だから。
「私はね、陽太君の人柄が大好きなんだよ!」
それだけは、胸を張って言える。
「白雪、意外と胸あるのね……」
「今言う!? 台無しだよ、色々と!」
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