著・星ぶどう

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919299070 


 治安の悪いk市に泥棒を招き寄せて一網打尽にする元泥棒・D博士の大発明「影になる薬」の物語。


 星新一のような、面白いショートストーリーだった。

 タイトルは「影になる薬」でもよかったかもしれない。

 文章の基本ルールに触れるのは脇に置く。

 三年前、男は普通のサラリーマンだったが、とある犯罪組織に騙されてお金を取られて会社が倒産してしまう。「苦労しても報われないのなら、楽をしてずるく生きていこうと決意した」男はスーパーで万引きをする。

 万引きGメンに現行犯で身柄を拘束され事務所ヘ連行後、店長や警備員に事情を問いただされ、和解不成立で身柄を警察に引き渡されたのだろう。

 男は会社が倒産した際、未払い賃金の請求ができなかったのかもしれない。職を失った場合、すぐにでも失業給付(雇用保険の基本手当)をもらいたいが、勤務先が交付した「離職票」をハローワークに提出する必要がある。

 突然の倒産だったのだろう。勤務先が解雇・退職に関する手続きが進まず、倒産直後から勤務先と連絡が取れない状況だった可能性も考えられる。この場合、ハローワークに行って事情を説明すれば、離職票などの書類が無い状態でも失業給付の申請手続きを進めてくれる。

 ただし、ハローワークで失業給付の手続きをするときに「雇用保険被保険者証」が必要だ。手元に無いときは、勤務先が保管している場合がある。なければ、ハローワークで再発行の手続きをしなくてはならない。

 未払い賃金を支払ってくれなかった場合、労働者健康安全機構の「未払い賃金立替え払い制度」が利用できる。そのためには勤務先が倒産したことを証明する書類を裁判所などから交付してもらわなくてはならない。

 これらの面倒な手続きを男がしたかどうかは不明だが、「苦労しても報われないのなら、楽をしてずるく生きていこうと決意した」ことから、手続きはせず未払い賃金をもらえなかったのだろう。

 なので万引きの際、示談金も払えなかったのかもしれない。そもそも、スーパーマーケットでどれほどの万引きをしたのだろうか。

 食パンなど四十点(販売合計金額四万五千円程度)を万引した人でも、示談金四万四千五百三十八円で不起訴処分となった実例がある。「余罪なし、共犯者なし、素直に罪を認めている」など、悪質ではないと警察が判断すれば釈放されることはあるのだが、男は釈放されず実刑が科されている。

 万引きでも実刑が科されるのは、主に再犯や常習的、あるいは集団や組織的な犯行の場合だ。 

 男は一人で行動している。おそらく初犯だ。なのに執行猶予がつかなかったのは示談が成立せず、被害者側のスーパーマーケットから許しをもらっておらず、被害弁償が済んでいなかったからだろう。

 あるいは過去に犯罪を起こしており、執行猶予中だった可能性が考えられる。

 男が勤めていた会社はとある犯罪組織に騙されてお金を取られ、会社が倒産している。勤め先の会社は、詐欺などの何か悪い商売をしていたのではないだろうか。あるいは、会社と犯罪組織は結託して計画倒産をさせたのかもしれない。

 金融機関もプロなので、脱法的な会社の倒産を見過ごすはずもない。倒産と同時に摘発。男の業務も計画倒産に関係していのだろう。社長ともども逮捕され執行猶予付きの有罪判決を受けたのだ。

 スーパーで万引きをした時はまだ執行猶予中だったため、三カ月ほど刑務所にいたのではないだろうかと勝手に邪推してみる。

 出所後、犯罪のしやすい場所へ行こうと思い、k市に引っ越した。

 それが二年前のことである。

 k市の治安が悪いのは、警察署がなく小さな駐在所が一つしかないため見回りが滅多にこないからだという。

 日本にある警察署の数は平成二十五年度で千百六十九箇所。日本の市町村の数は、平成三十年時点で市が七百九十二、特別区が二十三、街が七百四十三、村が百八十三。合計千七百四十一である。

 単純計算で各市に一つずつ警察署があるはず。とはいえ、お話のように警察署のない市もあるかもしれない。

 調べると、埼玉県入間市には警察署はない。そのかわり入間市は、狭山市と狭山警察署を分け合っている。治安は一部良くない地域があるものの、犯罪は年々減少傾向にあるという。

 治安の良さは、埼玉県七十二ある自治体のうち三十五位。

 埼玉県戸田市にも警察署はなく、戸田市の管轄は蕨警察署である。

 治安の良さは、埼玉県七十二ある自治体のうち六十五位なので、どちらかといえば悪い。となりの蕨市のほうが七十一位と悪い。

 国分寺市にも警察署もなく、小金井警察署が小金井市全域と国分市全域を管轄している。こちらの治安は良い。

 一概には言えないが、警察署があったほうが治安は良さそうだ。

 なので、犯罪しやすいk市に引っ越してきた男の判断は泥棒としては正しいだろう。

 窃盗で生計を立てている男は、コンビニ強盗が未遂に終わったその日。「日本政府はk市に警察署を設立し、市民の安全を守るため巡査の人数を増やすことを発表しました」とニュース映像をみる。

 警察署設立後、犯罪を犯した同業者が逮捕されていくのをみながら男は、ひとまず泥棒をやめることにした。その間にネット通販でみつける。D博士の作った妙な薬「影になる薬」を。

 薬を飲んで影に入れば影と同化し、日向に出ればもとに戻るという代物だった。

 影と同化、というのがよくわからない。

 異なる性質などが感化されて同じになることを同化という。

 つまり、影の中に入ると平面の影になってしまうということだろうか。体に身に着けているものも影になるという。大きな影に入れば大きくなるのかもしれない。

 三次元の人間が二次元になれるとはすばらしい。自販機の下に落ちている小銭も楽に拾える画期的な薬だ。

 盗んでは影に逃げ込むをくり返す男だったが、日が暮れだす。

 夜の闇は地球の影である。夜になれば、外灯やネオンサインなどの灯りにさらされない限り、いつまでも影の状態でいられるのだろう。おかげで、家の玄関の鍵をあけられない。二次元平面の影になっているのだから、隙間から家の中に入れなかったのだろうか。

 そもそも、この薬の持続効果はどのくらいなのだろう。一度飲めば、生涯に渡って継続されるものなのだろうか。だとすると、日常生活において、うっかり日陰に入ると平面になってしまうのは大変だ。日の光、日向に出ることでリセットされるのかもしれない。

 強い灯りをさがしていると、そこは警察署だった。

 一週間後、k市の治安はだいぶ良くなった。

 ということは、犯罪を繰り返していた常習犯は皆、影になる薬を購入して使用していたことになる。飛んで火に入る夏の虫のように、警察署の明かりの元に現れては一網打尽に捕まえられたのだろう。

 取材インタビューを受けたD博士は、自身が元泥棒だったとき透明人間に慣れたらと思ったことを生かして開発したと答えている。

 おそらく、元泥棒のD博士と警察や国が結託していたのだ。

 意図的に治安の悪い場所をk市に作り出し、犯罪者を集める。

 k市内に住んでいる人にむけた広告の地域ターゲティング機能をつかってネット通販で「影になる薬」の存在を知ってもらい、犯罪者たちに購入してさせては使わせ、一網打尽に捕まえる壮大な計画を立てていたのだ。

 おかげでk市の犯罪率は低下し治安は良くなった。

 ただ、このことが報道されると同じ方法は使えなくなる。なぜなら犯罪者側も、逮捕されないよう組織化し、巧妙な手口で悪いことをするようになっていく可能性があるからだ。

 D博士のDは、泥棒のDだろう。

 だとすると、k市は警察のkだろうか。

 こだわった作品を私も書いてみたいと思った。

 

 

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